1998年。タフブックの営業チームは、米アリゾン州の砂漠地帯にいた。

このあたりは、夏場になると、気温は軽く40℃を超えるという。

この日も、灼熱の太陽が、砂漠の地面を容赦なく照りつけていた。

営業チームは、灼熱の砂漠に、タフブックの第2弾製品である「CF-27」を持ち込み、政府機関による実地での採用試験を受けていたのだ。

  • タフブックの第2弾製品である「CF-27」

    タフブックの第2弾製品である「CF-27」

「CF-27」は、初代タフブック「CF-25」の堅牢性をさらに進化。AR(Anti-Reflection)処理を施し、タッチパネルも搭載。現場での操作性を高めた自信作であった。

だが、試験環境はあまりにも過酷だった。

最初は、順調に稼働していた「CF-27」であったが、突然、液晶画面が真っ暗になってしまったのだ。

「これじゃ、採用できない」

営業チームにとっては悔しい顧客の言葉だったが、姿勢は前向きだった。

「どんな結果であっても、現場からの要求を聞くことができた。やり直せばいいだけの話」――。

営業チームは、日本に実機を持ち帰り、開発チームに状況を説明した。

原因を追求するなかで、着目したのが筐体の色だった。

タフブックは、初代の「CF-25」も、2代目となった「CF-27」も、タフというイメージを持たせるために、筐体の色には黒を採用していた。だが、黒は吸熱性が高く、砂漠地帯での試験では、急激な温度上昇を招き、液晶パネルがそれに耐えられない状況になったことがわかったのだ。

「アリゾナでの出来事があってから、タフに対する様々な判断基準を見直し、シビアに開発を進めるようになった。タフブックをレベルアップするためには、良いきっかけになった」と、当時の開発者は語る。筐体カラーでさえも、タフを実現するために必要な要素だとわかれば、そこにメスを入れるという徹底したこだわりが、ここからスタートしている。

実際、政府機関の採用試験に再度挑戦するために、開発チームは筐体カラーの見直しから着手した。塗料メーカーのアドバイスを求めた結果、炎天下でも内部温度が上昇しにくい色がシルバーであることがわかった。さらに、社内には、耐熱試験が行える環境も用意した。そこで、実験をしてみると、色をシルバーに変えるだけで、炎天下の状態では、一定時間内の温度上昇が10℃も違うという結果が出た。

1999年9月に発売した「CF-M34」では、タフブックに初めてシルバー色を採用。それ以降、タフブックの筐体カラーはシルバーが基本となっている。

結果として、「CF-M34」は、アリゾナでの再試験には合格。その後、その政府機関には、長年に渡ってタフブックが採用されることになったのだ。

  • 1999年9月に発売した「CF-M34」

    1999年9月に発売した「CF-M34」

  • M34はタフブックではおなじみの「シルバー」のカラーリングを初めて採用したモデルでもある

    M34はタフブックではおなじみの「シルバー」のカラーリングを初めて採用したモデルでもある

現場の声とともに歩む、タフブックの進化

現場の声を聞く姿勢は、タフブックのモノづくりには欠かせない。

連載4回目でも触れたように、タフブックは、米国の警察において、約50%のシェアを持つ。パトカーや白バイにも搭載され、過酷な環境下でも利用されている。捜査現場では、免許証のデータベースなどにアクセスして、相手の名前と顔を確認したり、銀行強盗が発生した際には情報をすぐに共有したり、パトカーのなかで報告書を書いたりといった使い方をしているという。

ある日、タフブックの開発チームは、深夜に暗い場所で張り込みをする際、パトカーのなかでタフブックの操作がしやすいように、キーボードにバックライトを搭載することを提案した。

だが、警察の現場から帰ってきた答えは、衝撃的なものだった。

「キーボードの光で、犯人からパトカーの存在がわかってしまい、最悪の場合には狙撃されやすい環境さえも作ってしまう」

現場の声を聞いて、命に関わる問題に発展しかねない機能の提案をしていたことを初めて理解したという。現場によっては使いやすい機能が、違う現場においては、あってはならない機能にもなりかねないというわけだ。

実は、タフブックでは、晴天時の屋外や、倉庫などの暗い場所でも視認性が高いように、液晶パネルは1000cd/㎡を超える高輝度を実現する一方で、明るい照明下では見えない水準の1cd/㎡の超低輝度にも対応している。超低輝度の採用は、夜間のパトカー車内で、警察官がタフブックの液晶画面を見た後に、暗い外を見ると、暗順応に時間がかかってしまうことを避けるための工夫だ。これも現場の声を反映したものだといえ、「CF-28」から採用した機能のひとつである。

