働きアリは卵や幼虫など幼く脆弱な子供と同居させると、本来の活動リズムをなくし、24時間働き通しになることを明らかにしたと、東京大学の研究グループが発表した。

同成果は、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 修士課程 藤岡春菜氏、岡田泰和助教、国立情報学研究所/JST ERATO 阿部真人特任研究員らの研究グループによるもので、2月1日付けの英国科学誌「Biology Letters」に掲載された。

ヒトを含めた地球上のほぼすべての生き物は、体内時計(概日リズム)を持っている。概日リズムは、光などの環境要因の影響を受けやすいが、子や他個体など社会的な要因にも影響を受け、ヒトだけでなくイルカ、シャチなどでも、生後間もない子を持つ親は活動パターンを変え、昼夜問わず育児をすることが知られている。

また、アリをはじめとする社会性昆虫では、幼虫などの未成熟個体は自力ではエサをとったり、カビや病原菌から身をまもったりできない脆弱な存在で、手厚い育児が必要となる。しかし、家族や仕事といった社会環境をアリがどの程度認識し、働き方や時間の使い方をどう決めているのかは、これまでよくわかっていなかった。

今回、同研究グループは、アリに卵・幼虫・蛹という異なる成長段階があることに注目。沖縄産のトゲオオハリアリを用い、成長段階の異なる個体を養育することで、働きアリの活動時間が変化するかどうか、動画とコンピュータ解析で自動的に個体の位置を取得する自動追尾システムを開発し、働きアリの活動量、活動時間を定量化することで調べた。

この結果、トゲオオハリアリはもともと昼行性だが、卵や幼虫を世話する働きアリは昼行性から24時間活動し続けるようになる一方で、蛹を世話する働きアリは昼間活動性のままであることが明らかになった。同研究グループはこの違いについて、蛹には餌を与える必要がないことや、蛹は繭に包まれており、病原菌などから守られているため世話があまり必要ないことが要因であると考察している。

今回の実験は、1匹のアリを1匹の子とペアにするものだったが、同研究グループは今後、自動追尾システムを活用・発展させることで、さまざまな個体と仕事内容が混在する実際のコロニーに近い状況において、働きアリたちがどのように育児を分担し時間と労力を割り振っているのかを調べていく方針だ。

各条件における働きアリの活動性を示した図。黒棒の高さが活動量 (出所:東京大学Webサイト)