業績悪化が続き「独り負け」との指摘も多くなされているNTTドコモだが、インフレの影響を強く受けて競合他社が既存プランの値上げに踏み切る中にあって、同社だけは現在も値上げを見送っている。その背景には何があるのだろうか。
既存プランは数が多くシンプルな値上げが難しい
携帯4社の中でも業績悪化が続いているNTTドコモ。2026年2月には、NTTドコモの親会社となるNTTは、NTTドコモの競争力強化などのため、2025年の通期業績予想を下方修正するなど、業績が非常に厳しい様子を示していた。
KDDIやソフトバンクといった競合が業績好調な中にあって、NTTドコモだけが業績を悪化させている現状、「独り負け」との声も少なからずあるのだが、NTTドコモと競合の差として指摘の声が増えつつあるのが料金プランの値上げである。昨今のインフレで携帯各社は料金を値上げした新料金プランを導入しているが、KDDIやソフトバンクはそれに加えて、既存の料金プランも値上げしているからだ。
とりわけソフトバンクは、サブブランドの「ワイモバイル」で、2025年に実質的な値上げをした新料金プラン「シンプル3」を導入しているが、2026年6月2日にはそのシンプル3の料金をさらに220円値上げする予定だ。短期間のうちに2度も値上げしたことからは、事業を維持拡大する上で値上げの重要性が高まっている様子を見て取ることができる。
だがNTTドコモは、2025年の新料金プラン「ドコモ MAX」「ドコモ mini」などで実質値上げしてはいるものの、それ以前に提供していた「eximo」「irumo」など、既存の料金プランの値上げは見送っている。業績が悪化しているにもかかわらず、NTTドコモがあえて既存料金プランの値上げを見送るのは一体なぜだろうか。
NTTドコモの代表取締役社長である前田義晃氏は2026年5月8日のNTT決算説明会で、既存の料金プランが26種類あり、それぞれ仕組みも異なることから一律に値上げするのが難しいことが、その背景にあると説明している。
確かにNTTドコモは、新規受付終了した料金プランも長く提供する傾向にある。実際、2017年に提供していた料金プラン「docomo with」などは、新規受付終了後も2025年9月まで提供を継続していた。
-

NTTドコモが2017年に提供開始した料金プラン「docomo with」は、指定のスマートフォンを購入すると料金が永続的に1650円引きとなるため新規受付終了後も根強い人気を誇っており、2025年まで利用が可能だった
そうしたことからもし値上げをするとなれば、それだけ多くの料金プランを整理した上で値上げの方法を検討し、さらにシステム対応と顧客への周知・理解などを図る必要があるという。競合と比べシンプルに値上げをするのが難しいというのが、値上げに踏み切らない大きな理由となっているようだ。
顧客維持拡大が至上命題のNTTドコモ
ただ前田氏も、「さまざまなコストが上がってきているのは事実。(料金プラン)全体としてどう変えていくか考えないといけない」と話すなど、昨今の状況を踏まえ値上げを検討はしている様子も見せている。それでも既存プランの値上げに踏み切らない理由はどこにあるのかといえば、NTTドコモがなぜ業績を落としているのか? という点に帰結するのではないかと筆者は見る。
同社の業績悪化の要因は大きく2つあり、1つは契約数の維持拡大のため、販売促進に多くのコストをかけていること。実際、NTTドコモは2025年度第2四半期に「これまでになく競争は激化」と表現するなど、競合との競争激化で苦戦を強いられたことで、従来以上に販売促進を強化する方針を打ち出している。
そしてもう1つは、2023年に著しく低下させた通信品質を改善させるため、やはり多額のコストをかけて5Gの基地局などを急拡大させていること。これまでにも多くのコストをかけて通信品質改善を図ってきたが、それでも信頼回復には至っていないだけに、今後もハイペースで5G基地局の設置を進め、改善を図るとしている。
そして販売促進や通信品質改善は、いずれも携帯電話サービスの顧客を維持拡大するためで、それは経済圏ビジネスのためでもある。携帯電話事業は既に市場が飽和しており大きな売り上げが見込めないことから、携帯電話の顧客基盤を軸に、金融やコンテンツなどの周辺サービスに顧客を誘導して売り上げを伸ばす、いわゆる経済圏ビジネスに力を入れている。
その経済圏ビジネスを拡大するには、軸となる携帯電話サービスの顧客を減らさないことが重要なことから、NTTドコモは将来の成長のため、いま業績を悪化させてでも販促とネットワークを強化し、顧客の維持強化を図る戦略を取っている訳だ。そうした状況下で既存プランの値上げをしたとなれば、顧客離れが進んでしまう可能性が高いだけに、値上げに踏み切るのが難しいというのが正直な所ではないだろうか。
とはいえ昨今の不安定な世界情勢を踏まえると、インフレはむしろ加速するとの見方が多いのも事実である。周辺コストの上昇によってNTTドコモも既存プランの維持が難しくなり、一層経営を悪化させる可能性もあるだけに、今後はより難しい経営判断が求められることになりそうだ。




