【論考】〈10月4日の自民党総裁選に向けて〉「骨太の国家ビジョン」を今こそ示すべきとき!

  国を背負うリーダーとして

 「日本をどのような国にするのか。骨太のビジョンを示すとき」とは某経済リーダーの提言であり、現在の政治状況を踏まえての苦言でもある。ウクライナ戦争など各地の紛争が止まない中で、日本の使命と役割について明確な姿・ビジョンを示すべきという声が少なくない。

 日本の経済的地位が低下し、「とにかく魅力ある国にしないと、企業は成長を求めて海外へ向かう」(某経済団体トップ)と憂う声もある。そんな中で自民党総裁選が10月4日に行われることになった。

 本号の発売は総裁選が告示された直後で、執筆時点で出馬を表明しているのは茂木敏充氏と小林鷹之氏の2人だが、高市早苗氏と小泉進次郎氏、林芳正氏も出馬する見込み。

 ただ、候補者たちの間での台詞は「これから仲間たちと相談して政策を発表する」というもの。これからの日本国を背負うリーダーとして迫力を欠いていやしないか。

 日本国のリーダーを志向するのならば、「自分は日本をこういう国にしたい。内外の課題解決に向けて日本の役割はこうである」という政治哲学なり、ビジョンを示しておくべきである。付け焼刃の政策で日本国の再生ができるほど生易しい状況ではないことを肝に銘じるべきだ。

 若者の政治離れも

「国を語る政治家がいなくなった。1人2万円の給付など目先の政策ばかりが目立ち、将来の日本の姿を見据えた上で、国民にも耳の痛い政策を訴える覚悟が求められる」という声は多い。

 ややもすると、国民ウケを狙っての減税策やバラまき策ばかりが先行し、人口減、少子化・高齢化という流れの中で、どうすれば日本の成長を担保できるのかという政策論議が聞かれない。

 そうした政治が続く中で、若者の政治離れも広がる。某スタートアップの経営者(29歳)は「自分たちの払う年金や社会保険料が若い世代にどう跳ね返ってくるのかも分からない。

 高齢化問題ばかりが焦点となり、日本の展望・道筋が見えない。それで若い世代は今の政治から離れていくのだと思う」と答える。

 いま日本の国民負担率(税金と社会保険料の負担)は46%。つまり〝五公五民〟の状態。社会福祉が進む北欧などと比べると低い負担率だが、国民の間では物価上昇が続く中で重税感がある。北欧では国民負担率は高くても1人当たりGDP(国民総生産)は日本より遥かに高い。

 国民の幸福感、生き甲斐が高いのはなぜかという論考も必要だ。

 その意味で、政治のリーダーは真剣に国のあるべき姿を国民に発信し、国民の側もまた〝権利と義務〟の関係を考え直さなければならないときを迎えている。

 人と人のつながりや環境問題を含めて、本来、中長期的思考を持っているはずの日本である。そういう日本の良さを、この厳しい環境下においてこそ発揮すべきときではないか。

 市場の反応を注視すべきとき

 日本の再生を図り、地方創生を実現していくことに加え、混沌とする国際秩序をどう立て直していくかという分岐点に今はある。

 「100年に一度の時代の変革期」というときである。

 いま、米トランプ政権の高関税策が世界経済に影響を与え始めている。これまでは高関税策が世界経済を縮小させ、そのことが経済の縮小を進め、〝スタグフレーション(不況下の物価高・インフレ)〟を招くのではないかと見られてきた。

 しかし、メーカー側が関税上昇分を自己負担して何とか凌ぎ、業績を維持しているのが現状。株価も今のところ順調だ。しかし、各国で自国第一主義が浸透し、国民のウケを狙ってのバラまき政策で財政負担が増し、国債の信認低下という現象が表れ始めている。

 そのことは国債価格の下落、つまり国債金利の上昇という現象の招来である。長期金利が上昇し始めているのも気がかりである。国債はどの国にとっても無限に発行が許されるものではない。市場の反応を注視すべきときにある。

 マクロ経済の専門家はトランプ政権の高関税策について次のように語る。

「今のところ米国の消費行動は強いし、メーカーの努力もあって世界経済はそれほど悪くなってはいない。今年度後半はその状況が続き、影響が出るとすれば2026年度からではないか」と分析する。

 肝心の米国の動向はどうなるのか。「商品の値段を上げても買ってくれるという購買力は、そこそこある。輸入品は米国内で作れないモノが大半だ」という専門家の指摘。

 トランプ政権は米国内でモノを作れば関税はかからないとし、「米国でモノを作れ」と各国に促す。

 しかし、明日にでも日本から生産拠点を米国に移し、高度な製品を米国内で作り始めることは簡単ではない。となると、米国内での物価上昇は続くことになる。

 米国民が国内で作れないのだから海外製品を買う以上、値上げ圧力がかかってくるからだ。つまり、スタグフレーションの可能性は依然として残る。

 とはいえ、米国はGAFAM(グーグル、アップルなど最先端産業)を中心に成長を遂げているのが現実。一方で、ものづくり(製造業)などの力が弱まり、このことは防衛・安全保障にも必ず影響を与える。

 米中対立が進む中で、少なくとも同盟国やEU(欧州連合)との関係を壊すわけにはいかないという事情も米国自身は抱える。

 こういう状況下で日本の立ち位置をどう図るか。経済安全保障という考え方なしにグローバル展開ができなくなっているのが現状で、当面この状況は続く。トランプ関税があろうとなかろうと、一国で経済運営はできない。サプライチェーン(供給網)をどう構築していくかという命題を抱える。

 日本も、経済安全保障を盾にすれば、自国の産業を育成できる。例えばAI(人工知能)やロボットなど、欧米に比べて後れをとっている分野を取り返していくこともそうだ。経済安全保障が重石となっている現状下、これまでのように安い製品を海外から買ってくれば済むという時代ではなくなった。

 国が産業政策にどこまで関わるかという国の役割。そして何より新しい事業領域を自力で、あるいは内外の企業との連携で主導権を取りながら開拓していくという前向き精神が企業には求められる。その潜在力はあると思う。その潜在力を掘り起こすときである。