NXP Semiconductorsは11月7日(現地時間)、同社の自動車向けMCUであるS32プラットフォームに、新たに「S32M2シリーズ」を追加した事を発表した。これに関する説明が11月13日に日本法人のNXPジャパンで行われたので、その内容をご紹介したい。

S32シリーズは2017年3月にS32K1が最初に発表され、2018年6月はS32Sが、2020年1月にS32G、2020年11月にはS32K3、2022年3月にはS32G、2022年6月にはS32Z/S32Eがそれぞれ発表されてきた。これをまとめたのがこちら(Photo01)であるが、今回発表のS32MはEdge Node向けのモータ制御用という位置づけになる。

  • いつの間にかS32Sが消えている

    Photo01:いつの間にかS32Sが消えている…… (資料提供:NXP、以下すべて同様)

ここで言うEdge Nodeであるが、最近の車はDomain/Zoneのアーキテクチャに移行しつつあるという話は以前も何度か触れた通り(Photo02)。

  • DomainとZone

    Photo02:DomainとZoneのどちらを使うか(あるいは両方使うか)にしても、末端のモータの脇に何かしらコントローラが必要なのは間違いない

で、DomainなりZoneに移行したら、モータ制御もZone MCUなりCentral MCUに統合されるのか? というと、それはZone MCUやCentral MCUから例えばドアミラーなりパワーウィンドウなりのモーターまで、延々と配線を引き延ばすという実装になってしまうので、現実問題としてあり得ない。モータが置かれる場所はそれぞれの機器のそばでないと意味が無く、ここにモータドライバを置く必要があり、そこまでNetworkで繋ぐ形にしたいとなると、必然的にそこにもMCUが必要になる。今回発表のS32M2はこうした末端のモータの脇に置かれるMCUという位置づけである(Photo03)。

  • S32M2を使えばBLDCの制御が出来る

    Photo03:何で居住性が向上するかといえば、ブラシモーターをBLDCに変更する事でモータそのもののノイズが減るからという話で、S32M2を使えばBLDCの制御が出来るので、騒音が大きく寿命も短いブラシモーターを廃せる、ということだった

そのS32M2だが、内部はS32K1/S32K3 MCUにゲートドライバを追加した2ダイ構成(パッケージ的には1つ)である(Photo04)。

  • Cortex-M4Fを搭載するS32K14xが使われている

    Photo04:S32K1といってもCortex-M0+コアを搭載するS32K11xシリーズではなく、Cortex-M4Fを搭載するS32K14xが使われている

ちょっと面白いのは、S32K1にしても、S32K3にしても、内部にCAN/CAN-FDを複数チャネル搭載しているのだが、S32M2ではこれとは別にアナログダイ側にCAN-FD/LIN/CXPI対応のPHYを搭載、こちらを使う事を想定している事だ(Photo05,06)。

  • Cortex-M4F搭載のS32M24シリーズ

    Photo05:Cortex-M4F搭載のS32M24シリーズ。右下の“Integrated Components”がアナログダイの側に搭載される機能

  • Cortex-M7搭載のS32M27シリーズ

    Photo06:Cortex-M7搭載のS32M27シリーズ。アナログダイそのものはS32M24と一緒なのかもしれない

それこそドアミラーの様な用途には現在LINが使われることが多いが、日系の自動車メーカーがCXPI(Clock Extension Peripheral Interface)を採用し始めており、ところがS32K1/S32K3にはCXPIのI/Fが無い。なので、CAN-FD/LIN/CXPIのPHYを追加し、こちらをメインで使う様にしたという事の様だ。ちなみに10BASE-T1Sを含む車載Ethernetへの対応は? と確認したが今のところ対応予定はないとの事だった。

S32M2の対応アプリケーションはこんな感じ(Photo07)。

  • 流石にEVの駆動用モータは対象外

    Photo07:流石にEVの駆動用モータは対象外である

ISO 26262 ASIL-Bまでの機能安全に対応しているので、燃料ポンプとかステアリングなどにも利用できるとしている。逆にS32M2を利用するメリットであるが、ゲートドライバまで一体化されている事で外部にはMOSFETだけを配すればよく、BOMコストを大幅に削減できる(通信周りのPHYとかPMICなども搭載されているので外部に不要)ことで、フォームファクタそのものも小型化できるし、ソフトウェアもMCU部そのものは既存のS32Kシリーズと共通だから、再利用が可能であり、結果として開発期間の短縮やコストの削減に繋がる、という話であった(Photo08)。

  • 2桁%の電子部品BoMコスト削減

    Photo08:「2桁の電子部品BoMコスト削減」は「2桁%の電子部品BoMコスト削減」の意味とのこと。流石に100分の1にはならないだろう

ちなみにこのPhoto08の上側は、停車時にはステアリングが格納され、運転時に飛び出すという仕組みで、このステアリング収納機構のモータ制御などにも最適、という話であった。

S32M2シリーズはすでに6製品がラインナップされており(Photo09)、現在サンプル出荷中である。また評価ボードとモータ制御リファレンスボード(Photo10)もすでに用意されているとの事である。ちなみにBLDCのポジションセンサーとしてはホールセンサやMRセンサも利用可能だが、基本はFOCセンサレスでの動作を推奨するとの説眼であった。

  • S32M1シリーズもあるのか?

    Photo09:「S32M1シリーズもあるのか?」という質問が出たが、「現時点では無い」ということだった

  • リファレンスボードの方は直径5cm

    Photo10:リファレンスボードの方は直径5cmで、モータと一体にしやすい大きさになっている。これだとモータ後端が2cm位伸びる程度の容積で実装できそうだ