三菱UFJ・三井住友・みずほ、 三つ巴の「ポイント経済圏」争奪戦

コロナ禍以降、人々の生活が大きく変わる

 今、日本の3メガバンクグループによる「ポイント経済圏」の争奪戦が激化している。ポイント経済圏全体で3兆円規模にまで成長。今やポイントは、そのサービスが選ばれるためのカギを握る存在となっている。

 最初に動いたのが三井住友フィナンシャルグループだった。2023年2月、個人向けの金融・決済のフルモバイルサービスを実現するアプリ「Olive」の提供を開始。

 銀行口座、カード決済、ファイナンス、オンライン証券、オンライン保険などの機能を1つのアプリに搭載。さらに、キャッシュカード、クレジットカード、デビットカード、ポイントカードを切り替えられる、「フレキシブルペイ」という世界初の機能を、ビザワールドワイドとの共同開発で実現した。

 コロナ禍以降、人々の生活が大きく変わる中、特に「キャッシュレス」の浸透が加速し、銀行グループもモバイルに大きくカジを切らなければならないという、当時の三井住友FG社長・太田純氏(故人)の「危機感」が形になったものだった。

 さらに、三井住友FGは自社が取り組んできたポイントサービス「Vポイント」と、老舗ポイントサービス「Tポイント」を統合し、新たな「Vポイント」とした。

 ポイント経済圏は、楽天グループの「楽天ポイント」、ソフトバンクの「PayPayポイント」、三菱商事・KDDIの「Pontaポイント」、NTTドコモの「dポイント」に、三井住友FGの「Vポイント」の5陣営の勢力争いと見られてきた。

 だが、25年2月、このうち三井住友FGの「Vポイント」と、ソフトバンクの「PayPayポイント」が提携。この「大連立」をきっかけにポイントサービス、リテールビジネスを加速することに加え、三井住友FG社長の中島達氏は「この提携を、SMBCグループのあらゆるサービスの変革につなげていく」と意気込む。

 心穏やかではいられないのが、ソフトバンクのメインバンクである、みずほフィナンシャルグループ。だが、みずほFGも、ポイントサービスの拡充に向けて、楽天グループとの距離を縮めている。

 モバイル事業の苦戦で資金を必要とした楽天グループが、みずほFGに打診して、楽天証券に出資したのが22年のことだった。20%だった比率は、現在49%にまで高まっている。

 さらに24年11月、みずほFGは楽天カードに14.99%出資することを発表。当初、楽天グループは楽天銀行、楽天証券ホールディングス、楽天カードの金融子会社を再編する方針だったが中止。みずほFGからの出資を得る形となった。

「みずほ楽天カード」の発行で、楽天経済圏とポイントでもつながると同時に、みずほFGにとってはウィークポイントだったカード事業の強化で、個人顧客の獲得につながっている。

 みずほFG社長の木原正裕氏は「楽天さんとの協働を深める。楽天さんの持つマーケティング力、UI/UXの知見など意見をもらいながら高めていく。さらに資産形成、資産運用もしっかり取っていく」と語る。

 最後に出てきたのが三菱UFJフィナンシャル・グループ。社長の亀澤宏規氏が自ら「後発」と話すなど、ポイント経済圏競争への参戦が遅れていたが、25年5月27日、独自の総合金融サービス「エムット」をスタートすることを発表した。

右から、三井住友FGとソフトバンクの提携会見、みずほFGと楽天グループの楽天カードでの提携会見、三菱UFJFGの新金融サービス「エムット」の発表会見

 まず、三菱UFJ銀行のアプリを刷新し、グループのサービスの「ゲートウェイ」として位置づける。また、グループの「三菱UFJカード」でのポイント還元率を業界最高水準に高める。

 さらに26年度中にグループの共通ポイント「エムットポイント」を始めるとともに、独自に「デジタルバンク」の開業も目指す。ポイントの特徴はMUFGのサービスを使えば使うほどメリットが感じられる仕組みになっていること。

 また、他の2メガと大きく違うのが自社サービスを軸としていること。三井住友FGはポイントでPayPay、ネット証券ではSBI証券といったように、自社アプリに他社のサービスを取り込んでいる。みずほFGもカード事業では楽天ポイントの獲得がアピールポイント。

 MUFGは、カードは自社カード、コード決済は自社とリクルートによる「coin+」といった形で「エムット」はMUFGグループのサービスをスムーズに利用できるものとして打ち出されている。亀澤氏は「自社のサービスでなければマネタイズが難しい」と話す。一方で、サービス基盤をつくるにあたってはグーグルやリクルートなど、他社の技術を活用している。

 あるメガバンク元役員は「他社サービスを取り込んだ三井住友FG、みずほFGと、自前で取り組む三菱UFJFG、いずれが勝つかはまだ見えない。ただ、出遅れていた三菱UFJFGが『本気』になって、ポイントも含めた個人の領域を取りに来ていることは確か」と話す。

 ポイント5強の一角であるNTTドコモが住信SBIネット銀行を買収するなど、異業種も経済圏拡張に躍起。3メガが本格的にこの領域の獲得競争に乗り出したことは、日本の金融構造の変化を如実に示している。