新浪剛史氏のサントリーHD会長辞任の教訓

経済同友会活動も自粛、 同友会の存在意義も問われて─

 サントリーの〝決断〟

 9月2日、産業界に激震が走った。

 サントリーホールディングス(HD)会長の新浪剛史氏が1日付で会長を辞任。さらには、経済同友会代表幹事の役職を当面〝停止〟するという。

 サントリーHDの会長辞任の理由は「違法容疑のサプリメントの件で警察の捜査対象になっている」から。経団連、日本商工会議所と並ぶ経済三団体の1つ、経済同友会のトップがサプリメントに含まれる違法薬物に関連して、活動を自粛するという異例の事態に陥った。

 新浪氏は経済同友会のトップとして様々な発言をしてきた人物であるだけに「大変遺憾に思う」(某経済リーダー)という反応。経済リーダー・産業人をはじめ、国民の目は厳しくなっていくと思われる。

 一方で「これはあくまで新浪氏本人の行動の責任に伴うもの」と冷静に見ている人も多い。

 こういう不祥事に企業としてどう対応していくか。また、経済団体トップとして、どうケジメをつけるかという命題。折しも、先の参院選の結果を巡って石破茂首相が自民党総裁を辞任するかどうかという局面に立たされており、国政が停滞する状況に置かれている。

 リーダーの振舞い、行動に厳しい国民の目が注がれているだけに、今回のサプリメント騒動は多くの教訓を残す。

 今回の事件の発端は8月21日深夜に、新浪氏からサントリーHD執行役員宛に「購入したセプリメントの件で疑惑が生じている」という電話連絡。翌日正午過ぎ、新浪氏から「警察の捜査が行われた」という旨の連絡があった。

 新浪氏本人は米国で時差ボケ対応のためサプリメントを購入し、「購入したサプリメントは適法だと認識し、購入した」と説明。福岡県警の家宅捜索では、新浪氏の自宅で違法薬物は見つからず、簡単な尿検査でも薬物は検出されなかった。この件については今も捜査が続く。

 しかし、サントリーHDの対応は早かった。サプリメント業界のトップである同社としては、捜査結果が確定していない状況だが、サプリメントに対する正しい認識を欠いた新浪氏に「経営トップとしての資質を欠き、会長としての要職に堪えない」という判断を下した。

 新浪氏は8月23日から米国に出張。9月1日に帰国した新浪氏と社長の鳥井信宏氏が直接話し合い、最終的には本人から「一身上の理由により役職を辞任する」という申し出を受けて受理するという形を取った。

 記者会見した鳥井氏は「青天の霹靂。これは深刻な問題になると思った。とにかく早く対応を」と考え、組織としての取りまとめに動いた。リスク検討会議や緊急対策本部を直ちに設置し、取締役会を開催。帰国した新浪氏と協議し、『辞任』という結論に至ったという経緯。

 鳥井氏は創業家出身で、今年3月に新浪氏から社長職を受け継いだばかり。これまで二人三脚でサントリーHDの経営を担ってきた。新浪氏が鳥井氏を『ノブ』と呼び合うなど、2人で強固な信頼関係を築いてきた。記者会見の席で「本当に残念」と厳しい表情で口を結ぶ鳥井氏の表情は印象的であった。

 サプリメントを売る企業のトップが疑いの持たれる成分を含むサプリメントを購入していたという疑惑。それが適法なものであるかどうかの結論はまだ出ていないが、サントリーHDとしては「疑義を持たれること自体が……」ということでスピードある決断を下した。ガバナンスを十分利かせた決断とも言える。

 同友会の存在意義

 経済同友会は1946年(昭和21年)、日本が敗戦から立ち直るとき経済人有志で設立された団体。経団連や日本商工会議所と違って、あくまでも個人参加が原則で、自由に議論し、日本経済の復興・発展のための道筋をつくろうという志の高い趣旨で設立された。

 初代代表幹事は諸井貫一氏(秩父セメント〈現太平洋セメント〉常務=当時、後に社長)。

 その後、永野重雄氏(旧富士製鐵〈現日本製鉄〉常務=当時、後に会長、日本商工会議所会頭)、さらには中山素平氏(日本興業銀行〈現みずほフィナンシャルグループ〉副頭取=当時、後に頭取)、木川田一隆氏(東京電力副社長)といった日本を代表する経済リーダーが務めてきた。

 そしてバブル経済が崩壊し、成熟社会を迎えた90年代になると、牛尾治朗氏(ウシオ電機会長)、小林陽太郎氏(富士ゼロックス〈現富士フイルムHD〉会長)などの論客が代表を務めた。

 規制改革論議のあと、市場主義は有効か、いや、それを乗り越える思想も必要だと論議。経団連や日商などと一味違う活動をしてきた。

 新浪氏は2023年4月に代表幹事に就任。歯に衣着せぬ発言で行動してきた。賃上げ問題などでは日本も前向きに動くべきと産業界をリード。米トランプ政権が誕生し、世界秩序が壊れる中で、「日本のコミュニティがモノづくりに適している。

 日本には、日本の強さ、良さがあった。ただ、〝失われた30年〟の間に、それが崩れてきた。だから、共助の精神が大事だ」と共助資本主義を訴えたりしてきた。

 こうした考えを実行していくときでの今回の事件発生である。9月3日の経済同友会の記者会見で新浪氏は自らの潔白を主張。

 同友会は、筆頭副代表幹事を務める岩井睦雄氏(JT会長)が代行すると発表した。新浪氏のサプリメントが適法かどうかは捜査当局の判断を待たなければならないが、国民の厳しい目が注がれているのも事実。経済同友会のガバナンスも問われている。(財界編集部)