サイボウズは地域金融機関と連携し、「DX経営スペシャルセミナー 2025」を全国24カ所で開催中だ。七十七グループの七十七デジタルソリューションズがkintoneの導入をサポートした宮城県の葬儀社「倖心」は、人材を増やさずに残業時間をゼロにしただけでなく、kintoneを用いた情報共有によって顧客満足度の向上も実現している。

具体的なkintone導入と業務改善のストーリーは「前編」で紹介したので、後編となる本稿では倖心が七十七デジタルソリューションズの支援を受けてkintoneを導入することになったきっかけと、地域金融機関による共創の意義について、両社の座談会から紹介したい。

七十七デジタルソリューションズの参加者は取締役社長の加藤雅英氏と、倖心のコンサルティングを担当した山内智香氏。倖心からは代表取締役 早坂博幸氏と常務の青沼氏、現場でのkintone活用を中心となって進めた総務部の今野氏が参加した。

  • (左から)七十七デジタルソリューションズ 取締役社長 加藤雅英氏、コンサルタント 山内智香氏

    (左から)七十七デジタルソリューションズ 取締役社長 加藤雅英氏、コンサルタント 山内智香氏

  • (左から)倖心 総務部 今野氏、代表取締役 早坂博幸氏、常務 青沼氏

    (左から)倖心 総務部 今野氏、代表取締役 早坂博幸氏、常務 青沼氏

地域の金融機関が中小企業のデジタル化を支援する意義とは?

東北地方は全国の中でも人口減少が進んでおり、労働力の流出も深刻だ。仙台に拠点を置く七十七銀行を中心とする七十七グループも、地域の企業をどう元気にしていくかが重要なテーマだとしており、その有効な手段としてデジタル技術の活用やDXを掲げている。

つまり、地元の企業のデジタル技術活用と業務効率化を支援することは、地域の金融機関においても重要なタスクとなりつつある。まさにそうした課題感があふれる中、七十七グループの一員である七十七デジタルソリューションズも業務変革のサポートに注力している。

七十七デジタルソリューションズの加藤氏は「通常のITベンダーであれば案件ごとにスポットでのお付き合いが多いと思うが、七十七グループは金融機関なので地域企業との継続的なお付き合いを前提としている。当社のようなデジタル技術支援だけでなく、人材や経営戦略など、何でもご相談いただければ対応可能なグループ会社を紹介できる」と話す。

また、「環境変化が進んでも地域の企業が事業を継続しさらに成長できれば、企業も、そのサービスを受ける地域住民も、金融機関も『三方良し』の関係性が作れる。ひいては東北全体の発展につながればうれしい」とも話していた。

セミナーで紹介されたように、倖心は人を増やさずに、残業時間を減らしながらも業績は上向きだ。まさに共創の好例と言えるだろう。

  • 七十七デジタルソリューションズ 取締役社長 加藤雅英氏

七十七デジタルソリューションズが手掛ける伴走支援事業の中でも、kintoneを取り扱う案件は多いという。「kintoneは紙やExcelをデジタルツールで置き換えるだけでなく、業務アプリの作成と修正が容易なので、現場での内製化に向いている。特に中小企業はITやシステムの専門人材を採用できる企業が少ない。kintoneであれば内製化によって社内の人材が育ち、自走できる組織が作れる」と、加藤氏はkintoneの利点を分析している。

顧客愛を実現するための手段としてkintoneを活用

七十七デジタルソリューションズに紹介される前から、早坂氏は同業の友人の会社が利用していたためkintoneの存在を知っていた。過去には葬祭組合のDX研修会などを通じて、見積もりを取ったこともあったという。しかしその際には、導入コストと内訳の不透明さに納得ができず、導入を見送った。

七十七デジタルソリューションズは顧客各社の状況をヒアリングしてから、個別にオーダーメイドのプランと見積もりを複数作成している。倖心にも同様にいくつかのプランを作成した。早坂氏はその中から、コストとコンサルティング内容・期間を考慮して最も納得感のあるプランを選んだ。

