東京医科歯科大学はこのほど、運動中に発生する致死的不整脈に関係する新たな遺伝子を同定したと発表した。

同成果は東京医科歯科大学難治疾患研究所生体情報薬理学分野の古川哲史 教授、小泉章子氏と保健衛生学研究科生命機能情報解析学分野の笹野哲郎准教授の研究グループらによるもので、10月2日付け(現地時間)の国際科学誌「European Heart Journal」オンライン版に掲載された。

マラソンなどの運動中では、約1万人に1人の頻度で突然死が発生し、肥大型心筋症など遺伝性疾患の関与が知られている。しかし、心臓に一見異常が無い人でも運動時の突然死は同程度の頻度でみられ、その原因はほとんどわかっていない。

心臓には静脈から血液を受け取る心房と動脈に血液を送り出す心室があり、致死的不整脈は心室で発生する。心房では下方に位置する心室に血液を送るため電気信号が上から下に伝わり、心室は上方にある大動脈・肺動脈に血液を送り出すために電気信号が下から上に伝わる。この電気信号伝達の逆転は、心室に特異的に存在するHis-Purkinje系という細胞集団によって可能となっている。His-Purkinje系は進化の過程で哺乳類になってから初めて出現したシステムで、心機能強化に寄与することが知られている。

今回の研究では、His-Purkinje系に特異的に発現し、電気信号の伝達に関与するIRX3という遺伝子と致死的不整脈の関係を検討した。その結果、IRX3の遺伝子異常がマウス・ヒトの両方で一見正常な心臓でみられる致死的不整脈に関与していることがわかった。また、致死的不整脈は運動などによって交感神経の緊張が高まったストレス下で生じることも判明した。

同研究グループは、平常時は健常な心臓で運動・ストレスに関連して起こる致死的不整脈に関与する遺伝子としてIRX3を同定できたことで、健常人における運動中の突然死の原因解明に貢献し、その発生に関する予測・予防法の開発が期待できるとしている。

正常人でIRX3 異常が運動時不整脈を起こす機序