《 人手不足の中で生産性向上をどう図るか? 》ラクス・中村崇則社長「過度にAIを恐れるよりも、AIを使って楽をしていく。その発想が重要になる」

25年前から少子高齢化は課題

 ─ 日本の社会課題として少子高齢化があります。その中でラクスの果たす役割とは、どのようなものになりますか。

 中村 私が当社の前身である「アイティーブースト」という会社を創業した2000年頃から既に少子高齢化は大きな社会課題になっていました。当時の日本のGDP(国内総生産)は世界第2位です。それでも将来は少子高齢化で国内の人口は減少すると言われていたわけです。

 私は人口減少という波に直面しても、10年後、20年後も日本が世界の中心にあって欲しいと考えており、そのためにもITの力を使って社会や企業を効率化することをミッションとしていました。ただ、創業してから25年が経ちましたが、少子高齢化はさらに加速しています。

 国が様々な政策を講じてきたわけですが、それは結果としてあまり機能しなかったと。今後も人口の減少は不可避ですから、やはりコンピュータやロボットといったITや最先端技術を活用し、人手不足の領域を代替していくことが重要だと思います。

 ─ 企業の生産性を上げるために、具体的にどんなサービスを展開しているのですか。

 中村 企業の業務効率化に貢献するクラウドサービス(SaaS)を自社で企画・開発・運用しています。中でも当社のクラウド事業の売上高の約4割を占めているのが経費精算システムの「楽楽精算」です。

 このサービスは経理部門の方々の経費精算業務を効率化するものになります。経費精算の申請・承認・精算といった業務がWebブラウザー上でできるようになるため、経理部門の方々による紙での作業・管理工数がなくなると同時に、システム上での管理となるため、規定違反や申請ミスといったものも防止することができます。

 ─ 紙での煩わしいやりとりがなくなるわけですね。

 中村 ええ。これまで社員の営業活動に関する交通費や交際費などの経費申請やオフィスの備品といった消耗品などの精算業務は、紙の伝票を使って経理部門の方々が1枚ずつ目を通していたわけですが、そういった単純作業がなくなります。

 また、申請する側も申請書を書いたりする手間がなくなりますから、営業部門の人であれば営業の仕事に集中することができるようになるわけです。特に経理部門の方々は同じような確認作業で1日を費やすケースが多いので、もっと経営に資する業務に携わることができます。

 他にも請求書や納品書などの帳票データを取り込むだけで受取り側の要望に合わせて帳票を自動発行できる「楽楽明細」や様々な発行方法で届く請求書をまとめて管理できる「楽楽請求」、受け取った電子請求書などの帳票を保存し、一元管理できる「楽楽電子保存」などがあります。

交通費、出張旅費、交際費精算など経費に関わる全ての処理をまとめて効率化できる「楽楽精算」

SaaSで業務負荷を軽減

 ─ 社名も含め、「楽」という言葉に込めた思いとは。

 中村 社名のラクスは「働く人に楽になっていただく」という思いから名付けました。先ほど申し上げた前身企業のアイティーブーストは「ITを使って社会をブースト(押し上げる)する」という意味合いで付けたのですが、なかなか伝わりにくくて(笑)。

 ─ 最先端技術を使って業務負荷を軽減させたいという思いだと。国内SaaS企業では時価総額でトップにいますね。国内市場は掘り起こせますか。

 中村 はい。約4000億円で推移しています。人口減といっても1億人以上の人口がいますし、労働人口も6000万人規模です。かつ世界第4位のGDPの国ですから需要はあると思っています。その中で当社の強みはSaaSというソフトウエアを、月額費用でお支払いいただき、ご利用いただくというビジネスで、それに対する実行力と改善力になります。

 ソフトウエアは時間と共に環境や使い方も変化していきますので、それに合わせてソフトウエア自体も変化させないといけません。お客様の反応を聞き、それをソフトウエアの改善に活かす。さらに、その改善したソフトウエアを再びお客様に提供し、また反応を聞いて改善する。

 こうしたお客様からのフィードバックをいただきながら改善を続けることができるというケイパビリティ(機能)が強みになっていると。答えを知っていらっしゃるのはお客様です。そのお客様が当社の製品をどう感じるか、お客様がどう使われるかが大事なことだと思います。

 ─ 創業から25年という節目を迎えた中での経営者としての気持ちを聞かせてください。

 中村 創業したときから会社を大きくしたいという思いはありました。この大きくしたいという意味は、社会に影響を及ぼせる存在になりたいという意味です。ですから、一定程度の規模を持たなければなりません。組織の規模の拡大や売り上げの拡大は非常に意識していました。

 創業当時の事業はSaaSではなく、ITのエンジニアのスクール事業でした。そこからITエンジニアの派遣事業を始め、現在のSaaSと呼ばれるクラウド事業にシフトしてきました。時代の変遷に合わせて事業を変化させてきたということになります。

