ディスプレイの国際会議「SID(The Society for Information Display)シンポジウム」を中心としたイベント「Display Week 2022」が、米国San Joseで5月8日から13日の一週間にわたってハイブリッド開催された。2020年および2021年はコロナ禍での完全オンライン開催だったが、3年ぶりに現地での対面イベントが中心となり、併設展示会では最先端技術が競って展示され華やかな雰囲気が戻ってきた(図1)。

  • Display Week 2022 Exhibitionに出展したディスプレーメーカー各社の展示ブース

    図1 Display Week 2022 Exhibitionに出展したディスプレーメーカー各社の展示ブース

ディスプレイの進化は速く、SID/Display Weekでは毎年新たな先端技術の発表や展示が行われている。数多い新技術の中でも、今年の目玉はSamsungが開発し今年上市されたQD(量子ドット)Displayになろう。年初のCESで発表され、多くの業界関係者の注目を集めた期待の製品である。CESではプライベート展示などで限定的に公開されるに留まっていたが、今回の国際会議ではディスプレイ業界の関係者に広く公開された(図2)。

このQD Displayは、青色有機EL(OLED)発光層と赤および緑のQD色変換層を組み合わせた構造で、業界ではQD-OLEDとも呼ばれてきた。Display Week展示会では、これまでLGが製造してきた白色OLED発光層とカラーフィルタを組み合わせた方式との比較展示で新方式の映像表現の良さをアピールしている。

また、QD材料メーカーであるNanosysの展示ブースでも、Samsung製のQD-DisplayとLG製の白色OLED(WOLED)との比較展示でQD材料のアピールをデモしている(図3)。

  • Samsungブースで展示された34型と65型のQD-Display

    図2 Samsungブースで展示された34型(左の写真)と65型(右の写真)のQD-Display

それぞれの写真の右側がQD-Displayで、左側の従来技術と比較して映像表示の良さをアピールしている。

  • QD材料メーカーのNanosysのブースに展示されたQD-Display

    図3 QD材料メーカーのNanosysのブースに展示されたQD-Display(右側)。左側は、従来方式の白色OLED発光層とカラーフィルタを使った方式

着実に進化しているQD応用技術

QDのディスプレイ応用としては、これまでLCDの色域を大きく拡大する技術として、バックライトに青色LED光源とQDを分散させた色変換シートの組み合わせたものが実用化され市場を拡大しつつある。一方で、QDのLCD応用の発展形として、LCDパネル内のカラーフィルタをQDで置き換える方式の開発も行われていたが実用化には至らなかった。

今回Samsungが開発し上市した青色LED発光層とQD色変換層を組み合わせた技術は、業界ではQD-OLEDと称ばれており、これが実用化されたことでQDのディスプレイ応用は、第1段階のLCD応用からOLEDとの融合である第2段階に入ったことになる(図4)。

  • QDのディスプレイ応用の進化

    図4 QDのディスプレイ応用の進化

QDは2013年にLCDのバックライトに適用されて以来、第1段階のLCDへの応用で進化してきた。実用化10年目の2022年に第2段階であるQD-OLEDが実用化され、この先の第3段階であるマイクロLEDへの応用も、世界中の開発者が取り組んでいる。

今回のSID国際会議シンポジウムのQDセッションでは、Samsung自身からの発表も含めてQD-OLEDに関する関連発表とディスカッションが行われ、メーカーによる製品の実用化だけではなく業界全体で技術の認知度と理解度を上げていく重要な場ともなった。

さらに、QDは次の応用への開発も進められている。マイクロLEDの色変換層や自発光型のQLED(QD-ELデバイス)であり、今回のシンポジウムでも関連発表が相次いだ、その中でも注目されているのが、マイクロLEDとQDの組み合わせである。この技術の詳細に関しては別の機会に譲るが、注目されているメタバースの世界に入って行くために重要なツールとなるARグラスやMRグラスに搭載される技術として世界中の企業が開発を進めており、SIDのシンポジウムでも日本のシャープをはじめ多くの講演がなされた。

QD材料のトップメーカーであるNanosysは、この新しい技術に対して積極的な市場拡大と次世代技術の開発を進めている(図4の左上の図)。SID併設のBusiness Conferenceで登壇したCEOのJason Hartlove氏は、同社のパートナー企業を含めたQD生産能力拡大にも言及した。2020年にビジネス提携した昭栄化学工業が、佐賀県の鳥栖事業所に続く生産拠点として今年4月に発表した福岡県糸島市の新工場が来年2023年10月に稼働すれば、日本での生産能力をさらに300トン増加できると述べている。この新たな生産能力増強により、6000万台の新たなQD技術搭載のテレビ市場に対応できることになる。

また、Jason Hartlove氏は、同社の技術戦略に関しても述べている。マイクロLEDのベンチャーであるglo社を昨年買収しており、展示ブースでは、車載HUDの展示デモも行っていた。QDの色変換層にこだわらずにRGBのマイクロLEDそのものの展開も視野に入れている事が、発言からも読み取れる。このマイクロLEDに関しては、別途、改めて紹介したい。