日本総合研究所・寺島実郎【問われる日本の骨太戦略づくり】 日本の針路

本質的な議論が問われている

 ─ 寺島さんは今回の参議院選挙をどう総括しますか。

 寺島 まず国民の民意は何だったのかということですが、実は今回、野党第1党の立憲民主党が伸びたわけでもなければ、日本維新の会が伸びたわけでもなく、分かりやすく言うと保守の「核分裂」が起きました。

 自由民主党の中に取り残された右派の人たちがいますが、いわゆる政治とカネ問題でキックバック(払い戻し)を受けた旧安倍派と旧二階派の議員の4割が議席を失うか引退をしている状況で、党内力学的に言うと、ものすごい勢いで安倍政治が終わりつつあるといえます。

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 にもかかわらず、その人たちが「石破(茂首相)やめろ」合唱の先頭を切っているのですが、こうした現在の自民党のやり方にいら立っている人たちの票が、自民党の外にいる参政党や日本保守党に流れていった。ですから、別々の党が出てきたように見えますが、根っこにあるのは保守の核分裂なのです。

 ─ 本質は保守の分裂が起きたと。

 寺島 ええ。もう一つは、左派の保守層で自民党に失望した人たちの票が「手取りを増やせ」と主張している国民民主党などの、ポピュリズムと言ってもいいような政党に引き寄せられていった。つまり、自民党という、右から左までを抱え込んでいる大きな政党の核分裂が起こっている結果だということなのです。

 結局、政権交代を望んで立憲民主党や日本維新の会が伸びたわけでも何でもない。ここが一番大事なメッセージなのですが、国民は少数与党を選択したということです。

 ただ、世界を見渡したら少数与党の状況は決して珍しいものではありません。ついこの間まで韓国も少数与党でしたし、今は台湾も少数与党です。

 ─ 欧州もそうですね。

 寺島 欧州の歴史は、それこそ少数与党の合従連衡の繰り返しです。そういう中で、日本もここが民主主義の試練でもあるわけですが、少数与党ということは熟議の国会にならなければならない。

 国会の中で、「五箇条の御誓文」(1868年に出された明治政府の新たな方針)ではありませんが、大きな地球儀を目の前に置いて、これからの日本は世界を見て動くべきだと。そうした本質的な議論が、本当に問われてくる局面にあるのです。

 ─ 今は本質的な論議がなされていませんね。そうした中で、日本の現状をどのように受け止めていますか。

 寺島 今の日本は「トランプ2・0(第2次トランプ米政権)」によって大きく揺さぶられています。トランプ氏は米国第一主義を掲げ、今まで日本が頼り切っていた米国という国が、世界の協調や多国間の協調というところから降り始めています。しかも、日本がこの10年以上続けてきたアベノミクスなるものが、どう考えても壁に行き当たっていて、円安状況の中で日本国民がもがいている状況です。

 今回の参院選の争点は物価高でした。それがまた日本の政治の矮小化を象徴していると思いますが、要するに、物価高はなぜ起こっているのか? それは食料にしろ、エネルギーにしろ、円安による輸入インフレが起こっていることが大きいのです。

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 ─ 円安が物価高の原因になっていると。

 寺島 ええ。例えば、昨年の日本は自動車・電機・鉄鋼の輸出御三家で44兆円の外貨を稼ぎましたが、食料や燃料の輸入に35兆円かかっています。

 実は2012年の末にアベノミクスを展開する前、1㌦=79円だった為替は現在150円くらいになりました。分かりやすく言うと、アベノミクスで円安誘導を続けている間に自国の通貨の価値が半分以下になったということです。半分の価値しかないということは、本当に惨めなまでに交換価値が落ちているため、高いお金を払ってエネルギーや食料を買わなければいけなくなっている。それが直接的に物価高に影響が来ているわけです。

 ですから、物価高を議論するのであれば、本来、この円安政策をどこへ持っていくかということを与野党で議論しなければならない。それなのに、そこには誰も踏み込まず、給付金か減税というレベルの話だけで、与野党ともに目先のポピュリズムに走っているような政策論のレベルだということを、今回の選挙は見せてしまったのです。

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