先端工学とデザインが出会って生まれたアート展
未来を生み出すための科学技術の先端研究と、科学や技術をよりよく活用するためのデザインが出会ったら、何が起こるのか?。その一端を垣間見える展示会「もしかする未来」が、12月1日~9日までの期間、東京・六本木の国立新美術館にて開催される。
同展示会は、東京大学 生産技術研究所(東大生研)の設立70周年記念イベントの第一弾となるもので、正確にはプレイベントという扱いとなっている。そのコンセプトは、東大生研の研究から生み出された数々のプロトタイプを、その背景に秘められた技術とともに紹介しようというもの。
ディレクションは2015年より東大生研の教授として活動しているデザイナーの山中俊治氏が担当し、東大生研のおよそ20の研究室が参加する形で、研究の中身をアーティスティックに仕上げたものが多数展示されている。山中氏曰く、「東大生研は、テクノロジーの専門家の間では有名だが、一般の方々にはあまり知られていない。東大生研がアーティスティックな活動をすることで、一般、特に女性の方に来てもらいたい」と、技術を前面に押し出すのではなく、アートの一部に技術が活用されている、といった流れで楽しんでもらうことを意識したとする。
そのため、主催は東大生研で、ディレクションは山中氏であるものの、展示構成およびテキストはデザインライターは角尾舞氏、グラフィックデザインは山中氏が「若手で一番活躍しているデザイナー」と語る三澤遥氏や佐々木耕平氏、会場構成に五十嵐瑠衣氏、展示タイトルにコピーライターの磯目健氏、パネルイラストにイラストレーターの佐々木那保子氏といった外部のアーティストらが協力。「科学技術の研究所というと、ジェンダーバランスが悪いのが一般的だが、今回の展示会は、多くの人に分かりやすく伝えたい、ということで、意図的に多くの女性に参加してもらった」(山中氏)と、アートとして楽しんでもらうための工夫やアイデアを盛り込んだものとなっている。
また、場所を国立新美術館に選んだ点については、実は1949年に創立された東大生研は、1962年から2000年にかけて、まさに現在、国立新美術館が建っている場所に拠点を有していたという関係がある。そのため山中氏も「元々、東大生研があったこの場所が、現在は美術の重要な場所になっているということを面白く思っている」と、かつてここにあった東大生研が培ってきた技術とアートが出会い、この場で披露することが意味深いものとする。
展示構成はどうなっている?
「もしかする未来」展は、おおきく4つのエリアで構成されている。1つ目は「PLACE もしかする未来が生まれる場所」と題されるエリアで、東京・駒場に設置されている現在の東大生研の様子が写真で紹介されている。
2つ目は「PLATFORM もしかする未来のつくりかた」と題されるエリアで、東大生研が現在進めている価値創造デザイン推進基盤の拠点となっているS棟と呼ばれる建物の紹介などが行なわれている。
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「DESIGN LAB ZOO」と題された出張デザインラボ。会期中はここで研究を進めるというが、来場者もボードに貼ってある質問などに対し、アイデアやコメントを付箋で貼り付けていったりと、参加型の仕組みとなっている
3つ目は「PROTOTYPE もしかする未来の原型」と題されるエリアで、4エリア中でもっとも広い。複数の研究室から誕生したさまざまなプロトタイプの展示の紹介が行なわれている。
新野俊樹研究室による3Dプリンタの未来に向けた活用法を模索する目的で生み出されたプロトタイプ群。それぞれに名称があり、上段左から右に順に「硬球感」、「Elastic Surface」、「十亀折りの一体成型」(2枚)、「Al-dente」、「さまざまな握り心地のキューブ」、「さまざまな握り心地のグリップ」、「トカゲ」。これらは実際に触って、触感を体感することができるのだが、3Dプリンタの樹脂は硬いというイメージが払拭されるような触感となっているので、ぜひ実際に触れてみてもらいたい
「Ready to Crawl」シリーズその1
「Ready to Crawl」シリーズその2
「Ready to Crawl」シリーズその3
「Ready to Crawl」シリーズその4
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「F.o.G - Face on Globe」。人と機械が心地よくコミュニケーションするためのデザインの模索として、球体にほんの少しの変化をもたせ、人に機械の「感情」を感じてもらうことを表現したもの
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「Breathing Skeleton」。もし、動くガイコツが実在したら、どのように動くかをテーマに、人間の呼吸する動作を骨格のみで表現したもの
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「Parametric Tube」。3Dプリンタを使って作られる、柔らかい構造の研究から生まれた作品
Parametric Tube
Breathing Skeleton
F.o.G - Face on Globe
チタンつなげて回す
そして4つ目が「ARCHIVE もしかする未来の足跡」と題されたエリアで、これまでの70年間の足跡を振り返る資料として高い価値のあるものなどが展示されている。
ペンシルロケットの模型やK-IV型ロケットのレプリカ、秋田県道川で1957年6月16日に打ち上げられたK-6型-RS-1号機の写真、1962年8月22日の鹿児島県内之浦での初めての打ち上げ実験の様子など、日本の宇宙史を振り返る際の貴重な資料なども展示されている
会場には来場者も参加できる仕掛けや、プロトタイプの中には、実際に触れてみたり、操作してみたりすることができるものもあり、子供でもアートという視点というよりも、なにか不思議な面白いもの、といった感覚で楽しむことができるようになっている。
開催期間や入場料は?
「もしかする未来」展は国立新美術館3階展示室3Bにて開催され、その会期は2018年12月1日~9日(4日は休館日)で、開催時間は10時~18時(7日のみ20時まで開館。入場は閉館の30分前まで)で、同展のみの鑑賞であれば、入場料は無料となっている。
また、会期中の12月5日には、国立新美術館の講堂にて、展覧会で発表される「もしかする未来」を描く試みの数々、展覧会を通じた社会とコミュニケーションの在り方、そして今年度の価値創造デザインにおける重要な取り組みである人材育成について、外部からのゲストを交えたトークイベント「第4回価値創造デザインフォーラム『もしかする未来』」も開催される。こちらは参加費は無料だが、事前に参加申し込みを行なっておく必要がある。
なお、東大生研としては、今回の展示会を皮切りに、2019年には、6月に70周年記念講演会の開催を実施するほか、7月には日本のロケット研究の父として知られる糸川英夫先生が東大生研に所属していたこともあり、また現在、日本の各地に宇宙開発発祥の地が存在していることを受けて、それぞれの地域振興につながる横断的な取り組みを協議して推進するコンソーシアム「科学自然都市協創連合(仮称) ~宇宙開発発祥の地から繋ぐコンソーシアム~」の設立を予定、そして11月には70周年記念式典の開催も行なうことを計画しているとのことで、今後も東大生研とゆかりのある国立新美術館を活用した取り組みも含め、さまざまな情報発信をしていきたいとしている。