国立環境研究所(環境研)は11月9日、子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)の参加者7万530組の母子を対象に、子どもの1~4歳のぜん鳴の推移パターンを類型化。妊娠前からの母親の食事の質と子どものぜん鳴パターンとの関連について解析した結果、子どものぜん鳴パターンは、ほとんど症状のない「症状なし」群(69.1%)、2歳までは症状がなくその後急増する「幼少期発症」群(6.2%)、2歳をピークにその後症状が消える「一過性」群(16.5%)、そして持続的にぜん鳴症状を示す「持続性」群(8.2%)の大きく4つに分類されることを発表した。

また、妊娠前からの母親の食事の質と子どものぜん鳴パターンとの関連を調べた結果、母親の食事の質が高いほど、一過性群や持続性群になるリスクが低いことが判明し、妊娠前から栄養バランスの取れた質の高い食事を取ることが、子どもの特定のぜん鳴を緩和する可能性があることがわかったことも併せて発表された。

同成果は、環境研 エコチル調査コアセンターの大久保公美JSPS特別研究員(RPD)、同・中山祥嗣次長らは、国立成育医療研究センター(NCCHD) アレルギーセンターの大矢幸弘センター長らの共同研究チームによるもの。詳細は、欧州アレルギー臨床免疫学会が刊行するアレルギーおよび免疫学の全般を扱う学術誌「Allergy」に掲載された。

  • 今回の研究の概要(出所:環境研Webサイト)

    今回の研究の概要(出所:環境研Webサイト)

これまでの国内外の研究により、妊娠前および妊娠中の母親の食事は、生まれてきた子どものぜん息症状に関連している可能性があることが指摘されていたが、まだ不明な部分も多く、統一した見解は得られていないという。その理由の1つに、ぜん息は症状が多様であることがあり、人によって性質が異なるためと考えられており、特にぜん鳴は、気管支の炎症や細菌感染などのさまざまな原因で発症するため、ぜん息症状との区別が難しいとされている。

そこで研究チームは今回、1~4歳の子どものぜん鳴をその症状の推移パターンによって類型化し、妊娠前からの母親の食事の質と関連があるかどうかを調べることにしたという。

エコチル調査は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を解明するため、環境省が2010年度から全国で約10万組の親子を対象に開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査。今回の研究では、参加者のうち1~4歳時における合計4時点のうち、3時点以上のぜん鳴の有無に関するデータを有し、かつ妊娠前の母親の食事やその他の解析で使用するデータがそろっている母子7万530組が解析対象とされ、保護者の回答による1~4歳のぜん鳴の有無によってぜん鳴の推移パターンが類型化された。

また、妊娠前からの母親の食事の質の評価には、2005年に厚生労働省と農林水産省により策定された食事バランスガイドで示されている目安範囲の下限値をもとに、食事バランススコア(得点が高いほど、食事の質が高い)が算出され、同スコアで対象者を4群に分け子どものぜん鳴パターンとの関連が調べられた。

その結果、1~4歳の子どものぜん鳴パターンは4つに大別できたとする。具体的には、ほとんど症状のない「症状なし」群(69.1%)、2歳までは症状がないがその後急増する「幼少期発症」群(6.2%)、2歳をピークに4歳までに症状が消える「一過性」群(16.5%)、そして持続的にぜん鳴症状を示す「持続性」群(8.2%)。いずれも発作時の症状としては、ぜん息発作との区別は困難でゼイゼイ・ヒューヒューという音がするので、数年間経過観察しなければどの群に属しているのかはわからないという。

また、妊娠前の母親の食事の質と子どものぜん鳴パターンとの関連については、母親の食事の質が高いほど、一過性群と持続性群になるリスクが低いことが判明した一方で、母親の食事の質と幼少期発症群との関連は見られなかったとした。なお、幼少期発症群との関連が見られなかった理由の1つとしては、2歳以降のぜん鳴が急増していることから、「ウイルス性気道感染症」などほかの要因がより強く関連している可能性が考えられるとする。

以上の結果より、妊娠前から栄養バランスが取れた質の高い食事は、幼少期における子どもの特定のぜん鳴を緩和する可能性が確認されたほか、特にぜん息の発症を引き起こすリスクの高い持続性群やぜん息と誤って診断され不必要な治療を受ける可能性のある一過性群は、質の高い母親の食事によって低減される可能性があることも明らかにされた。

今回の研究は1~4歳のぜん鳴の推移パターンが類型化されたが、それ以降の症状の推移パターンは不明だとし、研究チームは今後、追跡期間を延長してぜん鳴の推移パターンを解明すると共に、母親の食事の質との関連を調べていく予定としている。