宇宙インターネット「ワンウェブ」がチャプター11を申請

多数の衛星で全世界にインターネットをつなげることを目指す「ワンウェブ」は2020年3月27日、米ニューヨーク南部地区連邦破産裁判所に米国破産法第11章(Chapter11/チャプター11)の適用を申請したことを明らかにした。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行の影響で、新たな資金調達に失敗したためとしている。今後、事業計画の見直しや従業員の整理などを行いつつ、再建が図られる。

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    ワンウェブの模式図。地球を覆うように約648機もの衛星を打ち上げ、地球のあらゆる地域に、高速かつ低遅延のインターネットを提供する (C) Airbus D&S/OneWeb

新型コロナの影響で新たな資金調達に失敗

ワンウェブ(OneWeb)は2012年に設立された企業で、約648機もの衛星を使い、全世界にブロードバンド・インターネット・サービスを提供することを目指している。

英国と米国に拠点を置き、破産申請前の2020年2月の時点で、従業員数は531人だった。

発表によると、同社は今年に入って以来、サービス展開や衛星の打ち上げなど、今後の活動に必要な資金調達を行うため、投資についての交渉を進めてきたという。米国の報道によると、交渉相手はソフトバンクグループであったとしている。同社は2016年にワンウェブに約10億ドルを出資。2019年にも追加出資し、ワンウェブの筆頭株主でもあった。

一旦は資金調達に近づいていたものの、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に関連した財務上の影響や市場の乱高下により、資金調達プロセスが停滞したという。

これを受け、同社は米国破産法第11章(チャプター11)の適用を申請。なお、チャプター11は日本の法律でいうところの民事再生法に近いものであり、会社が完全に消滅することはなく、今後事業を継続しつつ、事業計画の見直しや従業員の整理などを行い、再建が図られることになる。同社によると「会社の価値を最大化するために事業の売却を検討する」としている。

全世界での安定的なサービス展開に必要な衛星数は約648機とされるが、これまでの衛星打ち上げ数は74機にとどまっていた。ただ、44基の地上局の半分が完成、または開発中であり、400Mbpsを超える回線速度と、32msのレイテンシ(遅延時間)をもつブロードバンド・システムの実証実験に成功していたという。

また、宇宙専門誌『SpaceNews』の報道によると、すでに531人の従業員のうち約85%を解雇しているものの、衛星の運用能力は維持されているという。

ワンウェブのCEOを務めるAdrian Steckel氏は「この状況は、COVID-19による経済的影響を受けた結果です。今日はワンウェブにとって困難な日となりましたが、あらゆる場所ですべての人をインターネットでつなぐという私たちの社会的な使命、そして経済的な価値を確信しています。チャプター11によるプロセスによって、ミッションの完成につながる道が切り開けることを願っています」とコメントしている。

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    ワンウェブ衛星の想像図 (C) OneWeb

ワンウェブのこれまで

ワンウェブを立ち上げたのは、実業家のグレッグ・ワイラー(Greg Wyler)氏という人物である。

その背景には、現在、世界の人口約70億人のうち、半数にあたる30~40億人がまだインターネットを使うことができない「情報格差(デジタル・デバイド)」の問題がある。

ワイラー氏はまず、アフリカのルワンダで携帯電話や有線によるインターネットを敷く事業を手掛けたのち、全世界を対象にネットを敷くため、衛星を活用することを発案。高度1200kmの地球を南北に回る複数の軌道に約648機もの数を打ち上げ、地球を覆うように配備することで、地球のあらゆる地域に、高速かつ低遅延のインターネットを提供することを目指した。

衛星の製造は、欧州の大手航空宇宙メーカーであるエアバス・ディフェンス&スペースと協業。衛星の打ち上げは欧州のロケット会社アリアンスペースと、米国のバージン・オービットと契約した。また前述のように、ソフトバンクグループなどから多額の出資も受け、今回の破産までに総額約30億ドルを調達していた。

2019年2月には、試験機となる衛星6機の打ち上げに成功。その成果を踏まえ、20202月に初の実運用機となる衛星34機が打ち上げられた。3月にも34機が打ち上げられ、これまでの打ち上げ数は74機だった。

3月の打ち上げ時点で、今年後半に北極圏地域を対象にしたサービスを開始し、2021年からは全世界でのサービス開始を目指していた。また、将来的には648機に加え、さらに追加の衛星を打ち上げ、より高速で低遅延、そして高い信頼性をもつサービスの提供も目指していた。

地球低軌道の衛星を使った通信事業者が破産するのは珍しくなく、これまでにイリジウム(Iridium)、グローバルスター(Globalstar)、オーブコム(Orbcomm)などが破産を経験している。ただ、いずれも再建に成功し、新しい衛星を打ち上げ、現在も事業を継続している。今回ワンウェブがチャプター11を申請したことからも、再建できる可能性はあるものとみられる。

しかし、ワンウェブは必要な衛星数やサービスの規模が桁違いに大きいため、新しい買い手が現れるかどうかなど、今後どうなるかは不透明である。かつてワンウェブと同様の宇宙インターネットの構築を計画していたテレデシック(Teledesic)は、1999年にチャプター11を申請したが、再建できなかった。

宇宙インターネットはワンウェブ以外に、スペースXも「スターリンク」と呼ばれるシステムの構築に挑んでいる。スターリンクはすでに400機以上の衛星打ち上げに成功し、今年末にもサービスが始まる予定となっている。衛星の打ち上げを他社に委託していたワンウェブとは異なり、スペースXは衛星の開発、製造から打ち上げまですべて自社内で完結しており、ロケットも低コストであるため、衛星打ち上げにかかる費用などの負担が比較的軽く、その点でワンウェブよりも有利になっているものとみられる。

このほか、アマゾン(Amazon)やフェイスブック(Facebook)、アップル(Apple)も参入を目指しているとされる。

参考文献

OneWeb Files for Chapter 11 Restructuring to Execute Sale Process | OneWeb
OneWeb files for Chapter 11 bankruptcy - SpaceNews.com
OneWeb successfully launches 34 more satellites into orbit in second launch of 2020 | OneWeb