【政界】補正予算・政策・人事が政治空白で立ち往生 「ポスト石破」による安定政権の実現が焦点

8月に行われた報道各社の世論調査では石破内閣の支持率上昇が続いた。7月の参院選での大敗直後の奇妙な動きに政局は混乱している。自民党内の露骨な「石破おろし」に嫌悪感を抱く層が一転して支持に転じているようだ。これを受けて石破は続投に意欲を示すが、党内での求心力はほぼ皆無の状態だ。秋以降の補正予算や政策、党役員人事をこなす政治的体力はない。激動の国際情勢のなか、日本政界に求められるのは、求心力のある「ポスト石破」による安定政権の樹立だ。

高揚する石破

 8月22日昼の石破は高揚感にあふれていた。テレビカメラの前に立ったのは、横浜・みなとみらい地区にそびえる「ヨコハマグランド インターコンチネンタルホテル」の一室だ。3日間にわたった「第9回アフリカ開発会議」(TICAD)を締めくくる共同記者会見に臨むためだった。

 石破は冒頭、「34の首脳の皆様方と2国間会談を行ったところであります」と胸を張った。

 1993年に第1回が行われたTICADは、当初は日本によるアフリカ支援の色彩が濃かった。だが今世紀に入って中国に対抗する側面が強くなり、参加国との「マラソン首脳会談」で日本をアピールするようになった。15分限定の「首脳会談」を繰り返す。今回の会談相手は32カ国と2つの国際機関に及んだ。

 翌23日に石破は今度は来日した韓国大統領の李在明との首脳会談に臨んだ。革新系の李は就任前に反日的な発言を繰り返していたが、就任後は発言をトーンダウン。会談で歴史問題を持ち出すことを日本側は警戒していたがそれもなく、「未来志向」が確認された。

 大量の首脳会談を大過なく終わらせた石破。日本を代表し、他国を代表する人物をホストする役割は自己肯定感を増大させる。それを助長するのが報道各社の世論調査結果だ。自民党内では「退陣不可避」と見られているのに、内閣支持率が上昇し続けている。

 8月の各社調査の上昇幅はこんな具合だ。朝日=7ポイント、毎日=4ポイント、読売=17ポイント、共同=12ポイント、NHK=7ポイントといった調子だ。

 要因の一つが、終戦関連行事で石破が披露した各種の式辞だ。

 広島原爆の平和記念式典では、歌人の正田篠枝が犠牲になった教諭と教え子を悼んで詠んだ短歌「太き骨は先生ならむ そのそばに 小さきあたまの骨 あつまれり」を2回繰り返した。

 長崎原爆の式典では被爆しながらも、救護活動に奔走した医師・永井隆の著書の一部を引用。「ねがわくば、この浦上をして世界最後の原子野たらしめたまえ」と盛り込んだ。

 全国戦没者追悼式では、民主党政権の首相・野田佳彦以来、13年ぶりに式辞に「反省」の語句を盛り込んだ。「戦争の惨禍を決して繰り返さない。進む道を二度と間違えない。あの戦争の反省と教訓を、今改めて深く胸に刻まねばなりません」とした。

 過去の原爆式辞では、広島と長崎でほぼ同一の文章だったり、あるいは前年と同じだったりする「スキャンダル」が発覚したりしていた。今年に限っては「脱コピペ」が明白で、「石破色」が鮮明で、SNSでも「石破さんが総理でよかった」といった感想が相次いだ。

判官贔屓

 だが石破の支持率があがったのは、これだけが理由ではない。判官贔屓だ。自民党内で続く「石破おろし」に対し、「石破さんが裏金議員にいじめられている」とのイメージがついたからだろう。SNSではそうした趣旨の書き込みが相次ぎ、挙句は首相官邸の前で「石破やめるなデモ」まで開催されている。

 石破はこの成り行きにほくそ笑む。「やめるな、という励ましの電話がけっこうかかってくる。最近はデモまであるんだって?」と周辺に漏らす。それはTICAD参加国首脳を集めた夕食会の挨拶で現れた。「大統領とか、首相とかをやっておりますと、あんまり楽しいことはございませんね」と語ってみせた。石破は無類の自虐トーク好き。それによって進退や真剣な質問を煙に巻く常套手段となっている。

 そんな石破の韜晦と同様に、煙に巻かれているのは自民党議員たちだ。奇妙な内閣支持率上昇に「なぜだ」と戸惑う。ただ、お盆で地元に帰った自民議員は異口同音にこう語る。「地元の支持者と話すと、『石破さんはけじめを付けた方がいい』と言う人が多い」。

 この乖離は何なのか。中堅議員の見立てはこうだ。「参院選後に石破内閣支持に戻ってきた人たちは野党支持者。一言で言えば自民党には投票してないし、これからも自民党には投票しないだろう」。

 各種調査では「自民支持層」でも石破続投を支持する回答が過半数に達していることについては、こう見ている。「以前は3割だった自民党の政党支持率が今は2割弱。去って行った1割は参政党と国民民主党に取られた。その2つの党の支持層はアンチ石破だろ?」。

