連載第6回で触れたように、レッツノートは、モバイルでの利用を徹底的に追求した「CF-R1」(2002年3月発売)、法人ニーズにも対応したB5ファイルサイズの「CF-T1」(2002年11月発売)、CD-ROM/DVDドライブ搭載の「CF-W2」(2003年6月)の3製品を連打し、それらが市場から高い評価を受けたことで、「ビジネスモバイル」を象徴するノートパソコンと位置づけられるようになった。
いずれの製品も、持ち運んで利用するために最適な軽量化と、外出先でも安心して利用できる長時間バッテリー駆動を両立。これが、他社製品との大きな差別化になっていた。
だが、レッツノートの「ビジネスモバイル」としての進化は、ここからが本番だった。
「ビジネスモバイルに、足りないファクターはなにか」――。
開発チームは、常にそれを考え続けていた。
まず着目したのが、「頑丈」であった。
「都内で最も混雑している満員電車に乗ってきてくれ」
「1kgという軽量化を実現しても、もし、持ち運んでいる間に故障してしまい、移動先で使えなくなってしまったら意味がない。1kg分の荷物が増えたのと同じ状況になってしまう」
机の上で利用するパソコンに比べると、持ち運んで利用するパソコンを取り巻く環境は過酷だ。
実際、この頃、満員電車で通勤するビジネスマンが持つノートパソコンの液晶が割れるという問題が発生していた。とくに薄型化を追求した他社のノートパソコンに多く発生しており、業界全体としても解決すべき課題になりつつあったのだ。
この問題に真っ先に取り組んだのが、レッツノートであった。
2004年春。レッツノートの設計部門に配属されたばかりの入社2年目の若手社員に、上司から最初の仕事が伝えられた。
「都内で最も混雑している満員電車に乗ってきてくれ」
その指示に、若手社員が目を白黒させたのは当然だろう。
目的は、満員電車のなかで、ノートパソコンにどれだけの荷重がかかるのを、実地で調べることだった。
JR東日本や、都内の私鉄各社に電話をかけ、それぞれの混雑度(乗車率)をヒアリングした。その結果、朝の通勤時間帯に最も混雑しているのが、東急田園都市線であることがわかった。
調査を担当したのは3人の若手社員たち。前日の夜に、ホテルに入った3人は、測定機器のセッティングを行い、それぞれが車両のどの位置に乗車するのかを確認した。頑丈性では先行していたタフブックを用いて、その天板にはセンサーを貼り付け、それをバッグのなかに入れて持ち込むと同時に、若手社員の服にもセンサーを貼り付けて、直接荷重を計測できるようにした。
そして、満員電車のなかでの調査である。センサーを取り付けていることは外からはわからないものの、行動そのものが勘違いされるといった万が一の事態を想定し、人事部門には、調査のために乗車していることを証明する会社名が入った書面を用意してもらい、それを携行することも忘れなかった。
乗車したのは、たまプラーザ駅。午前7時すぎに3人の社員が田園都市線に乗り込み、渋谷駅を目指した。混雑が最高潮になるのは、渋谷駅を直前にした池尻大橋駅付近である。日本で最も混雑する通勤時間帯の過酷な満員電車を体験して、設計部門配属後の初仕事は無事に完了した。
実地調査でわかったのは、ノートパソコンの天板には、100kgf近い荷重がかかることであった。しかも、そこには電車特有の振動が加わり、それが液晶パネルに悪影響を及ぼし、割れる状況に至ることもわかった。
開発チームは、このデータをもとに、頑丈に対する改良を施していった。
そのひとつがボンネット構造の改良であった。ボンネット部の両端に、緩やかなねじれを施し、中央部分は曲率6000mmの緩やかな局面を組み込む3次元曲面ボンネット構造を採用。これにより、天板への荷重に対して、耐久性を高めた。
また、液晶パネルの外周部には角状のパイプを張り巡らせた環状パイプ構造を用いることにより、フレームの強化を図った。
そして、開発現場には、新たに100kgf加圧振動試験機を導入し、何度も試験を実施。これにより、2005年5月に発売した「CF-T4」および「CF-W4」では、満員電車のなかでの圧力や振動に対しても、耐えることができる「頑丈」を実現したのである。
「76cmの高さ」が肝となった耐衝撃性能
このとき、パナソニックが打ち出した新たなメッセージが「タフモバイル」である。
「軽量、長時間はあたりまえ。時代は『タフ』を待っていた」をキャッチフレーズに、「耐100kg級」をレッツノートの新たな基準としたのだ。
その後、パナソニックでは、満員電車のなかで収集したデータをもとに、車内におけるノートパソコンへの荷重を再現する試験機を開発。100kgf加圧をクリアすることを必須条件として開発を進めることになった。
