名古屋工業大学(名工大)は5月13日、太陽光中で光強度の大きい可視光を有効活用し、二酸化炭素(CO2)を分解する光触媒を単層カーボンナノチューブ(CNT)を用いて開発したと発表した。

同成果は、名工大大学院 工学研究科生命・応用化学専攻のアヤル・アル-ズバイディ博士研究員、同・小林謙太大学院生、同・石井陽祐助教、同・川崎晋司教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

地球温暖化対策のため、温室効果ガスのCO2の削減が世界的に求められている。クルマの電動化など、CO2の排出抑制も推し進められているが、それだけでは不十分であり、大気中のCO2を能動的に還元分解する技術の開発が期待されている。

注意すべきは、この還元分解に化石燃料を使用してしまっては意味がないという点だ。CO2を排出しない再生可能エネルギーを活用して、還元分解する必要がある。その1つとして挙げられるのが、太陽光エネルギーによる光触媒で還元分解を行う方法だ。そして太陽光を利用する場合は、可視光部分の強度が大きいことから、効率を上げるために可視光に特に応答性能の高い光触媒が求められている。

CO2を効率よく還元する化合物に「ヨウ素酸銀」(AgIO3)があるが、この化合物はバンドギャップが大きく、可視光を効率よく利用することが難しいとされてきた。この問題を解決できる方法とされるのが、ギャップが小さく可視光を吸収できる「ヨウ化銀」(AgI)と組み合わせることだ。このAgIO3とAgIを組み合わせる方法は古くから考えられてきたが、実は両者の接合方法が確立されていないほか、合成法も複雑という課題が存在していたという。

そうした背景があるが、研究チームは今回、ヨウ素を内包した単層CNTを硝酸銀に浸漬するだけという簡単な方法で問題を解決することに成功した。

  • 光触媒

    ヨウ素分子を内包した単層カーボンナノチューブを硝酸銀水溶液に浸漬するだけで光触媒複合体を合成できる (出所:名工大Webサイト)

可視光によりヨウ化銀において光励起で生じた電子を、CNTを経由してヨウ素酸銀まで運び、CO2を材料として使いやすい一酸化炭素(CO)に還元するという。

  • 光触媒

    太陽光(可視光)によりヨウ化銀で光励起した電子をCNTでヨウ素酸銀まで運び、CO2をCOに還元する (出所:名工大Webサイト)

ポイントとなるのは水に不溶なヨウ素をいかに効率よく反応させるか、生成したヨウ素酸銀とヨウ化銀の結晶成長を抑え微結晶とするか、2種の微結晶の接続をどう解決するかだったという。しかし、これらはすべてCNTに内包したヨウ素により、解決することができたとした。

CNT中のヨウ素は通常のヨウ素とは異なり、化学的に活性で水に不溶であっても、反応することが考えられるという。中性のヨウ素を銀イオンと反応させることで、ヨウ素の不均化反応により、ヨウ素酸銀とヨウ化銀の同時生成に成功したとした。

また、CNT中から反応物を供給することで供給速度を低下させ、結晶成長を抑制し微結晶化にも成功したともしており、2種の微結晶を単相CNT上に均一に分散担持させることで、2種の微結晶の接続の問題を解決したとのことで、この方法なら合成コストを抑えることができ、広範な実用化が期待できるとする。

この手法で合成した光触媒複合体に、ソーラーシミュレーターにより擬似太陽光を照射したところ、CO2をCOに0.18μmol/(g・h)の効率で還元でき、少なくとも72時間はその性能に大きな劣化がないことが確認されたとするほか、今回の手法はCNTを複合化しているため、この光触媒複合体を絶縁性の透明高分子の上に塗布するだけでフレキシブル透明光触媒電極を作製することができ、さまざまな場所に設置することが可能だとしている。

  • 光触媒

    光触媒を絶縁性の透明高分子上にコーティングすると、フレキシブルな光電極を容易に作製できるという (出所:名工大Webサイト)

今後は、単層CNTの電子状態制御やヨウ素酸銀とヨウ化銀の結晶サイズの制御などにより、光触媒性能のさらなる向上を目指すという。また今回の研究ではCO2の還元に焦点を当てられていたが、この光触媒を使用して水から水素を生成する太陽光水素生成を行うことにも研究を展開してくことが期待されるとしている。