恋愛を科学するマッチングアプリの今後の可能性 エニトグループCEO・野辺一也の「ライフ・ハブ構想」

若者の結婚願望は本当に 無くなったのか?

「彼女(彼氏)ができた。最近アプリで知り合った人で…」

 このような会話は最近の10代、20代の世代では今当たり前に行われる会話だ。こども家庭庁調査では、今や4人に1人がマッチングアプリで結婚する時代を迎え、その存在と社会的役割は大きい。最近若い人が結婚しなくなったと言われるが、それでも人が異性との出会いを求めるという行動は変わらない。

「実際に結婚を望んでいる人や婚姻数の中央値は大きく変わっていない。Z世代(1990年代後半から2012年頃に生まれた世代)と言われる人々は、われわれ40~50代の世代よりも真面目に若い頃から生活設計を真剣に考えているパターンが多く、何歳で結婚、出産したいということを明確に決めている。そのため遊びの恋愛より結婚を意識した真剣な出会いを求めるという志向が高まっている」

 こう分析するのは、マッチングアプリ『with』『Omiai』を提供するエニトグループCEOの野辺一也氏。この行動心理は行き先不透明な時代だからこそ、人生設計をしっかりと行おうとするZ世代の特徴なのだろうか。

 数値で見ると、2023年の婚姻件数は約47.5万人で前年から約3万人減少し、人口千人に対する婚姻率においても低下している。結婚する人が減少している要因として、女性の社会進出が進みキャリアを考慮し結婚願望自体が減少したことや、推し活などを始めとした個人の趣味の多様化により、心の満足を得られるからだと言われる。

 しかし、エニトグループが提供するアプリ『with』『Omiai』は2つ累計で会員数2000万人(2024年7月時点)を超え、コロナ禍以降急伸している。2018年の市場規模は300億円程度であったのが、年率10%~20%で成長し、現在840億円まで膨らんでいる。

 マッチングアプリ業界全体が伸びている中でも同アプリが市場シェアを伸ばしているのは、社会心理学がベースに開発されており価値観が合う相手と出会いやすいからである。

 マッチングアプリは従来ルッキズム(外見至上主義)に偏ったものが多く、見た目や年収などを上手にアピールできた人に有利なものでもあった。しかし同アプリは心理テストなどの診断コンテンツを設け、より共通性が高く価値観の合う人をマッチングさせる仕組みがある。

 質問に答えることで自己分析がされ、時には自分が気づいていない面も含め、自身の棚卸し作業が行われる。さらに自分の好きな音楽、映画、スポーツなどの趣味の情報などを登録してもらい、これら全てがデータ化される。このような恋愛を科学で検証し、出会いをメカニズムで再現する仕組みが支持を得ているというわけだ。同アプリは2億組を超えるマッチングを生み出し、年間約14万人(2024年1月~12月実績)が相手を見つけており、利用者数業界NO.1の位置となっている。

コンプライアンス意識の高まり 経営者の悩みも…

 マッチングアプリが支持を集めているのは、近年高まる企業のコンプライアンス意識の高まりもある。社内恋愛をする場合に報告義務はないが、リスク管理から推奨する企業は少なくない。昔は4人に1人が社内結婚であったが、ハラスメント問題を避けようとする心理から社内恋愛を敬遠し、外部に出会いを求めるツールとしてマッチングアプリが利用されている。

「未婚率が上がると、社員の定着率が下がるという悩みを持つ企業経営者は多い。婚姻率が上がれば社員も定着し、モチベーションも高くなる」と野辺氏。

 例えば、サービス業や小売業など土日祝日が休みではない業種は、友人や恋人と休日一緒に過ごすことができない。その不満が仕事に向かい、転職してしまうパターンも多い。こども家庭庁の調査結果では、独身者が結婚しない理由は「適当な相手にめぐりあわない」が首位であった。つまり、出会いたくても出会えないという環境要因が大きいといえる。そこで、同アプリでは会員に休みの日を登録してもらい、休みが重なるという環境面も重視している。どんなに価値観が合った相手だとしてもプライベートの予定が合わなければ、進展は難しいからだ。

「このため、マッチングアプリ導入を福利厚生で真剣に検討している企業も多い。社員の定着率、人生をサポートすることで長く会社に居てもらいたいという経営者の思いがある」(同)

 野辺氏は共通点が多い相手とマッチングさせる利点を挙げると同時に、それが行き過ぎない配慮も必須だと加える。

「同じものを好きな人をつなげると同質な塊がたくさんできて、これが閉鎖的なコミュニティをつくってしまう可能性を孕む。これは、現在インターネットやニュースの世界で起きている大きな問題と同様で、自分の好きなニュースばかり集めていると考え方が二極化し、他の考え方に触れなくなる。それを避けるために、意識的に新しい〝ディスカバリー(発見)の体験〟を入れると、その人にとって新しい気づきをもたらし成長を感じる。マッチングシステムにこれを組み込んでいくと、より出会いの質が上がる」

 同アプリのサービスは月額制で、マッチング後に利用が止まってしまうことが経営の大きな課題。今後は2人に関するデータを活用し、ポートフォリオを強化する。旅行、食事、結婚、家、車の購入等、マッチング後は2人で決めることが多くなるため、それらに関するサービスを同社からリコメンドする「ライフ・ハブ構想」を掲げる。

 人と人をつなぐマッチングアプリから、人とサービスをつなぐマッチングアプリへ─。マッチングアプリには大きなビジネスチャンスが秘められている。