欧州アムステルダム市の事例
一方のアムステルダムの事例についてVerseveld氏は、「欧州の電力業界は各国の対応がまちまちなのもあり、共通の方向性が定まっておらず、業界としても低炭素化もしくは競争化に向けて動いているわけではない」と指摘する。
しかも、「EUは一昔前、エネルギー効率の面でフロントランナーと言われてきたが、京都議定書の目標達成が困難との判断がこの数カ月の間に出てきた」(同)とするほか、「近い将来、EUの80%の人口が都市に集中するとの調査も出てきており、都市の各種インフラを新しくする必要に迫られているとする。「電力消費の中心である"都市"は、今後の省エネとエネルギー効率化の焦点となる。すでにエネルギーの効率化に向け多くの都市の市長がコミットメントを打ち出しており、目標を達成できなければ政治的責任が問われることとなることから、どうやって目標を達成していくかが問題となってきている」(同)と語る。
「スマートグリッドを活用するためには、データインフラを整備しないことには、各種のデータを受け取ることができない」とVerseveld氏は、都市そのもののITが必要だと語る。ここで述べられている各種データというのは、都市ごとに性質が異なるもので、例えばストックホルムやシンガポールといった都市では自動車を中心とした交通状況の把握、マドリッドでは水に焦点を当てている。「各都市ごとに重要視する部分(インフラ)はその都市のアイデンティティにつながるため、すべてを1つの都市で対応することは困難」(同)であり、アムステルダムでは行政と民間が連携することで、法の整備やマーケティングを行い、利害調整を行いながらCO2の削減を目指しているという。
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各都市ごとに重視するインフラは異なってくる。すべてを重視しようと思えば、相当な労力と時間、コストが必要となる |
アムステルダムでは、港に停泊している船への陸上からの電力供給を実施しているほか、各種データの可視化を重視した取り組みを進めている |
この場合の取り組み方としては、「Xcelのようなケースとは異なり、SNSを重視することで、グループイニシアチブによる各グループのニーズの明確化を行うことで、どういった技術を導入する必要があるのかを協議し、それは経済的にも実現可能かどうかの検討を行った」(同)という方法を採用したという。
こうした取り組みは「Amsterdam Smart City(ASC)」と称されており、可視化を重視し、「Sustainable Living」「Sustainable Working」「Sustainable Mobility」「Sustainable Public Space」の4つの注力領域で多くのパートナー企業との協業という形で実証実験が行われている。また、中心街のUtrechtsestraat通りを"Climate-Street"に改名し、住民などの協力の下、エネルギー消費行動変革プログラムや省エネルギー施策などのプログラムが展開されており、「行政改革の準備が整いつつある」(同)という。
また、EUは約130億ユーロを投資し、ポルトガルのポルト郊外に16万km2の面積を持ち6万5,000人が居住可能な、スマートグリッドに対応したインテリジェントシティの構築を0から行う「PlanIT Valley」構想を打ち出している。構築期間は2009年第4四半期から2013年にかけてで、将来の都市の見本を目指すとしており、これによって得られた各種知見などをIP化し、ライセンシングによるビジネス化を狙うとしており、欧米のITベンダなど複数社が参画している。