インターネットイニシアティブ(IIJ)はこのほど、2024年度(2024年4月~2025年3月)連結業績を発表した。売上高は前年比14.8%増の3168億円、営業利益は3.7%増の301億円、税引前利益は0.9%増の291億円、当期純利益は0.5%増の199億円となった。

大幅な売上高の成長を実現したIIJ

売上高の大幅な成長は、2026年度を最終年度とする中期経営計画の1年目として、力強い出足となった。売上増加の背景にあるのは、大型SI案件が拡大している点だ。2023年度の大型案件の獲得件数は10件、約338億円だったものが、2024年度には15件、約450億円に増加。大型案件のシステム構築に関わる一時的な売り上げは約54億円から約100億円に、月額ベースの売り上げは約31億円から約68億円と、いずれも倍増している。

  • IIJの2024年度における業績の概要

    IIJの2024年度における業績の概要

2025年4月に社長に就任したインターネットイニシアティブ 代表取締役 社長執行役員兼Co-CEO&COOの谷脇康彦氏は「SIでは大型のネットワーク構築、運用案件が、売上高、営業利益の引き上げに貢献している」とした。

  • インターネットイニシアティブ 代表取締役 社長執行役員兼Co-CEO&COOの谷脇康彦氏

    インターネットイニシアティブ 代表取締役 社長執行役員兼Co-CEO&COOの谷脇康彦氏

2024年度第4四半期だけでも、公共機関向けICT基盤構築、不動産事業者向けNWインフラ刷新など、20億円以上の大型案件を4件獲得している。しかし、2024年4月のVMwareのライセンスの大幅な値上げはマイナス要素に働いた。

谷脇氏は「IIJでは、多くのサービスにVMwareを組み込んで提供してきた。クラウドサービスについては価格転嫁を行い、ネットワークサービスについても2024年度下期から料金改定を行った。2024年度全体で利益に与える影響はマイナス15億円となった。価格転嫁対応はほぼ終息したが、今後はVMwareへの依存度をどうすべきかを検討しなくてならない。依存度を下げたり、多様化したりといったことを検討していくべきである。サービススペックに与える影響があるため、中期的視点で捉えていく」と述べている。

VMwareライセンス関連の粗利へのマイナス影響は改善

セグメント別では、ネットワークサービスの売上高が前年比7.4%増の1625億円、売上総利益が同4.1%増の452億円。うち法人向けインターネットサービスの売上高が前年比9.5%増の489億円、個人向けインターネットサービスの売上高が同6.1%増の269億円、アウトソーシングサービスの売上高が同11.7%増の591億円、WANサービスの売上高が同2.7%減の276億円となった。

  • ネットワークサービスの売上高推移

    ネットワークサービスの売上高推移

また、システムインテグレーションの売上高は前年比24.2%増の1513億円、売上総利益は14.2%増の217億円となった。そのうち、システム構築および機器販売による一時的な売上高は前年比37.8%増の687億円、システム運用保守による継続的な売上高は前年比14.8%増の825億円となっている。

システムインテグレーションの受注は前年比6.7%増の1578億円、受注残高は同6.0%増の1154億円。銀行ATMおよびネットワークシステムを構築・運営するATM運営事業の売上高は前年比1.2%増の29億円、売上総利益は3.4%増の13億円となった。

  • システムインテグレーションの売上高推移

    システムインテグレーションの売上高推移

インターネットイニシアティブ 取締役 副社長執行役員兼CFOの渡井昭久氏は「大型案件の増加に伴い、ストック売上が増加している。法人向けインターネットサービスは堅調に増加し、セキュリティサービス全体でも16.2%増という高い伸びを示している。IoT関連案件も順調に増加。MVNOも着実に増加している。VMwareライセンス関連の粗利へのマイナス影響は四半期ごとに改善している。SI構築が順調であり、それに伴い運用保守ビジネスが伸びている」などと述べた。

  • インターネットイニシアティブ 取締役 副社長執行役員兼CFOの渡井昭久氏

    インターネットイニシアティブ 取締役 副社長執行役員兼CFOの渡井昭久氏

また、2024年度には262億円の設備投資を行っており、松江データセンターパーク(島根県松江市)での新棟建設、白井データセンターキャンパス(千葉県白井市)での3期棟着工への継続的投資を行い、成長投資を進めていることも強調した。

人的資本の拡充についても説明。社員数は、2023年度の4803人から2024年度は5221人にまで拡大し、離職率は3.9%へと減少(2023年度実績は4.6%)した。「IT業界の離職率は平均10%前後と言われているなかではIIJでの定着率が高い。社員が高いモチベーションを持って仕事をしてくれている」(谷脇氏)と述べている。

2025年度は売上高3400億円を計画

一方、2025年度(2025年4月~2026年3月)の連結業績予想は、売上高が前年比7.3%増の3400億円、営業利益は21.2%増の365億円、税引前利益は15.5%増の337億円、当期純利益は15.4%増の230億円とした。

