Hot Chips 28において、Levant Powerの創立者でCEOのShakeel Avadhany氏が同社の「Super Active Suspension」を発表した。実は、あまり注目していない発表だったので、発表者の写真を撮り忘れてしまった。同氏の写真は同社Webサイトで見ることができる。しかし、これが面白い発表であった。

もちろん、制御にはプロセサなどが使われているのであるが、Hot Chipsで車のサスペンションの発表が行われるのはこれが初めてであろう。あまり注目していなかったのであるが、最初のデモビデオで度肝を抜かれた。

この写真だけでは迫力が落ちるが、LevantのSuper Active Suspensionを搭載した車が、ボンネットにシャンパンタワーを載せて、舗装道路ではなく、原野を相当なスピードで走っていた。

Levant Powerのスーパーアクティブサスペンションを搭載した車が、ボンネットの上にシャンパンタワーを載せて、舗装道路ではなく、悪路を走っている様子 (この記事のすべての図は,Hot Chips 28でのShakeel Avadhany氏の発表資料をコピーしたものである)

アクティブサスペンションは、30年も前から開発されてきているが、効率が悪い、応答が遅い、値段が高いなど、なかなか満足のいくものが作れていないという。

これまでに作られたアクティブサスペンションは、効率が悪い、応答が遅い、値段が高いなど、満足が行くものではない

それらの問題を、Levantは、ローカライズした電子制御の油圧システムと革新的なソフトウェア制御で解決したという。

ローカライズした電子制御の油圧システムと革新的なソフトウェア制御でこれらの問題を解決

「GenShock」と呼ぶこのシステムでは、4つの車軸のショックアブソーバに、油圧をコントロールするコントローラと、ボディの動きを検出する加速度センサを取り付ける。

車全体のコントローラと4つの車軸のサスペンションにコーナーコントローラを付ける

油圧システムであるが、「Activalve」と呼ぶ、可変のバルブを備え、ここの調整で、スポーツカーのような硬いショックアブソーバにしたり、乗用車のように柔らかい特性にしたりすることができる。

パッシブな特性。ピストンの移動でガスが圧縮され反発力が生まれる

それだけでなく、Activalveはピストンの位置に関わりなく、ピストンを押す力を大きくすることも、小さくすることもできる。

アクティブ領域では、同じピストン位置でも反発力を大きくも、小さくもできる

次の図は、ショックアブソーバに取り付けたActivalveの画像である。

灰色の筒がショックアブソーバで、右の黒いポッドがActivalve

GenShockシステムはGatewayと書かれた全車をコントロールするモジュールから、各車輪に付けられたActivalveのコントローラに信号を送って制御する。Activalveのコントローラには32bitのマイクロコントローラが使われている。

左の大きな箱は電源で、右のGenShockと書かれた部分が、全車の制御を行うゲートウェイで、各車輪につけられたActivalveのコントローラを制御する

GenShockシステムは、車輪をコントロールするローカルループとボディをコントロールする分散コントロールループを持っており、両者を総合してDCモータを動かし、ピストンに掛ける力をコントロールする。電子系の遅延は1ms、DCモータの動きに1ms、そして、油圧の力が伝わるのに10~11msで、全体で12~13msで反応する。

油圧を使わず、ショックアブソーバも電気でやれば、もっと、応答は速くなるが、コストが上がってしまうので、電気と油圧を組み合わせているという。

ボディをコントロールする分散制御ループと車輪を制御するローカルの制御ループを持っている

次の図は路面に位置のずれたバンプ(膨らみ)を設置して、車が横揺れする状態で測定したものであるが、パッシブなショックアブソーバの普通の車や、GenShockがパッシブな状態で走った場合は、大きな横揺れが生じているが、GenShockをフルに動かした場合には、横揺れが非常に小さくなっている。

でこぼこにした道を走行した場合の傾き。青が普通のパッシブなショックアブソーバ。緑はGenShockを止めてパッシブにした場合。GenShockを動かすと傾きが大幅に小さくなっている

また、ノイズの周波数成分を見てみると、上側のGenShockによる消去効果がない場合は、200Hz以下の1次成分が大きく見られるが、1次成分の消去を働かせた場合は、赤い1次成分が殆ど見えなくなっている。

雑音の周波数成分のグラフ。キャンセルを行わないと200Hz以下の1次成分が多いが、キャンセルを行うと、この成分はほとんど見えない

結果として、冒頭に掲げたようにシャンパンタワーを載せて、走ることができるようになっている。メカとエレクトロニクスを組み合わせ、優れたソフトウェアで制御すると、こんなことも出来るという良い例である。