大画面TVの一大販売拠点は米国だ。潜在的な需要もさることながら、過去数年にわたってメーカー各社が積極的な売り込み合戦を仕掛けており、世界の各市場と比較しても全体に販売価格が安い。すでに3年前の時点で1,000ドル未満で40インチクラスの液晶TVが購入可能だったほどだ。メーカーや小売り各社は金融危機を警戒する形で早めに年末商戦向けに積極的な値引き攻勢を開始しており、4 - 5割引きといったかなり大胆な割引価格を提示している様子も散見される。調査会社の米iSuppliによれば、年末商戦初日にあたる感謝祭(11月第4木曜日)直後のブラックフライデーでの32インチ液晶TVの平均販売価格は、10月の875ドルという平均値から54%引きの399ドル程度だという。液晶TVは一例だが、ノートPCなどの比較的高価な家電製品においても今年は半額近い値引きを提示するケースが多く、金融危機による販売額の落ち込みをカバーすべく小売側がキャンペーンを展開している。こうした努力もあり、年末商戦での小売全体の販売額は1 - 2%とわずかながらも前年比で増加することが見込まれるとアナリストらは分析している。
米国では日本に先んじる形で2009年2月にTV向けのアナログ停波が迫っており、これが大画面TV販売を押し上げているという声もある。メーカー側も駆け込み需要を期待して積極的に製品を展開している状態で、小売店も巻き込み前述のような値引き攻勢で次々と在庫を捌いている。iSuppliによれば、2008年に米国で販売されたTVのうちのおよそ91%がプラズマまたは液晶型TVだったという。2011年までには全米の旧型TVのうちの約9割がこうした薄型TVで置き換えられることになるとも同社は予測する。一方でTV販売の過当競争状態となり、メーカーは差別化のために新機能追加の必要性に迫られるというシナリオを想定する。差別化ポイントの1つがパネルの大型化やフルHD対応であり、リフレッシュレートの改善、あるいはソニーが発表した有機ELなどの新型素材を使ったTVとなる。現状の1080p HDTVのさらに倍以上の解像度を持つTVもその1つだ。
だが大画面化と同じで、こうした機能強化にどこまでユーザーや周囲の環境が追いついてくるかがメーカーにとっての最大の課題だ。当初のターゲットは一般消費者でいえば富裕層、あるいはAVマニアのような特に品質にこだわる層となるが、層としてはそれほど厚くない。そのためコスト分を吸収できる高価格での販売が前提となる。だが金融危機の影響で富裕層であっても財布の紐がだいぶ固くなるのは確実で、高価格に値するメリットを感じないと思うユーザーが増えることで、メーカー側の技術競争にブレーキがかかる恐れがある。こうした新技術は数年をかけてすべての製品ラインへとまんべんなく広がることが多く、新技術を投入できないままミッドレンジ以下の製品で低価格を売り物にした新興メーカーとぶつかることになり、技術開発の停滞は死活問題につながる。