今回は、10月9日に開催されたハイブリッドクラウド研究会の勉強会の様子をお伝えします。

13回目となる勉強会は、9月22日~9月24日(米国時間)に開催された米Microsoftの年次テクノロジーカンファレンス「Microsoft Ignite」でベールを脱いだ最新情報のなかから、注目の新機能をピックアップして解説する内容になりました。

Azureの新機能

最初に登壇した日本マイクロソフト 高添修氏は、ハイブリッドクラウド分野におけるAzureの新機能を解説しました。

セッションのポイント

クラウドファーストを掲げ、多くの組織が「マルチクラウド」「オンプレ」「エッジ」の切り口でクラウドを活用している。いずれにおいてもビジネススピードの向上やITシステムの全体最適化を目指すなかで、自社の要件にマッチするサービスの「良いところ」を組み合わせて利用する個別最適なアプローチが非常に増えている。

最新テクノロジーのメリットは大きいが、駆使すればするほど管理コストや負担増に陥る可能性があることは否めない。そのような負担を軽減すべく、Microsoftではさまざまなベンダーと協力する戦略を強化しており、「Azure Netapp Files」のようにMicrosoft自身が構築から提供、販売、サポートまでを行うサービス「Microsoft Azureファーストパーティ」を打ち出しつつ、Azure Arcの進化を進めている。

◆「Azure Arc」の進化

Azure Arcは、さまざまな環境やプラットフォームをまとめた単一のコントロールプレーンとなるが、昨年のIgniteで発表されて約1年が経過し、市場や顧客からのフィードバックによってエンタープライズレベルで必要とされる以下の機能が出そろいつつある。

  • Azure Policy
  • Azure Defender
  • Azure Sentinel
  • Azure Monitor
  • インベントリ/変更管理
  • 更新管理

機能拡張だけでなく、これまでの守備範囲だった「サーバ」「Kubernetes」に、さらに「サービス」をプラスした3つの領域を管理下に収めることを目指しているという。

  • Azure Arc eabled infrastructure
    • Azure Arc enabled Servers
    • Azure Arc enabled SQL Server(パブリックプレビュー)
    • Azure Arc enabled Kubernetes(パブリックプレビュー)
  • Azrure Arc enabled services
    • SQLManaged Instance
    • PostgreSQL HyperScale
Azrure Arc enabled infrastructure Azrure Arc enabled services

Azure Arc eabled infrastructure

Azrure Arc enabled services

サービス領域に含まれるのは現在、データベースに関わる部分のみだが、今後はIoTを含めた管理も視野に入れられつつある。

なお、Azure Arcの導入事例も増加しており、アバナード、富士通、アーンスト・アンド・ヤング、KPMG、レッドハットといった企業で採用されている。

◆Azure Stackファミリーも着実に進化

「Azure Stack Hub」ではGPU対応が正式リリース(GA:General Availability)され、AMD、NVIDIAのGPUパワーを活用可能となった。CADやゲーム開発などVDI活用も視野に入れ、カナダのTeradici社との協業も発表されている。

「Azure Arc for Data Services」「Azure Kubernetes Services」「Azure Container Registry」もパブリックプレビューとなったほか、エッジソリューションの「Azure Stack Edge」も、NVIDIA GPU搭載の1Uサーバが新たにリリースされる。

◆Azure Stack HCI

MicrosoftのHCI(Hyper Converged Infrastructure)である「Azure Stack HCI」においてAKS(Azure Kubernetes Service)クラスタを展開できるようになり、Azure Arcからの管理も可能となった。

AKS on Azure Stack HCI

Azure Stack HCI上に展開されたAKSクラスタをAzure Arcで管理可能に

◆その他のAzure関連のトピック

  • セキュアで効率的な仮想マシンリモート接続を実現する「Azure Bastion」の機能拡張
  • Azure Portalインタフェースに組み込まれる「Windows Admin Center on Azure Portal」の提供開始
  • Azureファーストパーティサービスとして「Azure VMware Solution」が正式リリース。VMware部分を含めてMicrosoftによるシングルサポートが実現
  • Azure Edge Zone」と5Gネットワークを組み合わせた新たな取り組みが始動
  • Microsoftが米Affirmed Networks、英Metaswitch Networksといったネットワーク関連企業を買収し、上記の取り組みを加速
  • 「Azure Cognitive Services on Azure Stack」のアップデート
  • 「Azure Defender/Azure Sentinel」のアップデート

なお、高添氏は例年公開されるガイドブック「Ignite 2020 Book of News」に言及。同ガイドブックは、Microsoft Igniteで発表された新情報をとりまとめたものですが、今回はこれに含まれない情報も存在すると説明し、以下のサイトの動向にも注目してほしいと呼びかけました。

