既報のように、インターステラテクノロジズ(IST)は4月30日、観測ロケット「MOMO2号機」の今回のウィンドウ内での打ち上げを諦め、「夏以降」の再挑戦を目指すことを明らかにした。当初、5月3日以降の実施を狙っていたが、打ち上げの準備が間に合わないと判断した。日本初の民間宇宙ロケットの誕生は、夏以降へお預けとなった。

  • 観測ロケット「MOMO2号機」

    打ち上げが延期された観測ロケット「MOMO2号機」(C)NVS

反省点こそあれど、「出口の見えないトラブルではない」

MOMO2号機は今回、4月28日~5月5日の期間中に打ち上げを実施する予定だった。初日(4月28日)は、チェック作業の遅れと天候により延期。2日目(4月29日)は、空圧バルブを駆動するための窒素ガスがリークし、再度延期していた。

当初、ISTは窒素系統を改修し、翌日(4月30日)にも打ち上げる構えだったが、統合試験まで行うことができず、断念した。初号機での実績がある構成に戻す改修とはいえ、さすがに統合試験無しで本番に臨むのは拙速に過ぎる。無理をせず、一度仕切り直すことにしたのは、判断としては評価できるだろう。

  • 観測ロケット「MOMO」の窒素系統のイメージ図

    MOMO初号機と2号機の窒素系統のイメージ図

打ち上げの延期は、失敗とは違う。リークを検出し、打ち上げを止めることができたのは、安全系のシステムや手順が正常に機能した結果であるとも言える。最初の延期の原因となった確認作業の遅れについても、急ぐ余り、確認作業が十分でないまま進めるよりは良かったと思う。

特に今回は、初のペイロードミッションとして、高知工科大学のインフラサウンド(超低周波音)計測器を搭載している。MOMOの今後の商業化を見据えた重要なデモンストレーションとなるだけに、慎重な運用が求められるだろう。

とはいえ、なるべく急ぎたいのも事実だ。MOMOは弾道飛行用の観測ロケットであるが、ビジネスとしての"本丸"は、その次に開発する衛星用ロケットの「ZERO」(コードネーム)である。

  • インターステラテクノロジズの衛星用ロケット「ZERO」

    記者会見の会場に置いてあったのがZEROのモックアップ

超小型衛星の打ち上げで競合となる米Rocket Labの「Electron」は、すでに打ち上げに成功している。日本では、キヤノン電子らが出資した新会社が、ロケット開発の検討を進めている。国内外で競争が激しくなってきていることを考えると、なるべく早く2号機を打ち上げ、MOMOの商業化を実現し、ZEROの開発に弾みを付けたいところだ。

今回発生した窒素ガスのリークについては、同社創業者の堀江貴文・取締役が「出口の見えないトラブルではない」と会見で語っていたように、技術的にはそれほど解決が難しい問題ではないと見られる。打ち上げ当日まで問題を発見できなかったのは反省材料だが、十分時間はあるのできっちり直してくるだろう。

  • インターステラテクノロジズの堀江貴文・取締役

    同社創業者の堀江貴文・取締役

立ちはだかる、低コスト化の壁

ただ、今回の打ち上げ延期で見えてきたのは、「市販品を最大限活用する」ことの難しさだ。市販の汎用品は、安価に購入できる反面、スペック表以上の詳細なデータは分からない。今回の問題は、その見えない部分の特性が原因になった可能性もあるそうで、堀江氏は会見で「我々が1から設計した部品であれば、問題点はすぐに見つけられるが…」と語っていた。

しかし、ブラックボックスを避けるため、すべての部品を独自開発していては、コストが跳ね上がってしまい、同社の「ロケットのコストを大幅に下げる」というミッションは果たせなくなる。どこまで汎用品を使い、どこから独自開発するかは悩ましい問題で、今後も「避けては通れない苦労」と言えるかもしれない。

宇宙への最大の"壁"と言われる「Max Q」(動圧最大点)の突破を目指した2号機であったが、今回は残念ながら、打ち上げ前に低コスト化の"壁"に行く手を遮られてしまった形となった。改めてロケット開発の難しさが浮き彫りになったわけだが、今回の経験をフィードバックし、次回の挑戦に活かして欲しいところだ。

  • MOMO初号機

    Max Q付近で機体が破損したと見られるMOMO初号機 (C)IST

ちなみに6月下旬~7月上旬には、小惑星探査機「はやぶさ2」が目的地である小惑星リュウグウに到着する予定。今年の夏は、日本の宇宙開発にとって、目が離せない時期となりそうだ。楽しみに待つことにしたい。