京都大学(京大)は10月3日、M9.0の2011年東北地方太平洋沖地震の本震、M7.3の三陸沖地震(2011年東北地方太平洋沖地震の前震)、M7.1の東北地方太平洋沖地震の余震の直前に、上空の電離圏電子数の異常を捉えることに成功したと発表した。
同成果は、京都大学大学院 情報学研究科 梅野健教授、同修士課程学生の岩田卓也氏らの研究グループによるもので、9月30日付の米国科学誌「Journal of Geophysical Research - Space Physics」に掲載された。
地球の上空に広がる電離圏は、地震や火山、太陽フレアなどの自然現象やミサイル発射などの人為的事象によって影響を受けることが知られており、2011年東北地方太平洋沖地震の本震直前に電離圏電子数の異常増加現象が発見されて以降、電離圏電子数の観察によるM8以上の巨大地震発生前の異常検出について研究が行われてきた。
しかし、これらの従来のデータ解析法では、異常を検知するために地震発生後のデータが必要で地震の直前予測には直接利用できず、また異常が検知されたにも関わらず、該当する巨大地震が発生していないなどの予測誤差があるなど、確固たる異常検知用法として確立されていなかった。
今回、同研究グループは、数十億光年の彼方にあるクエーサー等の電波星から放射される電波を、複数のアンテナで同時に相関を取ることで受信可能にする電波計測技術「VLBI(Very Long Baseline Interferometry:超長期線電波干渉法)」にヒントを得ることで、異常検知法を開発した。
同手法ではまず、それぞれのGPS観測局で観測データをもとに電子数を予測。予測した電子数と実際に観測される電子数との違いを予測誤差とし、予測誤差が大きければ異常が大きいと判断する。次に基準となるGPS観測局と周囲の複数GPS観測局とで得られた予測誤差の同時刻相関を取り、その総和を計算することで異常検知における時間精度を高め、さらにノイズに対する頑強性(信号対雑音比、SN比)を格段に増大させることにより、約1時間以上前から異常を検知することが可能となった。
また同研究グループは、同手法により2011年3月11日に発生したM9.0の東北地方太平洋沖地震だけでなく、同年3月9日に発生したM7.3の三陸沖地震、同年4月7日に発生したM7.1の東北地方太平洋沖地震の余震といったM7クラスの大地震においても、電離圏の電子数の異常を約20~30分前の時点で検知できることを発見した。
なお、異常検知に用いているデータはすべて、地震の発生前の国土地理院が運営するGNSS(Global Navigation Satellite System/全球測位衛星システム)連続観測システム「GEONET(GNSS Earth Observation Network System)」が日本全土を密にカバーする約1300局ある観測局から得られる公開データのみであり、誰もが同手法による異常検知とその検証を行うことが可能となっている。
同研究グループは今回の成果について、M7以上の大地震発生1時間前から20分前の直前予測の可能性に道を開くものであり、今後公開データのみを用いる同手法の地震直前予測能力の第三者検証が進むことが期待できるとしている。