ディスプレーの国際会議である米国「SID/Display Week 2021」が5月17日からオンラインイベントとしてスタートした。新型コロナによる影響で昨年8月に続く2年連続のオンライン開催である。
一方、SIDの北京分会・台北分会・香港分会などが主催する「ICDT2021」が、SID開催からわずか2週間後の5月30日~6月2日の4日間、中国北京でリアル開催された。ICDTは2017年から毎年中国で開催され、会議のセッション構成や展示会などは本家のSIDに準じている。いわば中国版SIDであり、ディスプレー産業ではすでに世界トップ位置に躍り出た中国内からの発表が主であるが、中国内の多くの大学・研究所・企業からの発表により、本家SIDと同等のセッション構成でディスプレー技術のあらゆる分野をカバーする内容になっている。
この両イベントをオンラインとリアルという視点で見比べる1つの事例として、今回BOEが始めて発表した55型QLED(自発光型量子ドット)を取り上げる。QLEDは、OLED-TVの次を見据えて多くの研究者や企業が開発に取り組んでいる技術である。発光層に量子ドットを使うことでOLEDよりも広色域な表示を実現できるという特徴がある。BOEも2017年のSIDで5型のQLEDを発表して以来、今回55型の大型TVサイズの発表に至った。
今回BOEが発表したQLEDは、55型4K(3840×2160)、色域はBT.2020で90%、コントラスト比100万対1、バックプレーンは酸化物半導体のアクティブ駆動、QD(量子ドット)発光層はインクジェットで形成している。発光層がQDである以外はOLEDと同様に電子とホールを結合させて発光させる積層構造になっている。この技術をSIDシンポジウムで発表すると共に、オンラインのビデオ展示でデモしている(図1)。
一方、北京のICDT展示会場では、その実物を展示した(図2)。BOEブースの正面に展示され、多くの参観客に取り囲まれていた。
両者は同じ物であるが、2枚の写真を比較していただければ判るように、その印象はまったく異なる。SIDオンラインのビデオ映像では、QLEDの特徴を解説しながら、その表示のすばらしさを強調した内容になっている。一方のICDTリアル展示では、参観者が自身の目で見て感じたものが基本であり、その印象は置かれた実環境に大きく左右される。
オンライン展示ではそのコンテンツの作り方によって得られる印象が大きく左右され、視聴者が得られる情報はコンテンツに盛り込まれた内容に留まる。一方のリアル展示では、参観者が実物を色々な視点で見ることによって多くの隠れた情報を引き出すことが可能になってくる。筆者もアバター参観ではあるが、現地スタッフに指示してさまざまな視点で観察したことで、公表された仕様では判らない内容を掴むことができた。その詳細は別途の機会に譲るとして、オンライン展示とリアル展示の差をしっかり認識していくことが、コロナ後に来るであろう新たなイベント形態のあり方を考える上で重要であることを感じさせられる。
SID国際会議の本来の趣旨である「技術論文発表の場」に関しては、むしろオンラインの方が時間や空間の制限が無く効率よく情報を共有できる。科学技術の内容および学術的な内容は不変的であり、その発表形態がどうであれ中身は変わらない。一方で、ディスプレー製品の様なハードウェアは、見る人や使う人の立場によって、その解釈が大きく変わってくるため、そこにリアル展示会の意義がある。今後は、オンラインとリアルをうまく組み合わせていくことが重要になっていくであろう。
著者プロフィール
北原洋明(きたはら・ひろあき)テック・アンド・ビズ代表取締役
製造拠点および巨大な市場であるアジア各地の現地での生情報を重視し、電子デバイス関連の情報サービス活動、セミナー・展示会などのイベント開催、日系企業の海外ビジネス展開をサポートしている。
コロナ禍の2020年および2021年も、中国や台湾でリアル開催されている展示会や会議などでのアバター参観やオンライン参加を通して情報の収集を行い、日本にいては判らない世界の動きを日本に届けている。