  • IIJにおける2025年度の連結業績予想

    IIJにおける2025年度の連結業績予想

谷脇氏は「大型ネットワーク案件の獲得に引き続き注力をしていく。金融分野や一般事業法人で大型案件を獲得できること、企業が持つITインフラを大規模にフルアウトソーシングする動きも出ている。また、2024年度はVMwareの対応にリソースを割いたこともあり、ネットワークサービスの売り上げが減速したが、2025年度は営業リソースを十分にかけることができる。2025年4月からは営業体制を大幅に見直し、より戦略的な取り組みができるようになる。2025年度の目標は達成可能な数字である」と意欲を見せている。

セグメント別では、ネットワークサービスの売上高が前年比9.9%増の1787億円、売上総利益が10.0%増の498億円、システムインテグレーションの売上高が4.7%増の1584億円、売上総利益が19.1%増の259億円とした。

また、谷脇氏は「基本的な経営方針については今後も維持していくが、次の成長に向けて、新たなビジネスを創出していくことも必要である」とし、データ流通・連携ビジネスへの取り組み強化、サイバーセキュリティの強化、イノベーティブな人的資本の強化に対して、社長直轄プロジェクトの体制を敷いて推進する考えを明らかにした。

さらに、同氏は「IT活用の重要度が増す一方で、IT運用の複雑性や高度化、DX対応リソース不足といった課題が生まれている。IIJでは、ネットワークビジネスを基盤としながら、システムプラットフォーム、データ流通といったレイヤーを含めた一体的なサービス提供を行うサービスインテグレーションによって、ビジネス成長を図る。サイバーセキュリティへの取り組み、AIの活用についても、サービスインテグレーションのなかに盛り込みながら、ビジネスポートフォリオの拡大につなげる」との考えを示した。

  • IIJにおける2024年度の決算概要と2025年度の事業計画

    IIJにおける2024年度の決算概要と2025年度の事業計画

2024年度からスタートしている3カ年の中期経営計画では、コア領域の徹底強化と、事業規模拡大の加速を掲げており、これを推進する一方で谷脇氏は「中長期ビジョンとして掲げたITフルアウトソース、デジタル技術による社会課題解決、アジアを含むグローバル展開の加速により、売上高5000億円を目指す」と述べている。

なお、トランプ関税の影響について同氏は「直接的にビジネスに関係はしないが、日本企業のIT需要に陰りが出るのか、それともコスト削減の手段としてデジタルによって経営戦略を強化するのか、引き続き注視をしていきたい」と話す。

顧客情報漏えいで再発防止策への取り組みも説明

今回の会見では、2025年4月に公表したIIJセキュアMXサービスにおける顧客情報漏えいについても説明。谷脇氏は「セキュアMXサービスを利用している多くのお客さまにご迷惑をおかけした。お詫びを申し上げる」と陳謝。

現在、再発防止策に取り組んでおり、2025年6月末までに振る舞い検知機能を実装するとともに、5月末までにWebアプリケーションの多層化について実装の可能性を検討し、判断後には速やかに実行することを約束した。

今回のインシデントは、セキュアMXサービスにおいて、オプションサービスに使用していた第三者製ソフトウェアに未知の脆弱性があり、それを悪用した攻撃によって、情報が漏えいしたものだ。

すでに、修正プログラムによる対応を図ったほか、脆弱性対策情報ポータルサイトであるJVN(Japan Vulnerability Notes)を通じて、この事案に関する脆弱性情報を公開。総務省や警視庁、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)、個人情報保護委員会などとの連携しながら、顧客への説明や対応を継続的に進めているという。同社によると、情報が漏洩した可能性があるのは、586契約、31万1288件のメールアカウントとしている。

  • 4月に発生した情報漏えいの概要と対策

    4月に発生した情報漏えいの概要と対策

インターネットイニシアティブ 代表取締役 会長執行役員兼Co-CEOの鈴木幸一氏は「インターネットは国内だけのセキュリティ対応だけでは難しい。世界を見ながら、サービスの安全性を高めていかなくてはならない。もともとは軍事利用に近いところにある技術だ。それを意識しながらエンジニアを育て、監視をしていく必要がある。IIJも、より高いレベルの若い技術者を育て、安全性を高めることが重要である。また、IIJは良心的な人材が集まり、オールジャパンの技術者によって構成している。その特性も生かしたい。事故が起きたあとも、それを検知するシステムの開発にも取り組み、安全性という点でも、世界的な水準に持っていきたい」と決意を口にしていた。

  • インターネットイニシアティブ 代表取締役 会長執行役員兼Co-CEOの鈴木幸一氏

    インターネットイニシアティブ 代表取締役 会長執行役員兼Co-CEOの鈴木幸一氏