以前お伝えしたが、日本航空(JAL)はデータ活用の一環として、Snowflakeを導入することでオンプレミスのDWH(データウェアハウス)の運用コストを低減し、クラウドシフトを実現した。
そして次のステップとして、Pythonで容易に分析アプリを構築できるフレームワーク「Streamlit」の活用を進めている。Streamlit Co-Fonder & COO Amanda Kelly氏はStreamlitについて、「データアプリとインサイトの市場への投入を迅速に行うことを実現する。簡単にAIが使える環境を提供し、エージェントとLLMの高度な連携を可能にする」と語った。
次世代のビジネスのエンジンとなる基盤としてSnowflakeを導入
日本航空 デジタルテクノロジー本部 デジタル戦略部 活用推進グループ長 庄司稔氏は、Snowflakeの導入の経緯から説明を始めた。
2019年、同社はETLやDWHをオンプレミスで利用していたが、オンプレミスの更新期限が迫っていたという。あわせて、既存の環境では多様化する分析のニーズに対応することが難しくなってきていたほか、BCPを考慮してクラウドを導入しようという機運が高まっていたという。
Amazon Web Servicesの利用が社内の業務システムで広がっていたことから、オンプレミスのDWHと並行してAWSのデータレイク「Amazon Redshift」を導入。さらに、次世代のビジネスのエンジンとなる基盤を目指して、Snowflakeが導入された。
「マイレージバンクや地方創生など多角的なビジネスを進める中、オンプレミスは阻害要因となりつつあった。今はオンプレミスでサーバを立ててデータベースを構築する時代ではなく、クラウドやSaaSを使って迅速にビジネスに資するシステムを構築することが求められている」(庄司氏)
庄司氏はSnowflake活用による魅力として、データシェアを挙げた。「欧米ではデータシェアが進んでいるが、外部のデータを活用することで、自社のデータも有効活用できる顧客に価値を提供できる」と同氏。
JALは現在、データシェアリングに向けていろいろな企業に声をかけているが、「ゆくゆくはデータのマネタイズというより、公共交通機関を担う企業として社会の発展のために貢献したい。Snowflakeはそれを実現できるプラットフォームと考えている」と庄司氏は述べた。
NTTドコモの導入がきっかけ
SnowflakeによるクラウドベースのDWH機能に満足する一方、庄司氏はNTTドコモが「Streamlit」を導入したことを知り、同社を訪問して話を聞いたという。
NTTドコモのStreamlit導入の詳細は小誌でもお伝えしたが、同社はStreamlitにより容易にデータを活用できるプラットフォームを構築し、データ抽出や分析にかかるコストを54%削減した。
庄司氏は「経済産業省のDXの定義も踏まえ、当社はデータとデジタル技術を重視している。デジタル技術としてBIツールはそろってきたので、あとはどのようなデータをセットして、経産省の定義に近づけられるかというフェーズを迎えた」と説明した。
そこで、収集・蓄積したデータをビジネスの課題にひもづけて可視化・分析することが必要になるが、「ここで出番となるのがStreamlit。Streamlitによってアプリを作成することで、データドリブンな意思決定につなげる」と、庄司氏は述べた。
現業部門・DX部門・開発部門で連携
Streamlitの導入にあたり、2024年7月から調査を開始し、8月から環境を構築、アプリ作成環境の運用は10月からスタートした。
Streamlitを実装する前に、ビジネスとデータの理解をもとに要件を明文化し、現業部門・DX部門・開発部門の役割を整理して、開発体制の整備が行われた。
庄司氏はStreamlitを活用する体制について、「開発体制を整備して、データ活用の案件を増やしていきたい。それにはDX部門と開発部門の連携が重要。現業部門の人にデータに基づく考え方を持ってもらい、データをベースに変革を進めていく。現業部門の人の経験値を上げて開発部門と直接連携することで、アプリを指数関数的に増やしていきたい」と説明した。
Streamlitでデータドリブン思考の定着を
データ整備として、課題の解決に資する社内外のデータの特定が行われた。具体的には、「業務システムから抽出した電子ファイル」「担当者がPCに保管している電子ファイル」「書類や面談などの電子化されていない情報」「課題解消に有用だが保存されていない情報」の4種類が特定された。
JALはこれらのデータをSnowflakeに蓄積してStreamlitでアプリを開発して可視化することにした。
庄司氏は「可視化して終わりではなく、データ活用のサイクルを繰り返す。これにより、業務の精度が上がり生産性が向上する。サイクルがクイックにすることで、意思決定する人にも精度の高い情報を提供できる」と述べた。
Streamlitでアプリを開発することで予測が可能になり、その先の目標としてビジネスの取り組みを変えていくことを狙っているという。
昨年度は3カ月を1つのタームとしてサイクルを複数回繰り返し、本部のKPIや機内サービスデータを1ソースで見てもらったとのことだ。
庄司氏のグループは現場の課題を拾うためすべての部門に声をかけたが、まだ全部回り切れていないという。
庄司氏はSnowflakeとStreamlitによって目指す世界について、「データドリブンな意思決定の定着により、生産性や顧客満足度の向上、収支改善を達成するとともに、クラウド技術とデータによって社会貢献を果たしたい」と語っていた。