Azure ArcとRancher Kubernetesが生み出す相乗効果

2つ目のセッションにはRancher LabsからSales Director 西原順二氏が登壇し、Kubernetesのプロビジョニング/管理を担う「Rancher」とAzure Arcによるシナジーについて解説しました。

セッションのポイント

コンテナ活用でよく聞くのは、「デプロイが迅速」「リソース効率が良い」などのメリットがある一方で、「管理コストの増大」「承認プロセスによるスピードの減速」「コスト削減のみに注目してしまい組織改革ができない」というデメリットがあるという話だ。なかでも、Kuberntesの導入/管理における課題として、学習コストの負担が大きいことが挙げられる。

そうした課題を解決するため開発されたのがRancherのコンテナオーケストレーション機能である。シンプルなUIでKubernetesやインフラを管理することができ、ハイブリッドクラウド/マルチクラウドの一元管理を実現。加えて、CIS(Center for Internet Security)ベンチマークに準拠した認証セキュリティとポリシー管理機能を提供する。

Rancher

Rancher

また、Rancher自身が軽量Kuberntesディストリビューション「K3S」を提供しており、エッジコンピューティングシナリオに対応可能となっている。

◆Azure Arcとの連携

米Rancher Labsでは、RancherとAzure Arcの連携に関連する情報を積極的に発信するほか、MicrosoftによるジョイントMeetupなども実施しているという。ここで再度登壇した高添氏が、Azure Arcリソースプロバイダ経由でRancher上のKubernetesを管理する仕組みを解説。さらに今後のMicrosoftの方針として、Azure Arcが注力できていない、クラスタープロビジョニングやライフサイクル管理、アップグレード/パッチ管理などをRancherとの連携によって相互補完していくことなどが紹介された。

クラウド型統合運用管理ツール「OpsRamp」

最後のセッションでは、日本ビジネスシステムズの田島崇暁氏が登壇し、クラウド統合管理ツール「OpsRamp」を紹介しました。

セッションのポイント

  • OpsRampは監視ツールやITSMと連携し、クラウド環境/オンプレミス環境をハイブリッドに統合管理可能なSaaS型のツール
  • マルチテナントに対応しており、パートナーポータルで複数のEUテナント(クライアント)の管理が可能
  • 監視対象としてAzure、AWS、GCP、VMwareなどをシングルペインで確認可能
  • ドリルダウンによってホストの基本情報のほか、1200以上の監視テンプレートを適用することでさまざまな情報の取得/監視が可能
  • アラートの発生や傾向などは、OpsRampのAI機能によって相関関係などを紐付けることが可能
  • 継続的な学習が可能となっており、AIが対処の可否を判断し、アラート抑止などを自動化する。メリットは、管理者の運用コスト削減に貢献できる点
  • RestAPIに対応しており、監視やITSMに加え、インテグレーションツールなどとも連携可能

* * *

今回の勉強会で紹介された3つのソリューション(Azure Arc、Rancher、OpsRamp)は、いずれもハイブリッド/マルチクラウドの一元管理を目指すものです。今後もハイブリッドクラウド/マルチクラウドの領域には、さまざまなソリューションが群雄割拠していくでしょうし、目が離せません。

また、本研究会では、5Gネットワークの拡大を視野に入れたエッジコンピューティングの動向にも注目していきたいと考えています。皆さんの積極的なご参加をお待ちしています!

今回の勉強会は、Youtubeにて公開しています。ぜひ、そちらも併せて御覧ください。

次回勉強会について

前回もお伝えしたように、毎月第2金曜日を「勉強会の日」として完全オンラインの勉強会を開催しています。次回は、11月13日(金)に第14回勉強会を開催予定です。引き続きMicrosoft Igniteで発表された新機能にスポットを当て、その実力を検証していきたいと思います。
ライトニングトーク枠も準備予定ですので、「我こそは! 」という方はぜひ手を挙げてください。

著者紹介

株式会社ネットワールド
Microsoft ソリューション プリセールスエンジニア
津久井 智浩(つくい ともひろ)

ソリューションディストリビューターであるネットワールドの一員として、お客様に付加価値を提供するというミッションの下、Microsoft製品を中心にオンプレミスからクラウドまで幅広く提案~導入を担当。
趣味はバイク。昼散歩が日課。最近は自分よりもカミさんの働き方改革を何とかしたいと苦悩し、マインクラフトを通して子供と一緒にプログラミングを学びたいと願う40代。3児(2女、1男)の父。