バックアップ製品を手掛けるVeeamがクラウドシフトとAI戦略を進めている。バックアップ・アズ・ア・サービス「Veeam Data Cloud」は同社史上で最も成長している成長だという。
4月に米サンディエゴで開催した年次イベント「VeeamOn 2025」では、「Entra ID」のサポートを発表し、AIではModel Context Protocol(MCP)のサポートも発表した。会場で、VeeamのCTO、Niraj Tolia氏に話を聞いた。
CTOとしてのミッションとは?
--創業したAlcionがVeeamに買収されたことでVeeamに加わり、CTOに就任されましたが、CTOとしてのミッションをお聞かせください--
Tolia氏: Veeamに買収されたのは2社目で、1社目はKubernetesのバックアップ技術を開発するKastenでした。今回のAlcionは、AIベースのデータ保護・セキュリティ技術を開発していました。買収に伴い、CTOとしてVeeamに加わることになりました。
私はデータ重複排除技術について博士号を取得し、この分野における顧客の課題を解決すること、インパクトをあたえることを指針としてきました。顧客の環境は常に変化しており、直面している問題も変化しています。5年前にうまく行ったことが現在うまくいくとは限りません。未来を見据えて、顧客に問題解決のための道筋を示したいと考えています。
このような考えの下、VeeamのCTOとして、製品戦略の技術面での推進とエンジニアリングに責任を持って、顧客の問題解決を進めていきます。私の下にエンジニアリングチームがあり、製品のデリバリーの目標を設定してそれを実行するということを行なっています。非常に実践的な役割と言えます。
顧客の課題解決という点で、現在の最優先事項はバックアップ・アズ・ア・サービス「Veeam Data Cloud」(VDC)となります。顧客のニーズが高い製品で、しっかりと機能を届けていくための取り組みを進めています。
また、AIのユースケース作りにも注力しています。Veeamは顧客のビジネスにとって重要なデータを多く保有しており、これを効果的に活用することを考えています。
単にデータのバックアップとリカバリではなく、データの移植性、データのインテリジェンスなどもVeeamの戦略上で重要な取り組みとなっています。
MCPサポートで進めるAIによる自動化
--VeeamOnではAthropicとの提携を通じてMCP(Model Context Protocol)のサポートを発表しました。この狙いを教えてください--
Tolia氏: MCPはLLMがさまざまなツールやデータと連携する共通の方法を定めるもので、AIの世界の共通のAPIとたとえることができます。われわれはMCPを利用して自分たちが提供する機能を説明し、LLMに我々のAPIとデータへのアクセスを提供します。
これまでなら個別にコネクタが必要だったものが、MCPをサポートするだけで、同じくMCPをサポートするシステムとプラグ&プレイ感覚で接続できるようになります。
(MCPが)登場して数カ月ですが、多くのベンダーが賛同しています。われわれも早期に賛同を決めていましたが、VeeamOnまで発表を待つことにしました。これにより、MCPを中心に形成されつつある活気あるエコシステムに加わることになります。
--VeeamがMCPをサポートすることで、パートナー、そして顧客にどのような、メリットがあるのでしょうか?--
Tolia氏: パートナーのメリットから説明します。顧客から「データを失ったので復元したい」という要望があったとすると、現在はチケットを出して、バックアップインタフェースを確認してデータを探して復元し、返信します。
MCPで連携する世界では、チケットを出すとMCPサーバがアクセスできるデータシステムを確認するとVeeamが表示され、顧客が参照しているデータの有無を確認し、一致するデータであれば復元するという作業が自動化されます。人間は自然言語を使いながら確認していくことになります。チケットとしてServiceNowを使っていれば、Veeamと接続して解決していきます。TeamsやSlackなどで作業が完了したといった通知を受け取ることができるでしょう。
このように、パートナーは運用作業が軽減されると予想されます。
顧客、そしてパートナーの両方で、長期的なメリットはより複雑なアプリケーションが実現するという点にあると考えます。例えば、「XXというプロジェクトを実行している。そのためのデータを見つける手助けをしてほしい。監査やコンプライアンスの要件はYYYで、欧州ではGDPRのリスクがあるデータに注意してほしい」といったニーズに対応できます。また、カスタムアプリケーションを構築する際、自社の業界に特化したLLMをAzureの汎用LLMのデータに対して使用するといった複雑なことが容易になるでしょう。
クラウドの力で顧客の作業を軽減し、ランサムウェア対策も
--Veeam Data Cloud(VDC)はVeeamの歴史上最も急速に成長している製品とのことですが、背景をどのように分析していますか?--
Tolia氏: VDCの受け入れが急ピッチで進んでいる背景には、顧客は運用上の手間から解放されたい、シンプルにしたいというニーズがあります。特に、長くVeeamを使ってきた顧客からは、Veeamの技術に信頼を置いていて、当社に任せたいという声を聞きます。インフラの多くはクラウドに移行しています。VDCを使うことで、顧客は自分たちでポリシーを設定し、オーケストレーションにある程度の責任を持ちながら、作業負荷を軽減できます。
われわれはバックアップだけでなく、付加価値の提供も進めています。その1つがVault(Veeam Data Cloud Vault)です。2024年のVeeamOnで発表したクラウドサービスで、Microsoft Azureを活用しています。暗号化された不変バックアップなどの機能があり、攻撃者が認証情報を持っていてもデータを削除できません。ランサムウェア攻撃の96%がバックアップを狙うことがわかっており、Vaultを導入することで対策を取ることができます。
Vaultではクラウドストレージによる料金ショックもありません。つまり、APIの料金はなく、データエグレスについて追加の課金がありません。
VDCとVaultによりバックアップを保護できることから、すでに数千社の顧客が利用しています。
クラウド、エッジなどあらゆるデータの管理をシンプルに
--BroadcomによるVMwareの買収、マルチクラウド、AIでのエッジの重要性など、顧客の状況が変化しています。Veeamはどのように支援していくのでしょうか?--
Tolia氏: 当社はデータ保護プラットフォームの「Veeam Data Platform(VDP)」とVDCの2つの柱を持っていますが、現在はVDPをVDCに統合しています。VDCからVDPを管理できるようにし、ハイブリッド、マルチクラウド、エッジなど全てに対するデータの管理をシンプルにします。
VDCへの統合は1年以内に実現するでしょう。我々は選択肢の提供が重要だと考えており、これまで通りVDPをオンプレで使いたいという顧客はそのまま使うことができます。ただVDCに移行することでシンプルさを得られます。
--SaaSのバックアップでは、「Microsoft 365」に加えて「Salesforce」「Entra ID」と拡充しています。今後の計画は?--
今年のVeeamOnでSalesforceとEntra IDのサポートを発表しました。今後もラインアップを拡充します。サポートを開始するサービスについては話せませんが、Veeamの戦略に合わせながら、DevOpsのワークロードの保護、そして普及しているSaaSの保護、と2つの方向性で進めています。
今後の発表に期待してください。