東北大学大学院理学研究科の佐藤宇史助教授ならびに同大学原子分子材料科学高等研究機構の高橋隆教授らの研究グループは11月10日、黒鉛超伝導のメカニズムを解明したことを発表した。

黒鉛超伝導は、電気をわずかに流す半金属であり、グラファイト(黒鉛)の層の間にカリウム原子を入れると、2K程度の低温で超伝導を生じる、というもの。2005年には、カルシウムを同層間に入れると、11.5Kで超伝導状態になることが確認されていた。

今回の実験は、光電子分光と呼ばれる手法を用いて、カルシウムを入れた黒鉛超伝導体(C6Ca)中の超伝導電子の観測を行ったもの。

超伝導体の光電子分光

光電子分光は、物質に紫外線を照射し、外部光電効果により物質外に放出される電子のエネルギーを測定することで、物質内にある電子の状態を観測するというもの。これにより、超伝導を担う電子はグラファイト単独層に存在するπ電子やσ電子ではなく、グラファイト層が重なり合うことで、層の間に新たに形成される「層間電子状態」に存在する電子であることが判明した。

(a)が黒鉛の原子配列、(b)が黒鉛超伝導体状態、(c)が黒鉛超伝導対中のπ電子、σ電子、層間電子状態

また、層間に挿入されたカルシウム原子は、この層間電子状態に電子を与えると同時に、層間電子が超伝導になることを助ける働きをしていることも判明した。

今回の研究結果により、今後はカルシウム以外の原子や分子を入れたり、グラファイトの炭素をほかの元素で置換したりすることで、さらに高い超伝導転移温度(Tc)を持つ超伝導体が見つかる可能性が出てきた。

また、今回用いた光電子分光装置をより高分解能化することで、超伝導を引き起こしている層間電子の性質がさらに明らかにされ、高温超伝導などの機構解明と、Tc上昇につながることが期待される。

なお、同成果は、文部科学省・日本学術振興会科学研究費および科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)の「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」研究領域の研究課題「バルク敏感スピン分解超高分解能光電子分光装置の開発」によって得られたものである。