宝の山と言われる非構造化データだが、それをAIや分析に活用するのは簡単ではない。その課題に挑んでいるのがパナソニック コネクトだ。同社が向き合ったのは、顧客満足度調査における自由記述コメントの分析業務。顧客が自由に書いたコメントを分析し、現場に届けるまで約3カ月を要していたのを、Snowflakeを活用したAI基盤によって大幅に短縮した。分類・要約という分析作業そのものにかかる時間も、約200時間から約20時間へ、約90%削減したという。
Snowflakeが米サンフランシスコで開催した年次イベント「Snowflake Summit 2026」で、非構造化データの取り組みについて、同社のIT・デジタル推進本部の渡邉勇太氏、カスタマーサクセスの吉岡琴音氏が説明した。
3カ月遅れの「顧客の声」――属人化した分析の限界
パナソニック コネクトは、国内顧客向けに小売・運輸・金融・公共など幅広い業界を対象とした顧客満足度調査を実施している。満足度調査では5段階評価とともに自由記述の質問も設け、顧客サポートや製品・サービス、組織全体についてのフィードバックを収集、それを分析した結果は社長への報告や各部門長とのフィードバックセッション、全社への共有を通じて改善活動に生かされてきた。
しかし、その分析プロセスには課題があった。大量のコメントを人手で分類・要約するしかなく、その作業に実に200時間近くを要していたという。加えて、結果が全社的な形でまとめられるまでに約3カ月かかることもあった。営業の現場が本当に欲しかった、ポジティブな声や課題、過去の調査結果との比較といった顧客ごとの具体的な気づきは届きにくい状態だった。
現場で顧客満足度調査を担当している吉岡氏は、分析の難しさとして次の3つを挙げた。1つ目は「量」。大量のコメントを人手で分類する作業だけで多大な工数がかかっていた。2つ目は「質」。ExcelやPowerPointでは多角的な分析に限界があり、分析結果は担当者の経験に依存して一貫性を欠いていた。3つ目は「可視化」。誰に何を届けるべきかに応じたインタラクティブな見せ方ができず、コメントの背景にある営業活動や顧客とのやり取りとの関連も見えにくかったという。
自身の経験として、前任者が作成したExcelファイルを見返しながら分類基準を学んだ、と振り返りながら、「基準が標準化されているというより、個人の経験に落とし込まれてしまっていた」と属人化していたことを認めた。
Cortex AI・Streamlit・Tableauで作る"三段構え"の基盤
この課題に対し、パナソニック コネクトが構築したのは、「分析」「アプリケーション」「可視化」の3層からなる基盤だ。具体的には、Snowflakeの「Cortex AI」(Snowflake上でAIモデルを直接実行できる機能群)、「Streamlit」(データアプリケーションを構築できるフレームワーク)、そしてSalesforce傘下のデータ可視化・BIツール「Tableau」を組み合わせた。「分析」をCortex AI、「アプリケーション」をStreamlit、「可視化」をTableauが担う。
まず営業・サービス・調査データをSnowflake上で企業単位にひもづけて集約。そのうえでCortex AIとStreamlitにより、自由記述コメントの分析とドライバー分析を自動化し、最終的にTableauでインタラクティブなダッシュボードとして可視化する、という三段構えの設計だ。
核となるのが、Cortex AIの感情分析機能だ。コメントを自動でポジティブ・ネガティブ・ニュートラルに分類するだけでなく、分類の根拠となる説明も生成することで、分析結果の透明性を高めた。分類の精度を上げるため、まず標準的な顧客満足度調査の基準に基づいたプロンプトを設計し、生成AIで検証。十分な精度を確認したうえでSnowflake上に実装したという。
従来のLLMツールでは、文字数制限のたびにデータをコピー&ペーストし直す手間が発生していたが、Cortex AIならすべてのコメントをSnowflake内で直接処理し、構造化された分類データとして保存できる。この仕組みによって「顧客コメントの分類や要約にかかる時間を約200時間から約20時間へ、約90%削減することに成功した」と吉岡氏は胸を張った。
Streamlitで構築した要約アプリケーションも、分析の質を大きく改善したという。対象企業を選ぶだけで、強み・改善点・他社との比較を即座に確認できるというもので、これまでは十分なリソースがなく、全社横断的な傾向分析にとどまっていたが、企業単位の詳細な分析が可能になった。より具体的で実践的なフィードバックを現場に返せるようになったという。
分析基盤は、単にレポートを効率化するだけにとどまらない。Streamlitを使い、営業・サービス・調査データを統合したAIによるアクション推奨機能も実装した。多忙な営業担当者が、分析からフォローアップの具体策までを短時間で把握できるようにするのが狙いだ。
興味深いのは、営業マネージャーから寄せられたフィードバックだ。上司から直接伝えられるアドバイスと内容が同じであっても、AIが提示する推奨アクションの方が「より客観的で説得力がある」と受け止められる傾向があったという。データドリブンな視点からの提案が、現場に新たな納得感を生んでいる。
ダッシュボードは目的じゃない ── 対話につなげる仕組み
最終的に、営業マネージャー向けの企業別ダッシュボードをTableauで作成した。顧客満足度の推移を、営業活動やサービスデータと重ね合わせて可視化し、現場の活動と顧客満足度の関係性を捉えられるようにした。調査結果のサマリーや、先述のAIによるアクション推奨もここに統合されている。
ただし、「ダッシュボードを作ること自体がゴールではなかった」と吉岡氏は明かした。パナソニック コネクトは、営業マネージャーとのフィードバックセッションを設け、Tableauの結果を一緒に確認しながら、ダッシュボードの使い方をレクチャーし、現場から「日々の業務にはこんな情報がもっとあると助かる」という声を集める場も設けた。データを届けるだけでなく、具体的なアクションについての対話を促すことに重きを置いたという。
この姿勢は、顧客満足度調査に限った話ではない。ITの立場から渡邉氏はセッション後の取材で、「ダッシュボードを作って渡す、というやり方はしないと決めていた」と、その考え方を説明した。ダッシュボードを“渡して終わり”にしない考え方は、IT部門としてより広く貫かれている姿勢だという。
この取り組みによって担当者がより付加価値の高い経営層向け資料の作成や、営業部門との個別ミーティングに注力できるようになった、と吉岡氏は語る。効率化によって生まれた時間を使い、これまで届けきれていなかった部門とも対話を重ねているという。
3つの学び「目標の共有」「現場への浸透」「サイロの解消」
セッションの締めくくりに、吉岡氏は今回の取り組みから得た3つの学びを紹介した。
1つ目は、ゴールを揃えて共有すること。顧客価値を最大化するという共通の目的に立ち返ることで、現場と中央機能が一つのチームとして動けたという。
2つ目は、現場でのアダプションを推進すること。技術だけでは業務プロセスは変わらず、利用者との継続的な対話がなければ定着しないと強調する。
3つ目は、Snowflakeによってデータサイロを取り払うこと。営業・サービスデータを一つの基盤に統合したことで、より実践的な意思決定を支える新たな知見が生まれたという。
IT部門を率いる渡邉氏によると、今回の顧客満足度調査の取り組みは数あるユースケースの一つに過ぎないという。データ活用戦略の一貫した方針として、「個々のユースケースを単発の成功で終わらせるのではなく、一つの“点"から始まった取り組みを、事業ドメインや機能を横断して再利用できる“パターン"へと育てていきたい」と渡邉氏は述べた。