このように、現場にあわせて最適な利用が行えるように工夫しているのが、タフブックの特徴のひとつだ。

  • CF-27の後継機「CF-28」

    CF-27の後継機「CF-28」

現場を重視する姿勢は、こんなところにも反映されている。

1998年8月に登場した「CF-27」は、米国の警察に導入された最初のタフブックだが、後継機である「CF-28」、「CF-29」、「CF-30」、「CF-31」も、継続的に米国の警察で採用されてきた。その間、パトカーにタフブックを搭載するための車載マウンターは、5世代に渡り、互換性を持たせたのである。新たなタフブックに入れ替えても、車載マウンターを付け替えることなく、パトカー車内で利用できるようにしたのも、利用現場の利便性を重視したものだった。

タフブックの営業チームは、日々の営業活動を通じて、常に顧客の声を収集している。

各地域でイベントを開催し、新製品の紹介などを行いながら、既存モデルの不満点を聞いたり、改善ポイントを見つけ出したりといった活動を行っているのだ。

たとえば、米国では年2回に渡って、顧客懇談会を開催。アドバイザリーカウンセルを通じた意見の収集も行っている。また、欧州では、英国、イタリア、フランス、ドイツ、スイスにおいて、それぞれにタフブックイノベーションフォーラムを開催し、主要な顧客や、見込み顧客を招待して、新製品を試してもらう場にしている。

さらに、新製品の開発チームを立ち上げた際には、企画、設計、営業が一緒になり、欧米の顧客を訪問し、モックアップを持ち込みながら、意見を聞き、新製品の開発に生かすといった活動も行っている。

加えて、サービス部門では、「CSパトロール」と呼ぶ仕組みを採用。米国やカナダ、欧州各国を、1週間の日程で訪問。各地域の主要顧客を、それぞれ5~8社訪問し、使用状況の確認や不具合の発生状況、それへの対策方法などに関する情報交換を定期的に実施しているという。

タフブックのモノづくりは、こうした顧客との緊密な関係をベースに進められている。

実際の使用シーンをもとに顧客から得たフィードバックは、製品開発時のチェックリストとしてまとめられており、チェックする内容は1000項目以上にのぼるという。そして、タフブックには、300件以上の特許が使用されている。これによって実現する堅牢性が、現場での仕事を止めず、安心安全に、長期間に渡って使えるプロフェッショナルのための仕事道具としてのノートパソコンを作り上げることにつながっている。

タフブックの方向性は、なぜブレないのか

タフブックの進化は、顧客の要望に支えられてきた。そして、ラインアップも顧客ニーズにあわせて拡大してきた。

この頃のタフブックには、「フルラガタイズ(フル頑丈モデル)」と、「セミラガタイズ(セミ頑丈モデル)」という2つのカテゴリーがあった。

1998年に、「CF-27」と同時に発表した「CF-71」は、オフィス向けのセミ頑丈モデルとして海外市場だけに投入。2000年9月には、国内市場向けにカラープリンターを内蔵した「CF-110」を発売。これも、セミ頑丈モデルに位置づけた。「CF-110」は、その型番から推察できるように、国内の警察関連組織のニーズに応えて製品化したものであった。

一方、1999年9月には軽量設計のノートパソコン「CF-M34」は、90cm落下試験を実施し、頑丈性を維持しながら、A5フィイルサイスの小型化と、1.8kgという軽量化を図った。

このように、ラインアップの拡張を進めるなか、現在に続く、その後のタフブックの方向性を明確化したのが、2001年1月に投入した「CF-28」であった。

  • 原点回帰を目指して堅牢性を追求した「CF-28」

    原点回帰を目指して堅牢性を追求した「CF-28」

この頃のタフブックは、ラインアップの拡大にあわせて、軽量化への取り組みを加速させていた時期でもあった。

主力となる「CF-27」は、初代タフブックである「CF-25」に比べて、画面サイズが10.4型から12.1型に拡大したにも関わらず、3.6kgという重量を維持し、事実上の軽量化を図っていた。また、セミ頑丈モデルやコンパクトモデルでも、軽量化を重視するといった動きにつながっていた。

軽量化や小型化は、日本のメーカーが得意とするところであり、パナソニックも、そこにタフブックの差別化があると考えていた。

しかし、米国市場を中心としたユーザーからは、そうした動きとは対極ともいえる、より堅牢性を求める声が高まっていたのである。屋外や車載、工場といった現場では、軽量化より、堅牢性が重視されるという発想は、日本のメーカーには気づきにくいところでもあった。

市場の声を聞いた開発チームは、「CF-28」では、軽量化という方向性を一度捨て、より堅牢性を追求したモノづくりを進めた。それは、タフブックの原点に戻ることへの挑戦でもあったといえよう。

「CF-28」では、エラストマーを使用したコーナーガードを採用したほか、HDDを衝撃から保護する吸収素材「衝撃吸収HDDパック」を採用。独自の耐衝撃設計と耐振動設計により、MIL-STD-810E で示された90cmからの落下試験にも耐える仕様を実現することに成功した。開発段階では、本体の各面や各辺、それぞれの角に対して、合計26面の落下テストを実施し、動作することを確認しており、この試験は現在の製品開発時にも続けられている。また、長時間に渡って自動車で移動した際の微妙な振動にも耐えられるように改良している。

