レッツノートは、ビジネスモバイルにフォーカスしたノートパソコンとして、「軽量」、「長時間」に加えて、「頑丈」という観点からも大きく進化した。
もともとレッツノートは相反する要件を、高い次元で両立してきたノートパソコンだ。
長時間バッテリー駆動を実現するには、セル数を増やすのが手っ取り早いが、それでは重量の増加につながる。もちろん堅牢性を追求すれば、それも重量の増加に直結する。だが、ビジネスモバイルとしての要件は、これらを実現しながら、軽量化することが求められる。そして、「頑丈」という要素が加わると、そのハードルはさらに高くなる。
このように、軽量化を最優先とし、そこに、長時間、頑丈という相反する要素を組み合わせながら、ビジネスモバルイの進化を追求しつづけてきたのがレッツノートであった。
そして、レッツノートが目指すビジネスモバイルの次の進化において、さらに厳しいハードルが設定された。
それは「高性能」である。
パナソニックでは、これをレッツノートの「第3世代への進化」と位置づけている。
時代の変化は、モバイルに「高性能」を求めた
レッツノートが「高性能」化を目指した背景には、市場ニーズの変化があった。
それまでのビジネスモバイルの用途は、主に外出先でメールをやりとりしたり、資料を表示したり、レポートを作成したりといったものであった。
だが、公衆無線LAN環境が広がり、3G通信環境の整備、WiMAXサービスの開始などにより、外出的でインターネットに接続する用途が増加。さらに、タブブラウジングにより、複数のサイトを立ち上げて閲覧するといった使い方が一般化してきたところであった。また、ビジネスシーンでは不可欠なPowerPointでは、多数の画像を貼り付けたり、動画を活用することが増え、それを現場で表示するだけでなく、修正したり、作成したりといった用途も増えていった。さらに、今後のクラウドの広がりや、ウェブでのリッチコンテンツの増加は、当然のように、想定される要素であった。
加えて、大型化するアプリケーションや暗号化ソフト、ウイルス対策ソフトウェアなどに対しても、モバイル環境で対応する必要が出始め、外出先でも、ストレスなく、作業を行なうことが求められるようになってきたのだ。
これまでは、モバイルだからといって、半ば諦められていた「高性能」が、ビジネスシーンにおける用途の高度化とともに、ビジネスモバイルにも必要不可欠な要素となってきたというわけだ。
開発チームは、こうしたニーズの変化を捉えて、レッツノートの次の進化のテーマに、「高性能」を選んだ。
実はこの頃、ノートパソコン市場では、ネットブックが全盛期を迎えていた。
ネットブックは、手軽に持ち運んで、外出先や移動中などでの利用を想定した小型パソコンで、主な用途として、ウェブサイトの閲覧や、メールのやりとりなどを想定。インテルのAtomなど、普及価格帯のCPUを搭載するとともに、OSには一世代前のWindows XPを採用することで、5万円前後の低価格を実現していた。まさに、2台目に位置づけるサブノートとしての利用を、手軽に実現できる製品群であり、2009年度には、国内におけるパソコン出荷台数の1割以上をネットブックが占めるほどの勢いがあった。
しかし、パナソニックでは、早い段階から、「ネットブックへの参入は考えていない」と宣言。競合各社が、低価格で、性能が低いネットブックに力を注ぐなかで、逆張りともいえる「高性能」に舵を切ったのだ。
レッツノートにおいて、初めて「高性能」を実現したのは、2009年10月に発売した「CF-N8」および「CF-S8」である。いずれも、サブノートパソコンとして、標準電圧版CPUを初めて採用。これにより、超低電圧版CPUを搭載したサブノートパソコンに比べて、約1.7倍の高性能化を図った。
それまでのサブノートパソコンでは、超低電圧版CPUを搭載するのが一般的であった。
ノートパソコンやデスクトップパソコンに搭載されている標準電圧版は、超低電圧版に比べてクロック周波数が高く、高性能化が図れるものの、その分、発熱量が高く、筐体が小さいサブノートパソコンでは放熱に課題があったため、搭載が難しいとされていたからだ。また、電力消費量が多いため、バッテリー駆動時間が短くなり、持ち運んで利用するサブノートパソコンには不利ともされていた。
軽量化、小型化、長時間、頑丈を維持しながら、高性能化を図る――。
レッツノートの開発チームにとっては、またひとつ、相反する新たな条件の両立に挑戦することになったのだ。
重量級CPU搭載、なのに「バッテリー駆動時間を2倍にしろ!」
大きな課題は、やはり、標準電圧版CPUが発生する熱の処理にあった。
その解決のために、開発チームが取り組んだのが、新たな冷却ファンの開発であった。
羽根部分の形状と大きさを見直し、直径を小さくしながらも厚みを持たせることによって、十分な風量を確保。サイズを約30%小型化し、サブノートパソコンにも収まるようにした。
さらに、インテルとの共同開発により、ソフトウェアとハードウェアが連携して熱処理を行う「DPPM(Dynamic Power Performance Management)」を採用。これも標準電圧版CPUの搭載に大きく貢献することになった。
だが、単に標準電圧版CPUを搭載し、高性能化を図るだけが、開発チームに課せられたテーマではなかった。
