2025年4月13日に開始した日本国際博覧会(大阪・関西万博)ではさまざまな新技術が披露されていますが、その中でもNTTグループが力を入れているのが次世代のネットワーク基盤「IOWN」です。万博会場内にあるNTTグループのパビリオンでは、IOWNをどのように活用してその実力をアピールしているのでしょうか。→過去の「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の回はこちらを参照。

「Perfume」の映像伝送でIOWNをアピール

大阪・関西万博が2025年4月13日より始まっていますが、大阪・夢洲の会場では広大な敷地に様々な国や企業のパビリオンが並び、さまざまな展示をしています。中でもテクノロジーに関心のある人達は、やはり新しい技術を活用した展示に関心を抱く所ではないでしょうか。

確かに万博会場では、「空飛ぶクルマ」などさまざまな新しい技術の展示やデモがなされているのですが、そうした新しい技術の展示に力を入れている企業の1つにNTTグループがあります。NTTグループは万博会場内に独自のパビリオンを設けており、これまでのコミュニケーションの進化と、今後のコミュニケーションに関する技術に関する展示をしているのですが、そこでフル活用されているのが「IOWN」です。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第10回

    大阪・関西万博のNTTパビリオンでは、NTTグループが注力する「IOWN」によるコミュニケーションの進化をアピールしている

IOWNは光技術を活用した新しいネットワーク基盤であり、現在NTTグループがその開発に力を入れているもの。今回の大阪・関西万博は国内だけでなく、海外にもIOWNの実力をアピールできる機会となるだけに、NTTグループのパビリオンではIOWNを活用したコミュニケーションの進化をアピールしています。

大きな関心を呼んだのは、IOWNを活用したリアルタイムでの空間伝送体験でしょう。これは大阪府吹田市にある万博記念公園とNTTパビリオンをIOWNのAPN(オールフォトニクスネットワーク)で接続し、万博記念公園で実施された音楽ユニット「Perfume」のパフォーマンスを3Dの点群データにし、さらに触覚振動も遅延なくNTTパビリオンに送ることで、空間そのものを伝送したかのような体験ができるというものになります。

そしてパビリオン内では専用のサングラスを装着し、伝送された映像を3Dで視聴することにより、離れた場所に空間ごと伝送したかのような体験ができるようになっています。もっともPerfumeによるパフォーマンスは2025年4月2日に実施されたもので、パビリオン内で体験できるのは当日と同じデータを伝送しての再現となる訳ですが、それでも迫力ある映像と振動でリアルな体験ができることは確かです。

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    パビリオン内で体験できる、IOWN 1.0のAPNを用いた空間伝送。遅延なく伝送されたPerfumeのパフォーマンスを3D映像で視聴できるだけでなく、振動も体感できる

「IOWN 2.0」で映像分析の消費電力が8分の1に

しかし、空間伝送体験は、どちらかといえばAPNを用いた従来のIOWN 1.0の範囲内で実現しているもの。今後のIOWNの進化を見据えるうえで重要なのは、もう1つの取り組みになるでしょう。

それは人の感情や感覚を、モノと連動して表現するコミュニケーションの仕組みになります。これはNTTパビリオン内に訪れた人の表情をリアルタイムで分析し、笑顔が多いほどパビリオンの外側を覆う幕が大きく揺れ、その盛り上がりを伝えるものになります。

こうした仕組みは従来のコンピューターでも実現できるのですが、最大のポイントは分析処理に「IOWN 2.0」の技術を用いることで、消費電力を8分の1に低減していることです。

IOWN 1.0では既存ネットワークの200分の1という低遅延を実現しましたが、一方でIOWNが掲げる、従来の100倍となる電力効率の向上を実現するには、デバイス内に光の技術を用いる「光電融合」が不可欠とされています。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第10回

    パビリオン内の人の顔を分析し、笑顔が多いほど外側の幕が揺れるという仕組みも用意。「IOWN 2.0」の技術を活用することで、従来の8分の1の消費電力で処理できるという

そのための次のステップとされているのがIOWN 2.0で、コンピューターのボード上にある半導体チップを光電融合デバイスで接続することで消費電力を低減。それに加えて、第2回で紹介した、状況に応じて必要なコンピューターリソースを割り当てる「DCI」(データセントリックインフラストラクチャ)を取り入れた「IOWN光コンピューティング」によって、消費電力を従来の8分の1に低減するとしています。

IOWN光コンピューティングはこれまでにも実証が進められてきましたが、今回の大阪・関西万博ではそれを実用として公に披露する初めての事例となるようです。実際NTTパビリオンの裏側には、光電融合デバイスを用いてボード内のチップを接続している「光電融合スイッチ」と、GPUなど必要なコンピューティングリソースを備えたコンポーザブルサーバを設置。

それを「DCIコントローラ」というソフトウェアで制御し、コンポーザブルサーバのリソースを適宜割り当てることで、消費電力を抑えながら分析処理を実現している様子を見ることができました。

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    実際に動作しているIOWN光コンピューティング関連の設備。最下部が光電融合スイッチ、真ん中がコンポーザブルサーバとなる

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第10回

    コンポーザブルサーバの中身。複数のGPUとSmartNICを搭載しており、ハードウェア主体の処理と必要に応じたリソースの分配によって低消費電力を実現する

公にできるだけの技術開発が進んでいるだけに、IOWN 2.0ひいてはIOWN光コンピューティングの商用サービス提供は2026年とそう遠くない時期を目指すとしています。ただ、光電融合スイッチはラック1つ分を占めており、サイズはかなり大きいことから、やはりそれだけの大きさを許容できる、データセンターでの利用が主になるようです。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第10回

    光電融合スイッチの内部。チップの周辺に光エンジンが16個設置され、チップを光で接続する仕組みとなるが、サイズはかなり大きい

ただ1つ、気になったのはその展示内容です。先のPerfumeによるデモとは違って、会場に訪れる多くの人からすると、事前に展示の企画意図や説明を受けていなければ、単にパビリオンの表面の幕が揺れているだけにしか見えません。

また、パビリオン内にいる人も自身の行動によって変化する幕の揺れを直接確認できず、先端技術の実力が伝わりにくい印象を受けてしまいます。技術が着実に進化していることは実感できるものの、それを分かりやすく伝えるという部分ではやや課題もあるのではないでしょうか。