アート部門
今年度は大賞該当なしとなったアート部門。入り口から入ってすぐのところに、優秀賞のメディアインスタレーション「センシング・ストリームズ-不可視、不可聴」(坂本龍一/真鍋大度)を展示。携帯電話やラジオなどから発せられる電磁波を音と映像で表現したもので、札幌国際芸術祭2014で展示されたものをそのまま東京へと移設した。六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、青山公園、東京タワーから取得したレコーディングデータを元にしており、来場者が周波数を自由に変更し、東京を飛び交う電磁波を「可視・可聴」にした映像を見ることができる。
また、同じく優秀賞の「Nyloid」は、兄弟で結成したアートユニット「Cod.Act」による作品。6メートルもの巨大な構造物が目を惹きつけるが、これは単なるオブジェではなく「音響彫刻」。会期中複数回設けられているパフォーマンスタイムには、巨大なトライポッド(三脚)がエンジンの回転によりのたうちまわり、肉声を分解した音源が動きに合わせて発せられるさまは圧巻だ。公式サイトにタイムスケジュールが掲載されているため、合わせて来場することをお勧めしたい。
エンターテインメント部門
大賞「Ingress」の特設展示のほかにも、意欲的な作品が多く展示されていたエンターテインメント部門。優秀賞のインタラクティブインスタレーション作品「3RD」は、来場者が実際に作品を体験することができる。
鳥を模したデザインのヘルメットをかぶると、その内部にあるモニターで、外部のカメラを通じて俯瞰された自らの姿が映し出されている。ゲームのように感じられる風景だが、紛れもなくそこに映っているのは自分自身。係の方にうながされるまま歩き回ってみたが、奇妙なズレや浮遊感があり、筆者は2度ほど壁にぶつかった。頭にかぶって異なる視点を得る、という点では、近年活用めざましいヘッドマウントディスプレイ「Oculus Rift」を活用したコンテンツを連想させるが、この作品がもたらすのは、同デバイスによる没入感とはまた異なる体験だった。
スライムに触れると音が鳴るデバイス「Slime Synthesizer」 |
「のらもじ発見プロジェクト」 |
3Dプリンタとスマートフォンの活用により、デザイン性が高く安価な筋電義手を開発するプロジェクト「handiii」 |
そのほか、「のらもじ発見プロジェクト」では現地でタイピングした任意の文字列を「のらもじ」で表示できる展示ディスプレイが用意され、スライムを楽器にしたサウンドデバイス「Slime Synthesizer」は実際に演奏してみることができるなど、体感型の展示が複数見られた。
アニメーション部門
アニメーション部門は、作品(あるいは予告映像)の上映のほか、手描きの原画や設定資料などが展示されているブースが作品ごとに設けられていた。短編アニメーション『The Wound』はモニターでの上映ではなくシアタースペースが設置され、来場者が腰掛けて鑑賞することができるようになっていた。
また、新人賞の劇場アニメーション『たまこラブストーリー』コーナーでは、さまざまなシーンの原画を複数用意するのではなく、特定のシーンの原画を複数並べて展示。そのほか、キャラクター設定画を詳細に掲示するなど、鑑賞後のファンの視線を意識した展示構成となっていた。
マンガ部門
マンガ部門もアニメ―ション部門と同様作品ごとにブースを設けた展示形態だが、各々の作品性を強く押し出した挑戦的な展示が行われていた。
大賞「五色の舟」(近藤ようこ/原作:津原泰水)では同作を構成する膨大な直筆原稿に着目し、第1話~第4話までを直筆原稿で読ませる仕掛けが展開された。デジタル作画が普及してきた漫画界において、これだけの量の直筆原稿を読む機会というのは非常にまれだといえる。
また、ドラマ化もされて話題となった優秀賞「アオイホノオ」(島本和彦)は、作品テーマとなっている「80年代のマンガ業界」の熱気を演出する意味あいで、作者の仕事机や使用している画材、ネームと完成版の比較などが行われている。
今年度は展示の密度が濃く、体験型の企画も多く用意されるなど、来場者が楽しめるインタラクティブなものとなっていた。4分野で話題を呼んだ注目作品が無料で一覧できる機会となっているため、ぜひ足を運んでみてほしい。