KDDIが「UQ mobile」「povo 2.0」といったブランドを活用し、他社から顧客を奪い新規契約を増やす施策を強化している。既存顧客重視の姿勢を打ち出していたはずのKDDIが、現在のタイミングで競争力強化を打ち出した背景には、同社に千載一遇のチャンスが訪れていることが大きい。
「povo 2.0」「UQ mobile」で終了日未定のキャンペーンを展開
市場飽和と厳しい事業環境を受け、携帯電話会社同士の競争が落ち着きつつある2026年。だが6月に入り、他社から顧客を奪う姿勢を急速に強めているのがKDDIだ。
その発端となったのは、2026年6月18日に実施したオンライン専用ブランド「povo 2.0」の新たな取り組みである。povo 2.0は基本的に月額0円で利用でき、必要に応じて通信量を追加購入する、国内では珍しいプリペイド方式を採用したサービスであることから、エッジの効いたサービスで注目が高いとはいえ、どちらかといえばニッチな存在だった。
だがpovo 2.0を運営するKDDI Digital Lifeの代表取締役社長である濱田達弥氏は、ここ最近povo 2.0に番号ポータビリティで転入するユーザーが増加傾向にあると説明。それを受けて他社回線を利用しているユーザーに対し、スマートフォンのeSIMを活用してpovo 2.0を利用してもらい、KDDIの通信品質の高さを体験してもらうことで、メイン回線としての利用へとつなげていく方針を示している。
そのための施策として、povo 2.0では2026年6月19日から、キャンペーンコードを入力してpovo 2.0を新規契約した人に対し、24時間データ使い放題が10回利用できるトッピングをプレゼントするキャンペーンを、終了日未定で実施している。丸1日データ通信が使い放題になるトッピングを提供することで、新規契約者にそのメリットを存分に体験してもらう狙いがあるといえよう。
だがKDDIはもう1つ、サブブランドの「UQ mobile」でも新規顧客獲得強化に向けたキャンペーン施策を打ち出している。それは「UQコミコミおトク割」というもので、UQ mobileの料金プランの1つ「コミコミプランバリュー」を新規契約した人に対し、加入月から13カ月間にわたって660円を割り引くものとなる。
コミコミプランバリューの月額料金は3828円なので、この割引が適用されれば月額料金は3168円と、2割弱の値引きとなる。しかも年会費が1万1000円のクレジットカード「au PAY ゴールドカード」を持っていれば、14ヵ月目以降も660円の割引が継続されるという。
こちらもpovo 2.0のキャンペーンと同様、終了日が未定に設定されており、恒久的な施策に近いものとなっている。ただコミコミプランバリューは、元々複雑な割引の適用が不要で、35GBのデータ通信や1回10分の国内通話かけ放題などが利用できることを大きな特徴としていた。
それだけに、あくまでキャンペーンとはいえ、実質的な割引施策をあえて導入したことはかなり異例であるし、既存のコミコミプランバリュー契約者には適用しないという点も異例だ。そうしたことからも、KDDIがいかにこのキャンペーンでの新規契約獲得に力を入れているかを見て取ることができよう。
NTTドコモ・楽天モバイルの“敵失”はまたとない商機
ただKDDIは2025年の半ば頃から、市場飽和などを受ける形で、従来のように販売促進にコストをかけて新規契約を獲得する姿勢を改め、顧客のライフタイムバリュー(1人の顧客が取引開始から終了までもたらす売上や利益)を重視した戦略へと転換を図っている。そのためにも同社は既存顧客の解約率を低下させるとともにARPU(1ユーザー当たりの平均売上高)を向上させ、なおかつ自社サービスを多く利用してもらう経済圏ビジネスへの一層の注力を打ち出していた。
それにもかかわらず、なぜ現在のタイミングで新規顧客獲得の強化を図っているのかといえば、KDDIにとって千載一遇のチャンスが訪れているからだろう。そのことを示しているのが、先のpovo 2.0の説明会で提示されたグラフである。
それはKDDIがpovo 2.0の利用者に向けて実施した、携帯4社の通信品質に関するアンケートの結果なのだが、その内容を見るとKDDIともう1社が高い評価を得ている一方で、他の2社の評価が低く、ユーザーが通信品質に不満を抱いている様子が明確に示されていた。濱田氏は2社の具体的な社名は挙げていなかったが、グラフの色や昨今の通信品質に対する評価を考慮するならば、NTTドコモと楽天モバイルを示していることは容易に想像がつく。
NTTドコモは2023年に都市部で著しく通信品質を落とし、改善を進めてはいるが現在もなおユーザーからの厳しい評価が絶えない状況にある。また楽天モバイルはKDDIとのローミング終了が2026年9月末に控えており、今後の通信品質低下が懸念されている状況にある。
しかもローミング終了に先んじで、都市部の混雑するエリアでは、KDDIの回線に負荷がかからないようローミングを終了させる動きが進んでいるようだ。それゆえここ最近、ショッピングモールなどで急に楽天モバイルの通信品質が低下したとの声が多く聞かれるようになってきた。
一方でKDDIは、英OpenSignalの調査で、通信品質に関連する項目で4年連続1位を獲得しており、通信品質では高い評価を維持している。通信品質は携帯電話事業の根幹を担うだけに、KDDIはその強みを生かして2社の弱点を徹底的に攻め、通信品質に不満を抱く顧客を奪う策に出たといえそうだ。
その狙いは料金からも見えてくる。先にも触れたように、UQコミコミおトク割では条件によってコミコミプランバリューが継続的に3168円で利用できるが、この料金はNTTドコモのオンライン専用プラン「ahamo」の月額2970円に近い。コミコミプランバリューはデータ通信量や国内通話かけ放題サービスのバンドルなど、元々ahamoに近いコンセプトを持つだけに、この施策は“ahamoキラー”と見ることができそうだ。
そしてもう1つ、povo 2.0でも新たに2026年7月1日から、1.32TBのデータ通信量を1年間、3万9240円で利用できるプランを提供するとしているが、これを12ヵ月で割ると、1ヵ月当たり110GBを3270円で利用できる計算になる。3270円という料金は楽天モバイルの「Rakuten最強プラン」で20GB以上利用した時の月額料金と同じなので、こちらは“楽天モバイルキラー”と位置付けられているといえよう。
ちなみに110GBという通信量は「ahamo大盛り」(月額4950円)と同じで、先のトッピングに、1回5分以内の国内通話がかけ放題になる通話トッピング(月額550円)を加えても、1ヵ月当たりの料金は3820円とahamo大盛りより安くつく。それゆえpovo 2.0の新トッピングは、“ahamo大盛りキラー”の側面も持つことが分かる。
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povo 2.0では新たに、1.32TBのデータ通信量を1年間、3万9240円で利用できるトッピングを用意。12ヵ月で割ると1ヵ月当たり110GBの通信量を3270円で利用できる計算となり、後払いサービス「paidy」を使えば実際に12ヵ月の分割払いも可能だ
一連の施策からは、KDDIが既存顧客重視の姿勢を見せながらも、実は新規顧客獲得を諦めておらず、あらゆる手段を使って千載一遇のチャンスを生かそうとしていることが分かる。この動きを受けてターゲットとなった2社がどう動くかも注目されるが、KDDIと同様に既存顧客重視の姿勢を見せているソフトバンクが、これに同調する動きを見せて競争が一層激化することになるのかどうかという点も、大いに関心を呼ぶ所かもしれない。




