Applied Materials(AMAT)の日本法人であるアプライド マテリアルズ ジャパンは4月20日、同社が2月末に発表したEUVダブルパターニングの工程をシングルパターニングに削減できるパターンシェイピング技術に関する説明会を開催。技術的な特徴などの紹介を行った。
半導体の製造プロセスが微細化に伴い複雑化する中、回路を形成するパターニング領域の高精度化が求められており、同社もそうしたニーズに対応するための新技術や新製品を積極的に投入しており、そうした流れもあり、同社が対象とするパターニング製品市場規模(Serviceable Available Market:SAM)が拡大する中、市場シェアを拡大。2021年には29%を占めるまでに成長してきたとする。
そうした中、2023年2月に発表されたパターニング装置「Centura Sculpta(センチュラ スカルプタ)」は、EUVによる露光ニーズが拡大する中で生じるさまざまな課題を解決することを目的に開発が進められてきた、同社がパターンシェイピングと呼ぶ新たなカテゴリの装置となる。
EUV露光、特にダブルパターニングで生じる製造上の課題は、リソグラフィの後にエッチング、その後、再びリソグラフィ&エッチングを行う必要があるといった配線形成工程の複雑化に加え、そうした複雑な工程のために、使用する各種材料や水の増加、EUV露光装置そのものの価格が高いという導入コストの問題、そしてEUV露光には大電力を必要とすることから生じる電気代の高騰といったものが挙げられる。単純には比較できないが、シングルパターニングで同様の処理ができれば、これらのコストを大きく引き下げることができるようになることから、AMATでは、シングルパターニング+Centura Sculptaの活用によって、そうした課題の解決を可能としたこととなる。
微細パターニングの実現手法
半導体露光における解像度(分解能)は、露光装置の光源波長(λ、EUVの場合は13.5nm)と露光装置の光学系が光を集められる範囲を示す「開口数(NA、大きいほど広範囲に光を集められ、分解能も向上する)」を用いたレイリーの式「R=k1(λ/NA)」で示される(k1はプロセス定数)。EUVで直線状のパターンであるライン・アンド・スペース(L/S)を解像しようと思うと、光学的に最適化しようとして、XもしくはY方向の片方で最適な解像が得られるようにチューニングするのが一般的だという。通常はY方向の配線と配線の間を最適化するとされるが、その結果、X方向の配線と配線の突き合わせ部分の解像度が落ちるという課題がある。そのため、EUVのシングルパターニングであっても、tip-to-tip(パターンとパターンの間)の突き合わせ部分の解像は30nm程度が限界であり、よりその間を狭めるために、ダブルパターニングが用いられることとなる(15-20nm程度にまで詰められる)。
通常、ロジックプロセスでは、トランジスタ層の上部に何層もの配線層が形成されていくが、トランジスタ層に近ければ近いほど、微細なトランジスタのサイズに近い配線を形成する必要があることから、そうしたクリティカルレイヤにEUVのダブルパターニングを用いて、1回目の露光(+エッチング)でY方向に配線を形成した後、2回目の露光(+エッチング)でX方向を形成して高密度配線を実現することとなる(より上層の配線層は線幅が太くなっていくので、必ずしもEUVで行うとは限らない)。
そうした下層配線のほか、コンタクトホールやビアホールも高密度に形成する必要があるためEUVのダブルパターニングが必要となるが、ビアは面積の確保や重ね合わせに強いという理由から楕円とすることが多いが、やはり突き合わせ部分が光学的に解像が低下するため、2回に分けて、間を抜いたようなパターンを最初に形成し、エッチングを行った後、2回目のマスクを用いて1回目のビア同士の中間に来るビアホールを加工することとなるという。ただし、2回、マスクを用いるためあわせズレが生じるリスクがあり、突き合わせ部分が極端な場合、ショートしたり、下からくる配線とズレたりする問題も生じることがあるという。
こうしたダブルパターニングの課題に対し、今回同社が商用化したパターンシェイピング技術は、光学的な画像マージが起こらないような少し広めの余裕を突き合わせ部分に持たせた形でEUV露光を実施。その後、Centura Sculptaがパターンに対して斜めから加速器から照射されたプラズマイオンビーム(リボンビーム)を照射することでパターンの両サイドを削って、突き合わせ部分の距離を狭めていくことで、ダブルパターニング同様の高密度化を実現するものとなる(同社が公開しているYouTube上の技術説明動画を見てもらうと分かりやすいと思われる)。
ドライエッチングのような化学的反応とは異なるため、同社では新たなパターニングカテゴリ「パターンシェイピング」と呼ぶことにしたという。この技術は、いわゆるイオンビーム技術が核心であり、これまでプロセス装置では使っていなかった技術を活用することで実現したものであり(同社は電子ビームを扱うCD-SEMなど計測装置も開発・販売してきたノウハウがある)、Centura Sculptaの実用化には実に6年という研究開発期間をかけて、重要な部分の特許も抑えたことで、容易に他社が追随してくることはないものとの見方を示す。
1回の露光で済むようになるため、2回目の露光のためのEUV露光装置の購入コストを省けるほか、2回露光のための合わせズレもなくなり、工程数も削減でき、消費する材料も減らせる。また、スループットも2回目の露光+エッチング工程がなくなるため、早まることが期待されるという。
また、EUVは今後、高NAモデルが登場する予定だが、同社のパターンシェイピング技術はEUV露光装置の波長や開口数とは関係ない技術であるためそちらでも適用可能であり、かつ突き合わせ部分も1桁台のナノオーダーで精度を出せる模様であり、性能的にも長きにわたっての活用が期待できるとしている。
日本でCentura Sculptaを購入する半導体メーカーは現れるのか?
Centura Sculptaは、すでに一部の海外半導体メーカーが導入済みだという。同社のCentura Sculptaに関するプレスリリースではIntelやSamsung Electronicsがエンドースメントを出しているが、実際に両社が先行して導入しているかどうかは明らかにされていない。
IntelもSamsungもEUVダブルパターニングを、最先端ロジックプロセスで活用することが想定されるが、残念ながら日本にはまだ、そうした最先端プロセスを活用してロジックデバイスを製造できる半導体メーカーはない。Rapidusが2nmプロセスでの量産を目指しているが、まだIBMによる製造プロセスが固まっていないため、現時点では導入に向けた協議は進められていない模様である(あくまで現時点の話であり、将来的には導入される可能性もある)。
一方で日本地域では、TSMCの3DIC研究開発センターの設置を皮切りに、次世代の高性能化技術である3DICへの注目が高まっていることを同社では認識している。噂レベルではあるが、SamsungやIntelも日本で3DICに関する試作ラインを設置することを検討しているという話もでており、AMATでも、こうした日本で盛り上がる新たな市場に適用可能なソリューションを展開していくことで、日本での事業拡大につなげたいとしている。