三重県尾鷲沖の深海約330メートルに沈んだ木から、目がなく白無垢のように真っ白いヒラムシを桜美林大学などの研究グループが発見し、新種「シロムクペリケリス」として報告した。肉食であるヒラムシの中でもペリケリスという種類には模様が付いてカラフルなことが多く、真っ白なものは珍しい。深海性のペリケリス類の発見は初めてで、今後深海特有の食物連鎖の様子を解明することが期待できるという。

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    今回見つかったシロムクペリケリス。白色の濃い部分は腸が存在する(鳥羽水族館提供)

ヒラムシは主に浅瀬に生息するが、3000メートルの深海からも一部が発見されている雌雄同体で肉食の生き物。プラナリアやサナダムシなどが仲閒の扁形動物だ。

桜美林大学リベラルアーツ学群の大矢佑基助教(分類学・系統学)は日頃から野外調査に加え、「世界中のヒラムシを見つけたい」と、インターネットでも情報を集めている。2019年2月、三重県鳥羽市の鳥羽水族館のブログで、深海の沈木で発見されたという真っ白なヒラムシを見つけた。大矢助教は当時北海道大学の大学院生で、鳥羽水族館に頼んでこのヒラムシを北海道まで送ってもらい、標本を作った。

観察した結果、ヒラムシの中でも世界で12種が報告されている「ペリケリス」という種類であることは分かったが、ペリケリスは派手な色味や模様がある種類も多い中で、今回は真っ白だった。深海域で発見されたのも初めてという。また、この種類に特有の目がないこと、交接器の形状がこれまで報告されていたものと違っていた。

さらに詳しく調べようとDNAを解析したところ、新種であることが分かった。見た目の白さからラテン語で「雪のように白い」という意味を持つ「ニベア」を用いて、学名を「ペリケリスニベア(Pericelis nivea)」とした。和名は花嫁の白無垢姿に着想し、「シロムクペリケリス」とした。

今回新種発見に至ったシロムクペリケリスは体長約1センチメートル、幅5~7ミリメートルの大きさだった。底引き網をしている地元漁師から鳥羽水族館側が木を譲り受けたあと、2匹いたことが観察できたが、1匹は行方不明になってしまったため、現在では大矢助教が同定した1匹しか確認できていない。

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    深海約330メートルに沈んだ木から見つかった。木の穴から出てきたシロムクペリケリスの様子(鳥羽水族館提供)

ヒラムシはほとんど研究されていないため、まだまだ謎が多い生き物の一つとされる。他のペリケリスは巻貝やゴカイ、ウミウシを食べることが分かっているが、シロムクペリケリスが何を食べているのかは不明だ。大矢助教は「今後、浅瀬に多いヒラムシが深海に生息するようになった過程を明らかにし、深い海に沈んだ木にまつわる生態系の解明に貢献したい」と話した。

研究は日本学術振興会科学研究費助成事業の支援を受けて行われた。成果は英海洋生物誌の「ジャーナル オブ ザ マリン バイオロジカル アソシエーション オブ ザ ユナイテッド キングダム」2月23日付電子版に掲載され、桜美林大学が同26日に発表した。

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