さらに、天板には簡単に傷がつかないように、上塗り時に、ミクロレベルの粒子を混ぜたツヤ消しの塗装を施し、鉛筆の硬さでいえば、「3H」で引っ掻いても傷がつかない水準を実現した。これは2003年6月発売の「CF-18」では、「5H」にまで対応。工具と一緒に作業現場に持ち運んでも、天板には傷がつかない状況を実現してみせた。

「CF-28」で、とくにこだわったのが、防滴/防塵性能の強化である。冷却ファンを排除し、上下のキャビネット間に継ぎ目なくゴムを装着。これにより、全方向からの水しぶきに耐えることができるようにしたのだ。

開発者は、水中カメラのハウジング構造なども参考にしながら、試行錯誤を繰り返し、タフブックの内部に、水を一滴も入れない構造を作り上げたという。

「CF-28」では、全方向から毎分1mmの降水量で10分間の水を滴下する環境での試験のほか、ダス卜濃度で60g/立方メートルの粉塵を、10分間ずつで10サイクル、合計100分間に渡って吹きつける防塵試験もクリアしている。

一方で、拡張性も大きく進化させた。独自のマルチメディアポケット設計により、DVD-ROMドライブやCD-R/RWドライブ、拡張HDD、セカンドバッテリーなどの多彩な内蔵オプション機器を揃え、拡張性を強化。ホットスワップでの入れ替えを可能にするだけでなく、独自設計にしたことで、拡張性だけでなく、堅牢性を高めることにもつながったという。

多くの新規性を取り入れることで、堅牢性もより進化させた「CF-28」の重量は、大幅に増加して、なんと約4.2kgにもなった。それでも、市場からの注目度は高く、北米の警察への導入だけでなく、連邦政府や公益分野などにも顧客が拡大。堅牢性を徹底して追求するタフブックの姿勢が、より明確になったのである。

「CF-28」の発売にあわせて、それまでは、海外ではタフブック、日本ではPRONOTE FGの名称だったが、国内外ともに、ブランドをタフブックに統一。その点でも、タフブックの新たなスタートを象徴する製品になったといえるだろう。

徹底した堅牢性を軸に据えたタフブックの進化はさらに続いた。

2001年1月に発売した「CF-28」の後継機種として、2003年1月に発売した「CF-29」では、13.3型液晶へと大画面化するとともに、タッチパネルを採用しながら、90cmのコンクリート落下にも対応。2007年2月発売の「CF-30」では、1000cd/㎡の高輝度液晶を採用しながらも、低消費電力技術の活用により、長時間駆動を実現してみせた。

  • 「CF-30」は1000cd/㎡の高輝度液晶を採用

    「CF-30」は1000cd/㎡の高輝度液晶を採用

そして、2010年11月発売の「CF-31」では、120cm落下試験にも対応するとともに、防塵および防滴性能ではIP65に準拠することで、さらに堅牢性を追求。ファンはアルミダイキャスト製とし、ファンの心臓部には水やホコリが到達しないように、回転部に迷路状の構造を採用する一方、電気回路や部品は外部と遮断する防塵・防滴シールド構造とする新たな設計を採用した。さらに、2~1100 cd/㎡の広範囲輝度設定に対応。標準電圧版のインテル Core i5-520M(2.4GHz)を搭載して、高性能と頑丈設計の両立も達成し、堅牢性にこだわるタフブックの正常進化を遂げていった。

  • 2010年11月発売の「CF-31」では堅牢性をさらに高めた

    2010年11月発売の「CF-31」では堅牢性をさらに高めた

その一方で、10.4型液晶を搭載したコンバーチブルパソコンである「CF-19」を発表。業界ごとの用途提案を進めることで、日本におけるタフブックの導入も徐々に加速していったのだ。

  • 「CF-30」および「CF-19」の製品発表の様子

    「CF-30」および「CF-19」の製品発表の様子

  • 「CF-31」(左)と「CF-19」(右)

    「CF-31」(左)と「CF-19」(右)

  • 「CF-31」は基板などの部分に、外部と遮断する防塵・防滴シールド構造を採用した

    「CF-31」は基板などの部分に、外部と遮断する防塵・防滴シールド構造を採用した

  • 「CF-19」の防爆モデル

    「CF-19」の防爆モデル

  • 特定の企業向けに天板カラーを変更した「CF-19」

    特定の企業向けに天板カラーを変更した「CF-19」

  • 業界ごとの利用シーンにあわせてスタンドスタイルで「CF-19」を利用する提案も行っていた

    業界ごとの利用シーンにあわせてスタンドスタイルで「CF-19」を利用する提案も行っていた