「CF-N8」および「CF-S8」の開発がスタートした2009年初頭。開発者出身だった当時の事業責任者は、開発チームに対して、想定外のテーマを課した。
「バッテリー駆動時間を2倍にしろ! それができなければプロジェクトは解散だ」――。
サブノートパソコンに標準電圧版CPUを搭載するだけでも、他社が踏み出したことがない未踏の領域であり、高いハードルだ。それにも関わらず、標準電圧版CPUを搭載することで短くなるのが当然ともいえるバッテリー駆動を、逆に長時間化することを条件とし、しかも従来の2倍という「無謀」にも聞こえる条件を出したのである。それを実現しなければ、プロジェクトを解散するという、開発チームが引き下がることができないところにまで追い込んだ。
それまでにもレッツノートは、JEITA規格で約8時間から約11時間の駆動時間を実現していたが、このときに、社内で最低限のレベルとして設定していたのが8時間駆動であった。これを2倍の16時間にまで引き上げるというわけだ。
「1日使いっぱなしにするには、8時間の駆動時間が必要。だが、高性能CPUを利用し、ネットワークに接続した環境で利用するためには、JEITA規格の基準値に当てはめれば、いまの2倍の駆動時間が必要になる。そのためには、小手先の改革ではなく、回路そのもの、構造そのものを見直す必要がある。CF-N8およびCF-S8は、新世代のビジネスモバイルとして、これまでの延長線上ではない考え方で設計し直した」
開発チームは、ファンやバックライトモジュール、光学ドライブ、バッテリーなど、多岐に渡る部品に、長時間化のための工夫を施した。
「ひとつのテクノロジーやテクニックで、2倍もの駆動時間を実現するのは不可能である。大企業、中小企業を問わず、技術力を持った様々な企業との連携や、部材メーカーとの緊密な関係、グループ企業との強固な関係を構築することによって、長時間化に挑戦していった。日本の企業が持つ擦り合わせ技術があるからこそ実現できた」
パートナー企業との連携をさらに強化するとともに、協業による試行錯誤の繰り返しにより、「CF-N8」および「CF-S8」は、当時としては世界最長となる16時間の長時間バッテリー駆動時間を達成。レッツノートの開発チームは、高性能化と長時間化という相反する条件を、より高い水準へとハードルを引き上げながら、乗り越えていったのだ。
このとき、パナソニックは、「プロフェッショナルモバイル」という新たな言葉を使った。
「サブノート」からの脱却、「プロフェッショナルモバイル」へ
1996年6月に発売した初代レッツノートでは、ニュースリリースのなかで「サブノート」という言葉を使っていた。つまり、あくまでもセカンドマシンとしての位置づけだ。
それから13年の歳月を経て、レッツノートは、モバイルで活用できる軽量、長時間、頑丈といった仕様を維持しながら、1台目のパソコンとして稼働させることができる高性能を初めて実現した。
「それまでのモバイルビジネスユーザーは、オフィスで利用する高性能パソコンと、モバイルで利用する軽量サブノートの2つを所有するという方法、あるいは、どちらかの機能性をあきらめて、我慢して1台を持つという選択肢しかかなかった。CF-N8」および「CF-S8どちらの用途も1台でカバーできる製品を実現した」
それを「プロフェッショナルモバイル」と呼んだのは、レッツノートが、「サブノート」というこれまでのカテゴリーからの脱却を宣言するものだったともいえる。
サブノート市場をリードしてきたレッツノートが、サブノートの新たな製品群であるネットブックが全盛となるなか、それと一線を画する「高性能」を実現してみせたのは、ビジネスモバイルを追求するレッツノートのブレない姿勢の表れだといえるだろう。
第4世代のレッツノート、今度はクリエイティブに?
2012年2月、パナソニックは、新たなレッツノートとして「CF-SX1」および「CF-NX1」を発売した。これを第4世代のレッツノートと位置づけ、ここには「クリエイティブ」の要素を新たに追加した。
それを象徴するように、製品発表会では、「クリエイティブモバイル」という言葉も使ってみせた。
軽量、長時間、頑丈、高性能の要件を追求し、ビジネスモバイルを進化させてきたレッツノートが、これらのすべての要素をさらに強化することで、より創造性の高い仕事に取り組むことができる「相棒」へと進化することを目指したのだ。
さらに、4つの要素をより高い次元と進化させる取り組みは、その後も続き、モバイルワーカーのためのデバイスとして、レッツノートは毎年進化を続けていった。
持ち運んで仕事をすることが多いビジネスマンたちから高い評価を得ていたことは、「新幹線シェアが高い」と評されたことからも裏付けられる。
新幹線の車内では、レッツノートの利用者が多く、出張が多いビジネスマンにとっては最適なノートパソコンとして、広く認知されていったのだ。そして、同じ光景は、国内の空港ラウンジでも見ることができた。
実は、記者会見場でもレッツノートのシェアが高い。2013年以降、外出先で原稿を書くことが多い記者用PCとして、大手メディアが相次いでレッツノートを採用しており、いまでも記者会見場では、レッツノートを持ち込む記者の割合が高い。現場や会見場から原稿を送り込む記者にとって、レッツノートが高い次元で実現する軽量、長時間、頑丈、高性能の要素は、まさに最適なものだといえる。