「頑丈」の実現に関しては、こだわったことがもうひとつある。それは落下への対応だ。
ノートパソコンの破損原因を調査すると、「移動中の落下」や「使用中の落下」が多いことがわかった。さらに、その理由を探ると、机から落下した際の破損が多いこともわかった。
ここでも、開発チームは、現場にこだわった。
メジャーを持った開発者たちが、家具屋に出向き、様々な机の高さを片っ端から測って回ったのだ。
そこでわかったのは、一般的な机であれば70cmの高さだが、輸入家具だと76cmの高さの机が多いことだ。それを基準に76cmの高さからの落下試験を導入し、この高さから落下しても、耐えることができる設計へと変更したのだ。
なかでも、落下の際の「頑丈」を実現するために、開発チームが重視したのが、落下時に最も影響が大きいハードディスクの保護だった。従来は、クッション材を使用したダンパー(衝撃緩衝材)を用いていたが、これでは落下時に発生する瞬間的な衝撃を吸収するという点で課題があった。そこで、開発チームは、様々な緩衝材を用いて、検証を繰り返していったが、なかなか満足の行く水準には至らなかった。
開発チームは試行錯誤のすえ、種類が異なる材料を組み合わせることで、衝撃を吸収できることを発見した。それが「PETフィルム複合ダンパー」である。
従来のダンパーに比べて、落下時の衝撃値をピーク時で半減し、他社に比べると4倍の性能を発揮することができた。
さらに、液晶画面の周囲に凸形状のクッションを採用したほか、パームレストの両端には、凹形状のくぼみを持たせる抱え込み構造を採用したことも、落下時の耐性につながった。
こうした工夫の結果、2007年3月に発売した「CF-R6」では、76cmの落下にも耐える「頑丈」を実現したのだ。
頑丈の進化は、幅広い観点からも進められた。
たとえば、防水シートの採用や、継ぎ目のないシーリング構造を採用したことにより、防滴を実現。充電時には、エコノミーモードの採用によって、充電率の上限を80%とし、バッテリーの長寿命化を図るようにした。そして、セキュリティチップの搭載をはじめ、各種セキュリティ対策によって、仮に盗難にあってもデータが読まれないといった機能も搭載した。
こうした点も、レッツノートでは、「頑丈」の要素に位置づけたのだ。
<動画>新製品発表会見では、76cmの高さから落としてみせた
<動画>「CF-R6」の水をかけるデモンストレーション
タフでありながら、軽量、長時間への挑戦は続く
そして、この間も、軽量、長時間への挑戦は続いていた。
2005年5月に発売した「CF-T4」では、約12時間のバッテリー駆動を実現。「CF-R6」では、930gという軽量化を達成している。レッツノートは、他社が追随できない水準にまで、ビジネスモバイルを追求していったのである。
これだけでは終わらない。軽量化に向けては、筐体、液晶パネル、バッテリー、基板、光学ドライブなどのあらゆる部品にメスを入れてきたが、さらに、素材メーカーや部品メーカーとの共創による軽量化にも着手。たとえば、レッツノートでは、0.6mm厚の液晶パネルを搭載していたが、2006年5月に発売した「CF-Y5」では、約0.2mm厚の液晶パネルを採用。また、同時期に発表した「CF-W5」、「CF-T5」、「CF-R5」でも約0.3mm厚の液晶パネルを採用している。
12.1型の液晶パネルで試算すると、0.1mmガラスが薄くなると、12g軽くなるという。2枚のガラスを貼り合わせていたことから、0.1mm薄くするだけで、実質的には24g軽くなるという計算だ。液晶パネルの大胆な薄型化によって、大幅な軽量化と薄型化を実現したというわけだ。ここでは、世界最薄肉となる0,55mmのマグネシウム成型も採用。これも筐体の軽量化につながっている。
だが、これだけの薄型化、軽量化を図ると、当然、強度には課題が生まれる。そこで、今度は液晶パネルを支えるキャビネットを強化した。「CF-Y5」では、ボンネット構造に加えて、中央部に凹形状を採用するとともに、リブ構造を追加。底面加圧から基板を守るフローティング構造や、底面へのボンネット構造の採用も行い、底面強度も向上させた。
ここでも、素材メーカーや部品メーカーとの一歩踏み込んだ共創関係が生きることになる。素材と部品の最適な組み合わせを模索し、軽量化、薄型化、頑丈といった要素を高い水準で実現。パートナー企業との一歩踏み込んだ共創関係が、他社が追随できない「タフモバイル」に求められる仕様を可能にしているのだ。
レッツノートは、常に現場の声を聞き、要望を実現するために、設計の仕方、生産の仕方、評価の仕方、そして、パートナーとの共創を進化させることで、軽量、長時間、頑丈という要件をクリアしていった。





