広津崇亮・HIROTSUバイオサイエンス代表取締役CEOの 「人生の転機」【創業10周年で初の黒字化】

研究者と経営者─。1つの研究テーマを深掘りし続けて真理を追究する研究者と社会課題の解決を目指して組織をマネジメントしながら事業を軌道に乗せなければならない経営者。この2つの立場を経験しているからこそ、創業10年という節目の2025年度の初の黒字化を実現できたと自負しています。

 生物学者でもある私は東京大学在学中に「線虫」と出会いました。線虫とは体長1ミリほどの生物で、地球上のどの環境条件でも生息し、最も繁栄している動物の1つ。生物界では基礎研究に使われている生物です。

 2016年創業の当社はこの線虫の特長を生かした、一次スクリーニング検査「N―NOSEⓇ」を実用化しました。線虫には好きな匂いには近づき、嫌いな匂いからは逃げるという性質があります。これを独自の検査技術として活用したのです。

 自宅で採取した尿をポストに投函するだけで、尿に含まれる、がん特有の臭いを線虫が嗅ぎ分けます。従来のがん検査は種類ごとに異なりますが、線虫なら23種類のがんに対応可能です。この簡便さが多くの共感を呼び、累計100万検体を突破するに至りました。

 そもそも生物界での線虫の位置づけは基礎研究における道具でしかありませんでした。しかし、物心ついたときから「自分にしかできないことをやりたい」と思っていた私にとっては、線虫を社会実装できれば、社会の役に立つことができるという閃きにつながっていったのです。

 しかも、日本の医療の現状を調べれば調べるほど、治療ばかりにスポットが当たり、検査や予防にイノベーションが起こっていないことにも気が付きました。治療は既に病気に罹っている患者さんにしか対応できませんが、検査であれば多くの人が対象になって、ビジネスとしても成り立つ。

 自然と研究者の立場から経営者としての視点を独学で学んでいきました。10年間の経営者人生を歩んで感じるのは、研究者も経営者も自らの取り組みを世の中にどう知ってもらうかという点では同じということです。これも二足の草鞋を履いている自分であるからこそ、感じることができることかもしれません。

 線虫を含む生物は神様がつくったもの。我々、人間もそうです。そして生物は謎だらけ。だからこそ可能性もあるのではないでしょうか。

東京大学大学院理学系研究科の研究員だった頃の広津社長

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