NXP Semiconductorsは米国時間の1月9日、ラスベガスで開催されていたCES 2024において新しいワンチップレーダーを発表した。これに関する説明会が1月12日に日本法人であるNXPジャパンより行われたので、その内容をご紹介したい。

今回発表されたのは「SAF86xxシリーズ」である(Photo01)。

  • 製品ポジションとしてはSF85xxシリーズの後継

    Photo01:製品ポジションとしてはSF85xxシリーズの後継であるが、異なる役割に向けた構造変更と機能強化、というのが特徴である

昨年、CES 2023の開催に合わせて第3世代のRFCMOSレーダーチップとしてSF85xxシリーズが発表されたが、これの後継製品という位置づけである。

ではSF86xxでの強化点は? というと、LiP(Launcher in Package)という構造をとったことにより、SF85xxシリーズと比べて9dBのLink Budget増加が実現したとする。この結果として、SF85xxシリーズが最大200m程度の捜索範囲だったのに対し、SF86xxシリーズでは300mまで広がっている。それでいてセンサーモジュールの底面積そのものは3割程度小型化出来たとする(Photo03)。

  • アンテナ構造が3D化

    Photo02:アンテナ構造が3D化しており、この結果としてモジュールの厚みは若干増えた模様

  • アンテナの3D化以外に送受信部の強化もある

    Photo03:この探知距離の向上は、単にアンテナの3D化以外に送受信部の強化もある模様

さてそんなSF86xxであるが、前モデルであるSAF85xxと内部構造を比較する(Photo04)と、Cortex-A53やSPT(Signal Processing Toolbox)がなくなり、その代わりCSI-2が追加されるといった、ちょっと異なる方向性に進化しているのが判る。

  • SAF85xxはCAN-FDが2ch

    Photo04:ちなみにSAF85xxはCAN-FDが2chだったが、SAF86xxではこれが1chになり、代わりにMIPI CSI-2が追加された格好

これについては、SAF85xxはあくまでも個々のレーダー単位で処理が完結する、いわばEdge Raderに向けたものであり、なので個々のレーダーごとに処理ユニットが必要となり、そこでCortex-A53やSPTといったものが必要になる。ところが今後はDistributed Rader、つまり車に搭載されたすべてのレーダーをまとめて中央で処理する形に進化してゆくとしている(Photo05)。

  • 長期的にはフロントのImaging Raderもこの分散レーダーに置き換えられてゆく可能性はある

    Photo05:長期的にはフロントのImaging Raderもこの分散レーダーに置き換えられてゆく可能性はあるが、短期的(2020年台)には難しそうとの事だ

こうなると個々のレーダーチップに高度なデータ処理能力は不要であり、データ処理はADAS ECUでまとめて行う形になる。ちなみにこれを実現するとなると、個々のレーダーと中央のECUの間のデータ量が増える(何しろ処理前の生データをそのまま送ることになるからだ)ので、これに対応するために顧客によってはMIPI CSI-2を使いたいというニーズがあるために、これに応えた格好である。

話を戻すと、こうした形で車載レーダーすべてを連携して動かせるようになることで、これまでに実現しえなかったSDR(Software Defined Rader)を実現できるとする(Photo06)。

  • 全レーダーの処理をADAS ECUでまとめて処理する

    Photo06:個々のレーダーが独立して動いているとなると、ソフトウェアの入れ替えも大変な事になるが、全レーダーの処理をADAS ECUでまとめて処理するのであれば、確かにソフトの入れ替えだけで新しい機能が実現できることになる

具体的な事例としては、smartmicroの360°のSensor Data Fusionデモ(Photo07)ではカメラ映像と360°レーダーの連動が可能になっているし、ZenderはDAR(Distributed Aperture Radar:分散開口レーダー)を実装する事でより分解能を上げる事ができる事を示した(Photo08)。

  • smartmicroは2021年7月からNXPとパートナーシップを結んでいる

    Photo07:smartmicroは2021年7月からNXPとパートナーシップを結んでいる。余談だがPhoto03に出てくるモジュールは、smartmicroがSAF85xxを搭載して製造したもので、SF86xxのものではない様に思われる

Photo09は、レーダーとカメラ映像を組み合わせることでClassificationの精度を上げるという取り組みだとする。こうしたさまざまなレーダーを使っての処理が、ソフトウェアの変更だけで簡単に行えるのがSDRの特徴であり、これに向けての製品がSF86xxという訳だ。

  • NXP社内での取り組みなのかもしれない

    Photo09:こちらはパートナー企業の名前は説明されず。あるいはNXP社内での取り組みなのかもしれない

SF86xxは現在特定顧客に向けてのサンプル出荷が開始されている。量産時期などは不明だが、現状2025年あたりの車両はまだEdge型のレーダーを採用する感じになっており、Distributed Raderが高級車などに入ってくるのは2028~2029年頃ではないか? という見通しが語られていたので、量産時期はそれを見越した時期になりそうである。