
日銀は7月31日に公表した「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)で、物価の中心的な見通しについて、「これまでの原油価格上昇が、エネルギーや財を中心に価格を押し上げるほか、グローバルなAI(人工知能)関連需要の増加に伴う半導体価格等の上昇や最近の為替円安が耐久財等の価格上昇につながる」として、2026年度後半以降に消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比で「2%をはっきりと上回る水準まで伸び率を高めていくと予想される」と記した。さらに、こうした見通しのリスクは上振れ方向にあるとの認識を示した上で、日銀が重視する概念である「基調的な物価上昇率」が「物価安定の目標」である2%を超えて「上振れていくリスクが顕在化し、それがその後の経済に悪影響を及ぼすことがないよう」、2%程度の水準で安定させていくという観点が重要になると強調した。
「基調的な物価上昇率」が目標から上振れることのないよう金融政策で調整を加えるということは、これまでの半年程度という利上げの平均インターバルにとらわれず、より早いタイミングで利上げを行うことが妥当になり得ることを意味している。
6月の金融政策決定会合で、今回の局面では5度目の利上げを行った後、従来の平均インターバルに沿うと次は12月か来年1月になるが、それより早く、9月ないし10月に動く可能性ありという含意である。
植田和男日銀総裁は同日の記者会見で、「物価の上振れリスクを意識する必要がある」とした上で、「こうした認識を持って、次回以降の決定会合において、しっかりと議論してまいりたい」と表明した。
ひとつ難しいのは、こうした日銀の早期追加利上げ検討の方針が、為替相場の行き過ぎた円安是正に向けた日米政府の協調行動と絡み合っている点である。報道によると、米財務省が円買い協調介入に乗り出す上では上記の植田総裁発言が決め手になったという。
為替相場をターゲットにした金融政策運営は先進国の中央銀行がとる行動としては望ましくないというのが、伝統的な見解である。今回の場合、円安進行をなんとか止めようと日銀が利上げを急いで積み重ねていくと国内経済への目配りがおろそかになり、景気の腰折れにつながる恐れが出てくる。
また、利上げをペースアップして重ねていく場合には、ターミナルレート(利上げ局面の終着点)に到達して利上げが打ち止めになるタイミングも、それだけ手前に引き寄せられることになる。日銀の利上げの打ち止め感は、市場で思惑的な売買を行うプレーヤーにとっては格好の円売り材料になる。
為替にらみの度合いが高い金融政策運営は、やはり危うい。「国際協調」に巻き込まれて日銀の金融政策運営の「自主性」が低下してしまうのは、国内景気・企業業績のリスクを高める話である。