今年6月の秋葉原連続殺傷事件以後、相次ぐネット上の犯行予告。だが、犯行予告で逮捕された後、被告となった加害者側がその後どうなるかはあまり知られていない。今年7月に起きた平井堅さんのコンサートでの殺人予告は民事訴訟にもなり、被告が請求された賠償金額全額を支払うという結果となった。その経緯をレポートする。

殺人予告を書き込んだのは福岡県久留米市の31歳の会社役員男。福岡県警によると、男は今年7月2日、歌手の平井堅さんのコンサートを中止させようと、携帯電話のインターネット掲示板に「コンサートを中止しろ。じゃないと無差別に刺し殺す。警備隊がいる時は乱射する」などと殺人予告を書き込んだ。「一緒に行く予定だった女性から別れを告げられたことの腹いせだった」と供述していたという。

殺人予告の舞台となったのは、福岡市のマリンメッセ福岡。財団法人「福岡コンベンションセンター」が管理・運営している。マリンメッセでは7月5日夜と6日夜に平井堅さんのコンサートが予定されていた。

県警から犯行予告について連絡を受けた同財団は対応に追われ、民間警備会社に警備員17人の増強を依頼。また、休日にもかかわらず職員ほぼ全員を出勤させ、安全対策にあたらせた。コンサートは予定通り行われ、2日間で約1万9,000人が来場したが、会場周辺には警察官延べ約60人が配置され、異例の"厳戒態勢"となった。

福岡コンベンションセンターは男に約120万円の損害賠償を請求、男は全額を支払った。

福岡コンベンションセンターでは、「増員した警備員の人件費や、職員の時間外手当などにかかった費用なので賠償は当然のこと」とコメント。男からは「一生この罪を償っていきます」などと書かれた謝罪文も届いたという。

秋葉原連続殺傷事件以後、ネットを悪用した犯罪予告の書き込みは急増。警察も対策に力を入れ、刑事事件として立件されるケースも増えているが、今回は刑事だけでなく民事でもその責任が追及された形だ。男は刑事でも偽計業務妨害罪で起訴され、12日に開かれた初公判では検察側が懲役1年を求刑した、と報道されている。

ネット問題に詳しい国立情報学研究所客員教授で弁護士(英知法律事務所)の岡村久道氏は「民事でも責任を追及できればそれにこしたことはないが、この手の犯罪は秋葉原連続殺傷事件のように仕事を首になるなどしてむしゃくしゃした人間が社会を恨んで起こすことが多い。損害賠償を勝ち取っても相手に資力がなければ"絵に描いた餅"。やはり、刑事罰が必要であり、インターネットに関する法整備や正しい知識の啓発など、総合的対策で犯罪の発生自体を減らすことが大事だ」と話している。

ネットの匿名性についてはこちらのレポートを参照

【レポート】なぜ捕まるのか? とまらない犯行予告と逮捕劇に見る"ネットは匿名"の誤解