備品や消耗品の管理を肩代わり  製造業の黒子・ミスミG本社の〝合理化ビジネス〟

管理に頭を悩ませる間接材

 どんな会社も備品や消耗品の管理に追われている。「ペンがなくなった」「軍手がそろそろなくなりそう」……。本業ではないが、完備されていないと本業に支障が出る。そんな資材を「間接材」と呼ぶ。この間接材は製造業では工場現場の生産性に直結し、企業の競争力につながる。

 そんな雑然とした間接材を整流化させてコストダウンを図るサービスが日本で本格的に展開し始めた。ミスミGだ。備品や消耗品の管理を手掛けるTactory-MRO企業体社長の馬場隆氏は「製造業の非効率を効率化し、世の中の矛盾を解決していきたい」と語る。

 このほど同社は製造業における間接材トータルコストダウンサービス「MISUMI floow(ミスミフロー)」を開始した。フローを導入すると工場の景色が大きく変わる。工場の間接材は①軍手などの常にストックし、必要なときに必ずある状態にしておくもの②梱包資材といった、まとめて購入し、ストックしておくもの③時々使うときに、その都度調達が必要なもの─の3つに大別することができる。

 本業の製品製造に使う資材は「直接材」と呼ぶ。直接材と違って間接材は種類が多く、購買量も少ない。加えて需要が発生するタイミングが不定期のため、購買・生産管理システムなどのDXによるコスト削減効果が小さい。そのため、間接材のDXは進んでいないのが現状だ。

 ムラがある間接材は画一化して管理ができないからこそ人手に頼り、現場は非効率のままになる。結果、属人的で運用コストが高いサプライチェーンに依存することになる。工場では煩雑な調達業務や膨大な受入・配膳作業、さらには棚卸作業で多くの労力と時間が割かれている。

 また、間接材を提供するサプライヤー側にとっても、大量な在庫がコストを圧迫し、案件がなくても顧客を訪問しなければならず、商材によっては1日に何回も配達しなければならない。実はこういった製造業全体を支える生産間接材の市場規模は23兆円とも言われている。

 ミスミGはここにメスを入れる。フローはこれらの間接材の調達・管理を一括して肩代わりする。まず工場内に軍手や潤滑油などが入った自動販売機を設置。自販機はミスミが企画・開発したもの。フローでは需要データが可視化され、誰が、いつ、何を、どのくらい取ったかがリアルタイムで分かる。

 自販機内の間接材が底を尽きそうになると、ミスミGが間接材を搬入し補充。定期的に使うものは定期便で届け、その都度必要になったものはECや専任の担当者が対応する。結果、工場で働く人たちは間接材の管理に労力と時間を割かずに済む。導入後の工場では間接材調達に関わる時間が年間約1656時間だったが、フロー導入後は約437時間と7割削減している。

 Tactory-MRO企業体執行役員の大内郁浩氏は「大規模セットメーカーでは人手不足と技術承継が課題となり、小規模・零細企業はIT対応が難しい。今後は労働力の『量』ではなく『質』の向上が求められる」と話す。

 ミスミGがフローの導入を見込み事例としては、量産工場などの製造現場だ。車や電気・電子メーカーだけでなく、食品や医療など、量産工場であれば業界を問わず、同様の課題を抱えている。フローは2020年から中国で展開を始めたが、「約400工場で導入された」(馬場氏)。

1977年開始のカタログ販売

 なぜミスミGがこのようなDX対応ができるのか─。それは1977年から始めた機械部品のカタログ販売にまで遡る。それまで同社はベアリングや電子機器を扱う専門商社だったが、製造を協力会社に委託し、プレス加工部品のカタログ販売を始めた。当初、小さなパーツでも1つずつ図面に起こして加工業者に製造してもらうのが当たり前だったが、ミスミGは型番の指定で素材や寸法などを決められる仕組みを確立した。

 3000万点超の商品。寸法のバリエーションは800垓。世界107拠点で顧客数は32万社。世界最大級の品揃えと幅広いグローバル展開をしているが、受注生産で標準2日、納期遵守率99.7%という「確実短納期」を実現させている。「製造業では電気や水道のような〝社会インフラ〟となっている」(同)

 そんなミスミGの原動力となったのはITを駆使したデジタル化だ。型番で管理していた当時から製品群の情報をデジタルに置き換えると共に、受注データを蓄積してきた。それが今に活きている。扱う商材は単価の安いものばかりだが、2025年3月期の売上高は4012億円を見込み、営業利益率(同491億円)は2桁を誇る。フローを含めた流通事業(VONA事業)は売上高の約半分だ。

 いま製造業はトランプ関税に翻弄されつつある。直接材ほどコスト削減効果は大きくないが、「直接材のコスト削減も限界にきている。もう一段のコスト削減を求めて間接材が焦点になり得る」(同)。しかし、企業を取り巻く環境の変化は速く、大きい。その変化に対応できる機敏さが求められる中、〝製造業の黒子〟でもあるミスミGの知恵が試されることになる。

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