 ─ なぜ最初に手掛けたのがスクール事業だったのですか。

 中村 2000年当時、オープンソースソフトウエア(ソースコードが公開されており、誰でも無償または廉価で改変・再配布できるソフトウエア)が普及し始め、これまで限られた企業しか使えなかった技術に誰もがアクセスできるようになりました。ただ、そのオープンソースソフトウエアを使えるITエンジニアが少なかったのです。

 母数が少ないわけですから採用も難しく、ITエンジニアの数が増えるのを待つしかありませんでした。そうであるならば、オープンソースソフトウエアを教える学校を自分たちでつくり、ITエンジニアの数を増やしていけばいいと考えたのです。

 ─ 手応えはありましたか。

 中村 初月で400~500万円の売り上げは立ちました。

NTT時代にネットと出会う

 ─ 大学時代から起業家になりたいと思っていたのですか。

 中村 フワッとは思っていましたが、強い意志があったわけではありません。その後の出会いや流れがあって起業の道に進んでいったという感じです。ただ、大学を卒業して日本電信電話(現NTT西日本)に入社したことは大きかったと思います。NTTに入らなければインターネットの可能性を感じることはできなかったと思いますからね。

 当時のNTTネットをいち早く導入していました。ネットを広めていく立場にありましたからね。ですから、ネットに関する最新の情報が社内に入って来る日々でした。これから社会がどう変わっていくのか。そういった世界観を実感できました。また、ネットの登場で資金がなくても起業ができるということも分かりましたね。

 ─ NTT在籍中に起業し、現在に至るまでの25年間で苦しかったこととは。

 中村 2000年代前半のITバブルやリーマン・ショック、東日本大震災などもありましたが、まだまだ当時の当社は企業規模も小さかったので、そういった事柄に対しては、あまり気にはなっていませんでした。その点、コロナ禍はキツかったですね。売り上げというよりは、社員のマネジメントです。

 皆が先の見えない不安に直面しているような雰囲気に包まれていましたからね。そういった社員の気持ちの面でのマネジメントは難しかったですね。ただ、100年前のスペイン風邪でも同じようなことが起きました。4~5年経てば正常な状態に戻ったという歴史がありましたから、そういったことを伝えていきましたね。

 ─ そういう言葉を社員に伝えていったのですね。

 中村 はい。私が正常な状態に戻るであろうという予測と戻るに違いないということを伝え続けていきました。ただ、なかなか信じてもらえませんでしたね。それだけ社員の頭の中も恐怖が先に来ていたのでしょうね。その中で経営を継続させるというのは、なかなか大変でした。

 ─ その際、どういった言葉で叱咤激励しましたか。

 中村 正直言うと、当時は少々言葉では、どうにもならない状況でした。それでも、緊急事態宣言も合わせて未知のウイルスに関する皆の怖さや恐怖感のようなものがある中で、経営や働き方、行動などの調整をしていく感じでしたね。

 ─ 業績面の影響は?

 中村 特に問題はありませんでした。お陰様で初年度以外、25年間ずっと売上成長と黒字経営を継続することができています。

 ─ ということは、自分たちのサービスが社会に役立っているということですね。

 中村 そうですね。働き方改革もそうですし、DXもそうです。国の政策や企業戦略に後押しされたことは大きいですね。

AIエージェントはアシスタント

 ─ では、今後の戦略として注目されているAIエージェントを既存のサービスとどう組み合わせていく考えですか。

 中村 イメージとしては、例えば経費精算でAIエージェントにスマートフォンで撮影した領収書の画像をアップして精算作業をお願いすると、AIエージェントが「このような処理の方法が予測されるので、この処理の方法でいいですか?」といった提案をしてくれるようになります。その提案内容を受けてOKすれば、経費精算業務が進捗していくというイメージです。

 つまり、AIエージェントを活用することによって、こちら側から指示を出すと、AIエージェントから「これでどうですか?」という提案を受けるようになります。自分にアシスタントがつくことを想像していただけたらいいと思います。

 ─ これをうまく使いこなさなければいけませんね。

 中村 そうですね。ですから、あまり過度にAIを恐れるというよりかは、やはりAIをうまく使って楽をしていく。逆にそれを活用して、もっといいアウトプットを出していく。それが大事なことであると思います。

 実は私もAIエージェントを既に活用しています。例えば、今からアライアンスを組むに当たって、取引先とのスケジュール調整をどう進めるのがいいかとAIエージェントに投げかけると、AIエージェント側でスケジュールを調整してくれるのです。「この日が期限なので、こんなスケジュールではどうですか」と答えてくれます。

 それを受けて「ここは少し違うので再調整して欲しい」と言えば、再調整したスケジュールがすぐに出てきます。こういった意味においても、よりアシスタントとしてAIを使っていく機会が増えてくると思います。

 ─ 新たな技術が出てくれば、調和を図るというのが産業革命以来の歴史です。

 中村 おっしゃる通りです。インターネットが出てきたときも、それを活用すべきかどうかという議論が起こりました。しかし、今ではネットを使わないことなどあり得なくなっています。それと同じように、AIも10年後などには、我々の生活に欠かせない存在になっているのではないでしょうか。

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