行政・民間企業・市民の一体化で課題を追求

アクセンチュアの素材・エネルギー本部 公益事業部門統括 エグゼクティブ・パートナーの伊佐治光男氏

最後に日本でのスマートグリッドをどう考えるべきかをアクセンチュアの素材・エネルギー本部 公益事業部門統括 エグゼクティブ・パートナーの伊佐治光男氏が語っていたので、それもお伝えしておく。

伊佐治氏は、これまで提示されたボルドーとアムステルダムの事例を振り返り、「スマートグリッドはさまざまなモデルが出てくる。一括りに"米国型""欧州型"といった形で語れない。日本でも個々の要求に応じた取り組みが必要」(同)と指摘する。また、「スマートグリッドというと、電力供給側の手段ばかりがアピールされる傾向にあるが、それを用いて何を実現する社会を作るかがポイントになる」(同)としたほか、「投資対効果も問題になる」(同)とする。

確かに電力会社単体でスマートグリッドを考えれば、消費電力が抑えられることとなるので、利益が圧迫されることとなる。「投資対効果で見れば、そこはネガティブ。ただし、電力会社だけに責任を押し付けるのではなく、社会全体として低炭素社会という価値を考える必要がある」(同)とし、公共部門と民間部門を一体的に捉えて投資対効果を評価することが重要であり、それにより投資回収期間は大幅に短縮されることとなると指摘する。

スマートグリッドの投資対効果を公共企業だけで考えるとノウハウが少なく、かつ使用量が減るため効果は低くなる。そのため、そこに低炭素社会/低炭素都市という付加価値を、行政側が公共の価値として加えることがポイントとなるとする

また、公共部門という意味では、「アムステルダムもボルダーもたまたまそこでやろうということになった訳ではなく、電力が社会インフラであるために、都市という単位が重要となる。行政も社会インフラに投資をすることで、新しいアプリの創出にもつなげることができる。1企業に責任を被せるのではなく、都市という観点で取り組むことが必要」(同)とし、スマートグリッドの効果として、生活者、公益企業、自治体それぞれが過小評価をしているのではないか、とする。

都市の全体像を通して実現されるインフラの価値についての評価が必要となる

例えば、生活者の面では、「ハード的、技術的には省エネ機器の義務化などが挙げられるが、それ以上に実際は生活している個人個人がどれくらい電力を使っているかなどのデータを見ることで、消費行動を変える"ヒューマンウェア"がポイントになる」(同)と指摘する。元々、日本は省エネが進んでいる国であるので、伊佐治氏は「そうした主権を個人に与えてみるのも面白い試みになる」(同)とする。

また、自治体としても、地方分権の議論が起こる中、地域の特色、個性をスマートグリッドで打ち出せるようになるとし、「日本が国としてどうするかではなく、我が県、我が市区町村でどうするのかを打ち出していく良いきっかけになるはず」(同)と、地方自治体の奮起を促し、「行政、市民、民間企業の3者がパートナーシップ(Public Private Partnership:PPP)を組むことによる協力体制が重要。行政が数あるスマートグリッドの定義の中で、どこまでを自分達が打ち出すかを決めて進めていくのが現実的だと思われる」(同)と指摘する。

また、アクセンチュアとしても、「日本でも特色ある都市計画を進めようとする自治体と、地域活性化に貢献しようとする公益企業のペアリングを支援していくことで、日本という単位ではなく、市区町村の単位で何にインセンティブを持たせるかという観点から次世代の都市生活をどう作るかという取り組みを推し進め、個性を強めていく必要がある」(同)とし、そのためには住民が強い参加意識を持つ必要があるほか、行政のトップである市長などが明確なビジョンを示す必要があるとした。

低炭素化社会は、企業の努力だけでも、自治体の呼びかけだけでも実現されず、そこに住む市民の意識の変革が伴い、それらが絡み合うことで始めて実現に向けて動き出す