TSMCが茨城県つくば市の産業技術総合研究所(産総研)内に2021年3月に開設した「TSMCジャパン3DIC研究開発センター」。同センターのクリーンルームが完成し、6月24日にオープニングイベントが開催された。

  • TSMCジャパン3DIC研究開発センター

    産総研内に設立されたTSMCジャパン3DIC研究開発センター

同センターは台湾に本社を持つTSMCとして初めてとなる海外での開発拠点。TSMCが熊本に建設すると発表し、2024年に稼働を予定している半導体前工場(実際には製造子会社のJapan Advanced Semiconductor Manufacturing:JASMが担当)とは異なり、同センターでの半導体量産製造は行わない。行うのは、最先端の半導体の微細化と「3次元実装」に向けた研究開発だ。

従来、チップの表面により多くのトランジスタを搭載することで高性能化を目指してきたが、3次元実装では、異なる性能を持つチップを縦に積み重ね1つのパッケージに実装することを目指す。これによって、高性能かつ、安価に優れた機能を実現できる可能性があるという。

TSMCジャパン3DIC研究開発センター バイスプレジデントセンター長の江本裕氏は同センターの開発目標を「工場でそのまま製造できるような量産技術を開発するのが同センターのミッション。そのためにセンター内のクリーンルームは製造現場を再現した」と量産までを見据えた研究開発を行う計画を明かした。

江本氏はまた、「これから改めてサプライヤーの皆様、研究機関、大学とあらゆるステークホルダーの皆様との関係を構築し、発展していくのが研究開発センターのミッション。TSMCは、日本の産業界とともに半導体の未来の成長を描く第一歩としてこの日を迎えられたことを嬉しく思う」とオープニングイベントで述べた。

  • TSMCジャパン3DIC研究開発センター バイスプレジデントセンター長の江本裕氏

    TSMCジャパン3DIC研究開発センター バイスプレジデントセンター長の江本裕氏

TSMCのシー・シー・ウェイCEOは「半導体の微細加工技術が物理的な限界に近づく中、3DICの実装が重要になってきている。世界的なサプライチェーンにおいても日本は材料や装置に強みを持つ。そのような強みを持つ日本と協業できることを嬉しく思う」とコメントした。

  • TSMCのシー・シー・ウェイCEO

    TSMCのシー・シー・ウェイCEO

TSMCジャパン3DIC研究開発センターは、経済産業省が実施する「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先端半導体製造技術の開発(助成)」の研究開発項目「高性能コンピューティング向け実装技術」の採択事業者として選出されており、今後5年間の総事業費約380億円のうち約190億円が助成される見通しだ。

オープニングイベントに出席した経済産業大臣の萩生田光一氏は「TSMCの3DIC研究開発センターでの取り組みや、熊本での工場建設、九州での人材育成は、先端半導体の製造拠点における安定的な生産を支え、日本の半導体産業の発展に貢献するものだ。半導体産業のさらなる発展に向けては、足元の国内製造基盤の整備のみならず、次世代半導体の実現に取り組んでいくのが重要だ。日本の半導体産業はかつては世界を席巻したこともあったが、メイドインジャパンに固執したため、グローバルのイノベーションの潮流に乗れなかったことが凋落の一因と考えている。こうした過去の反省を踏まえ、次世代半導体の製造技術開発を国際連携の下で進める重要性を感じている。3DIC研究開発センターでは3Dパッケージ技術を世界有数の半導体製造メーカーと、日本の半導体製造装置・材料メーカーなどと共同で開発を行う。つくば市がまさにグローバルのオープンイノベーション創出の新たな中心地となり、わが国半導体産業の発展に貢献することを期待している」とした。

  • 経済産業大臣の萩生田光一氏

    経済産業大臣の萩生田光一氏

オープニングイベントでは、このほど完成したクリーンルームも公開された。装置はまだ数台のみが設置されている形だが、これから本格的に導入し、2022年内に立ち上げを行う予定としている。

  • TSMCジャパン3DIC研究開発センター内のクリーンルームの様子

    TSMCジャパン3DIC研究開発センター内のクリーンルームの様子(提供:TSMCジャパン)

クリーンルームには工場で使用するようなAMHS(Automated Material Handling Systems)のような搬送設備も備えられている。これは量産仕様の研究を見据えているためという。 また、クリーンルームでは、ホロレンズを用いて、操作者が見ている画面を外部モニターに転送する様子などが見られた。これは、日本での開発の様子を台湾の開発拠点に送信し、共同で研究を進めていくことを想定して、導入された設備だという。

同センターは産総研内に建設されたが、産総研の研究者と協同で研究を行うわけではなく、独立して研究を行っていく予定のようだ。TSMCの台湾拠点で3DICの研究を行っていた研究者などが来て、日本の研究者とともに開発を進めていく予定としている。

江本氏は日本に開発拠点を置くことのメリットについて「一番のメリットはスピード。半導体製造装置メーカーのエンジニアや研究者同士がリアルタイムでやり取りできるという面にメリットを感じている」としたほか、研究のスケジュールなどについては明らかにしなかったが「まったく新しい半導体を作るというのが我々の仕事になっていく」と開発の展望について語っていた。