久保利英明の【わたしの一冊】『 弁護士不足 日本を支える法的インフラの危機』

政治も経済も崩壊する日本には弁護士が足りない

 本書は内田貴東京大学名誉教授の編著であるが、中身は、日本の弁護士が数においても質においても不足しているという悲鳴にあふれている。サプライサイドの弁護士が自らこうした声を上げていることは、法的サービスのユーザーたる国民にとって、実は深刻な事態である。

 四半世紀前に閣議決定までして、司法国家へと大きく舵を切ったはずなのに、その改革は所期の目的を達せなかった。裁判官や検察官は増加せず、弁護士数も先進諸国や中国が急速な伸びを示す中で、未だに5万人に達していない。ロースクールが設立され、資格試験に変わったはずの司法試験は競争試験として放置され、受験生が予備試験に流れたため、理想とされたロースクールは司法試験予備校に変質してしまった。

 その結果、法学部やロースクールの人気は落ち込み、新法曹の輩出は司法制度改革審議会が提言した毎年3000人の半分にとどまっているという。世界の現実を見れば、弁護士は法廷を離れ、国内外を問わず相談や交渉という法的サービスの担い手に変化している。

 特に国際弁護士や知財などのエンタメ、特許弁護士の不足は企業の国際競争力の劣位をもたらし、国家間紛争や国際取引における交渉力の弱化に直結しているという。たしかに、行政官僚の不人気は著しく、東大卒業生は官僚への道を捨てて、高給取りのコンサル志望が急増している。しかし、日本がゆでガエル状態から抜け出し、失われた30年にピリオドを打って、低迷するGDP(国内総生産)を回復させるには弁護士が起業したり、AI(人工知能)ガバナンスを活用したサービスを提供する必要があるだろう。

 日本の弁護士が旧態依然で良いのか、この国難の時代に裁判とは無縁な市民や企業に日本の法化と合わせて日本の未来を考えていただきたいから本書を著したと語る著者たちの声を無視することは、日本の未来を失うことにならないだろうか。

冨山和彦の【わたしの一冊】『国宝』(上・下)