広がるサボタージュ

 結局、自民党に残ったのは石破の微温的な歴史観に親近感を感じる中道の支持層と、「安倍1強」時代に議員個人が培った右寄りのアクティブな支持者ということだ。

 その石破の続投支持を公言しているのは外相の岩屋毅、防衛相の中谷元、総務相の村上誠一郎、衆院議員総会長の船田元ら、安倍政権では冷遇されてきた面々だ。自民党内の多くは石破の自発的な退場を願っている。それは各種政策協議の実務者たちのサボタージュという形で表面化している。

 まず、「政治とカネ」だ。自民党政治改革本部幹事長の斎藤健と事務局次長の長谷川淳二は、本部長の渡海紀三朗本部長あてに辞表を出した。お盆前のことだ。2人の頭越しに石破が立憲民主党ペースに巻き込まれたことへの不満が爆発した。

 参院選で自公両党が「目玉」に掲げた2万~4万円の給付策も漂流している。公明は前のめりだが、自民執行部が動いていない。自民幹事長の森山裕は、幹事長会談で公明党に前進を求められても「政調会長に伝える」と「塩対応」を決め込む。

 その政調会長の小野寺五典も、党の参院選総括がまとまった段階で役職を辞任する見通しで、積極的に動かない。公明党議員は「自民党に全くやる気が見られない」とぼやく。

 野党と協議中の政策は、ガソリン税に上乗せされる暫定税率の廃止だ。参院選大敗を反映し、自民が譲った形にはなっている。だが自民、立憲など与野党6党の実務者協議は、全く結論に歩み出す気配が見られない。自民税制調査会長の宮沢洋一が「最大限努力したい」と繰り返す場に成り果てている。

 宮沢にしてみれば、与野党間で合意をまとめたとしても、石破の下でそれが本当に実現するかが分からない。昨秋以来の石破の決断力のなさは身にしみている。汗をかく甲斐がないと見切っている。

 8月が終わっても、石破が新たな経済対策の検討の指示すらできていない。補正予算編成の着手など、夢のまた夢だ。

 8月8日の自民両院議員総会で、森山は参院選総括がまとまった段階で自身が辞任する意向を示唆した。小野寺に加え、総務会長の鈴木俊一、選対委員長の木原誠二も合わせて辞任する見通しだ。

 党四役が一斉に辞表を出したら、求心力皆無の石破では補充のしようがない。続投支持の岩屋、中谷、村上らなら引き受けるだろうが、今度は空席となる外相、防衛相、総務相の要職を引き受ける適格者は見当たらない。

 参院選総括がまとまれば、自民党の総裁選挙管理委員会が、総裁選の前倒し実施を求める議員への態度表明を求める手続きが始まる。前倒しを求める議員の名前を公表することになった。するとこんな「首相周辺の言葉」が、党内を駆け巡り始めた。

 いわく「前倒しを求めるなら副大臣や政務官を辞任してからにすべきだ」、いわく「次の選挙で公認しない」。果ては「密かに首相と面会した亀井静香に、首相が『リコール(前倒し)なら解散だ』と漏らした」といった情報まで。

 ただ、衆院解散には閣議決定が必要。2005年の郵政解散では、最後まで反対した農相の島村宜伸の罷免だけで終わったが、石破が本当に解散しようとするなら、罷免閣僚は二桁に達する可能性さえある。反石破派はむしろ盛り上がる。「やれるならやってみろ」(中堅議員)と。

残すは関税協議のみ

 あらゆる障壁を乗り越えた石破が続投できたとしよう。退任する党役員、閣僚、副大臣、政務官全てを補充したとしても、今度は国会が動かない。各委員会の筆頭理事、与野党協議の実務者。このレベルを任せられる議員がいない。臨時国会を召集して補正予算を提出するところまでは役所を駆使することで実現できるだろうが、その後の補正予算成立はおろか、日常的な国会運営にすら支障を及ぼす。

 そうこうするうちに内閣不信任案が可決され、総辞職に追い込まれるのは必至。自民から造反が出る可能性すらある。よほどの情勢変化が生じなければ石破の年内退陣は不可避なのだ。

 石破が残している課題は日米関税協議の最終妥結だ。既存税率に一律15%を上乗せする大統領令の改定のために、経済再生担当相の赤沢亮正が協議を続ける。ただ、8月末に最終合意に向けて米国に向かおうとしたものの、直前に「事務レベルで必要な協議が残っていた」として中止になった。

 とはいえ、本当に最終妥結目前であるというのなら、石破の続投は必要不可欠ではない。「赤沢チーム」と称される官僚団を維持し、米側閣僚との人間関係を築いた赤沢が新内閣でも留任すればいいことだ。

 参院選後、1カ月あまり続く日本政界の政治空白に対し、海外情勢は動き続けている。ウクライナを巡って米国大統領トランプとロシア大統領プーチンがアラスカで会談した。ガザでの虐殺は続いている。

 日本政界が内外の課題に主体的に立ち向かうために必要なのは、求心力を持った「ポスト石破」による安定政権だ。(敬称略)

【政界】参院選大敗の一方で、トランプ関税は急転妥結 国民生活を安定させる政治の枠組み構築が急務