興味深い話題として、東洋経済が掲載した「壮絶リストラに追い込まれたソニー、2つの大誤算」という記事がある。ソニーは最近になり正社員8,000人を含む1万6,000人の大規模人員削減を発表したが、その背景にエレクトロニクス分野での戦略ミスがあったというのが同記事の分析だ。1つは同社が巨額をかけて開発したBlu-ray技術から思ったような利益が得られなかったこと、もう1つは液晶TVに対するユーザーの需要が低価格品に集中し、同社が利益を見込んでいた高付加価値製品に飛びつくユーザーが少なかったことが原因だという。

東芝がHD DVDからの撤退を表明したことで次世代HDディスク規格の勝利者となったBlu-rayだが、立ち上がりがかなり緩やかだったこと、また普及期に金融危機が重なったことで高付加価値製品として売ることが難しく、結果として販売促進のために大胆な値下げ販売を行わざるを得なくなってしまった。販売台数増には貢献したものの、当初見込んでいたような利益は得られず、非常に難しい舵取りを迫られている。液晶TVのケースも同様で、新機能や付加価値がコモディティ化するまえに利益を得るという当初の目論見は外れ、家電メーカーとしては一番避けたいシナリオに突入してしまっているようだ。

東芝が展示していたREGZA LINK。こちらはHDクォリティの映像を無線ネットワークを使ってHDTVで再生するというもの。画像ソースは残念ながら規格競争から撤退したHD DVDプレイヤーだ。HD信号の無線送信にはHDMIケーブルを無線化したものと、Wireless HDを利用した技術の2タイプがある。今回のデモで使用されているのは後者のWireless HDを使用している

以上を踏まえたうえで再びCESに目を向けると、また別の視点が見えてくる。一見華やかなイベントの裏で、目の前の大きな壁に頭を悩ませるメーカー担当者の姿が浮かぶ。メーカーにとってのポイントは2つで、低価格競争を避けるための技術開発力、そして金融危機後の不況下でもユーザーをつなぎとめる提案力だ。利益確保のためのコスト削減策もさることながら、そのうえで既存の開発力やアイデアの数々はそのまま維持しなければならない。米国での液晶TV販売が価格の安さを原動力にしていることからもわかるように、しばらくは低価格がメーカーにとっての大きな武器となる。だが過当競争のスパイラルから脱出するには、それ以上に魅力的な提案でユーザーをつなぎとめることが重要だ。

例年より規模縮小が見込まれるCESだが、筆者はこのイベントをいままで以上に楽しみにしている。不況下でこそメーカー各社のユニークなアイデアが飛び出し、現状打破を行ってくれると考えているからだ。その一端をぜひ会場で確かめたい。

夕暮れのラスベガス。家電業界は次の夜明けをどう迎えるのか?