倖心の早坂氏は「当社を担当する七十七銀行の行員が、定期的に事業を心配して訪れてくれていた。そうした日々のお付き合いの中で、困りごとを相談したらすぐに七十七デジタルソリューションズを紹介してくれた」と振り返った。

早坂氏は知人の会社で案件管理にkintoneを使っている様子を見ていたので、以前からそれをうらやましいと思っていたそうだ。ただし、同氏の見立てによると、その会社は案件管理と一部の業務にしかkintoneを使っていないという。

「私が目標にしていたのは、顧客情報を全従業員で共有してそのご家庭の背景情報まで頭に入れておくこと」(早坂氏)

早坂氏が目標とするイメージに対し、具体的な支援プランとスケジュールを提示できたことが、七十七デジタルソリューションズによる伴走支援の大きなきっかけになったそうだ。

  • 座談会の様子

倖心がkintone導入に成功した要因を担当者が分析

倖心がkintone導入において七十七デジタルソリューションズの伴走支援を受けたのは、2025年1月からの約4カ月間。七十七デジタルソリューションズからはコンサルタントとして山内智香氏が参画し、検討段階、導入段階、活用段階でそれぞれ支援した。

  • 七十七デジタルソリューションズの伴走支援

    七十七デジタルソリューションズの伴走支援

まず検討支援では、倖心の業務フローの確認と改善点の抽出から開始。ここでは、それまで紙で行われていた業務を聞き取り、kintoneで置き換え可能かを検討した。

その中で、紙に書き取っていた顧客との打ち合わせをデジタルに置き換える案も出たのだが、葬儀の打ち合わせは旧字体や独特な仮名づかいなども使用されるため、kintoneではなく紙の使用を継続することを決めたという。

このように、日々の業務の中でデジタルに置き換えることと、置き換えないことを整理してから、導入支援へと移行した。導入支援ではkintone導入後の業務フローを確認するとともに、kintone利用申込から初期設定、管理者向けのアプリ作成方法などをサポート。

  • 業務アプリの画面例

    業務アプリの画面例

その次の段階では現場での活用支援として、導入後の定着フォロー、操作方法の助言、運用改善のサポートなどを実施した。特に「誤った操作をしてしまった場合の修正方法」など現場で起こりがちなミスまで扱うことで、定着に貢献している。

コンサルティングを担当した山内氏は、「(セミナーで紹介されたように)倖心さまはお客様への愛を実現するためにkintoneを導入し始めたわけだが、支援期間を通じて従業員同士の愛もある企業だと感じた。誰かが困っていたらそれを解決するkintoneアプリをすぐに作り始めたり、せっかく作ったアプリを社長が修正しても嫌がらない関係性があったりと、事前の関係性作りがとても印象的」と、当時を振り返っていた。

また、「他社の例だと、kintoneなどデジタルサービスを導入したい経営者の思いと、実際に手を動かす現場の負担に溝ができてしまう場合が多い。しかし倖心さまは『この情報は必要』『この情報はいらない』『これは写真で見た方が良い』『ここはテキストで入力したい』など、社長も含めて具体的に話し合う環境があったのでスムーズに導入できた」と、社員同士の結びつきの強さにも着目していた。

  • 七十七デジタルソリューションズ コンサルタント 山内氏智香氏

ビジネス環境の変化が激しい現代ではDXを一社単独で実現するのはなかなか難しい。単にツールを導入するだけでなく、有効な使い方の例を教わるだけでも業務改善の可能性は大いに広がる。現場の声に寄り添いながら二人三脚で業務改善を進めた倖心と七十七デジタルソリューションズは、まさしく「共創」を体現したといえる。

地域に根差す金融機関ならではの持続的な支援が今後も普及し、地域社会の活性化につながることを期待したい。