国内のスマートフォンメーカーとしては最大手となるシャープだが、円安やメモリ不足などの影響が直撃し、スマートフォン事業は非常に厳しい状況にある。そうした中にあって、シャープはこの事業でいかなる成長戦略を描こうとしているのか。2026年6月9日に実施された同社の事業戦略説明会の内容から確認してみよう。

販売の主体をローからミドル・ハイエンドに

進化の停滞とコモディティ化で買い替えサイクルが長期化しているのに加え、円安の定着で大幅な値上げが進行。さらに2025年末頃からは、AIデータセンター需要の高まりによってメモリやストレージが大幅に高騰したことで、一層の価格高騰が進んだことから、スマートフォンはいま非常に厳しい市場環境にある。

とりわけその影響を強く受けやすいのが規模の小さいメーカー、より具体的に言えば世界市場でシェアを取れていない国内メーカーであり、国内メーカーとしては最大手となるシャープもその例外ではない。シャープは台湾の鴻海精密工業の傘下にあるが、それでも世界的な大手メーカーと比べれば規模は小さく、不利な面が多い。

それに加えて2025年には、韓国サムスン電子が長らく取引のなかった携帯大手3社の1つ、ソフトバンクからの販路を回復。とりわけシャープはソフトバンクとの関係が近かっただけに、サムスン電子の販路回復の影響を少なからず受けたことは確かだろう。

実際、シャープの2025年度通期業績を見ても、スマートフォンを含むスマートワークプレイス事業の業績は、傘下のパソコンメーカーであるDynabookが、Windows 11への切り替え需要を取り込み好調だった一方、スマートフォンの販売減が響いて売上、利益ともに微減という結果に至っている。

  • シャープのスマートワークプレイス事業の2025年度業績は、スマートフォンの販売減が響いて売上、利益ともに微減となった

    シャープのスマートワークプレイス事業の2025年度業績は、スマートフォンの販売減が響いて売上、利益ともに微減となった

だがメモリ不足の影響などは今後一層深刻になるものと予想されており、市場環境は厳しさを増す一方だ。そうした中にあって、シャープはスマートフォン事業でどのような戦略をもって事業改善を図ろうとしているのか。同社の執行役員 Co-COO 兼 スマートワークプレイスビジネスグループ長の小林繁氏は、その取り組みの1つとして「高付加価値製品へのシフト」を挙げている。

  • スマートワークプレイス事業を取り仕切るシャープの小林氏は、スマートフォンの高付加価値製品シフトで業績回復を図る方針を示した

    スマートワークプレイス事業を取り仕切るシャープの小林氏は、スマートフォンの高付加価値製品シフトで業績回復を図る方針を示した

シャープはハイエンドからローエンドまで幅広いラインアップを持つが、現在の売れ筋はローエンドの「AQUOS wish」シリーズだ。だが低価格のローエンドモデルは、利益を出すのに数を売らなければならず、部材高騰が続く現状では採算性も厳しくなってきている。

それだけにシャープとしては、AIによる付加価値を強化することで、より高額なミドルクラスの「AQUOS sense」シリーズや、ハイエンドの「AQUOS R」シリーズの販売比率を高めることで業績の改善を図る方針のようだ。同社の販売台数におけるハイエンド・ミドルクラスのモデル構成比は、2025年度には約40%であったというが、それを2026年度には約70%にまで引き上げたいとしている。

  • ローエンドの「AQUOS wish」シリーズの販売比率が高いシャープだが、今後はミドルクラスの「AQUOS sense」シリーズなどの比重を高めていくようだ

    ローエンドの「AQUOS wish」シリーズの販売比率が高いシャープだが、今後はミドルクラスの「AQUOS sense」シリーズなどの比重を高めていくようだ

成長の活路はスマホの技術を生かした衛星通信などに

そしてもう1つ、小林氏が挙げているのが法人向けの販売拡大である。シャープはDynabookで法人向けにパソコンを販売しているが、これにスマートフォンを加えて大手顧客に一括販売することで、販売拡大につなげたいようだ。

またシャープは法人向けのパソコン事業で、単にデバイスを販売するだけでなく調達から保守運用、廃棄に至るまで、一連のプロセスを代行・一元管理するLCM(ライフサイクルマネージメント)の提供を強化している。そこでスマートフォンにもLCMを適用することで、ストック型の継続的なビジネスにつなげる姿勢も示している。

  • Dynabookを有することを生かして法人向けにパソコンとスマートフォンをセットで販売し、さらにLCMを加えることで継続的なビジネスにつなげる姿勢も示している

    Dynabookを有することを生かして法人向けにパソコンとスマートフォンをセットで販売し、さらにLCMを加えることで継続的なビジネスにつなげる姿勢も示している

さらにその先には、スマートフォンで培った通信技術を応用し、新たな事業分野を開拓することで成長につなげる考えのようだ。実際、従来のAQUOSシリーズで培ってきたAI技術やUX(User eXperience、ユーザー体験)は、既にコミュニケーションロボット「ポケとも」などでも生かされており、2026年7月より発売がなされる台湾で発表がなされた際にも、大きな評判を呼んだという。

  • スマートフォンで培ったAI技術やUXを活用して開発された「ポケとも」。会話するのに月額制のサービス契約が必要なことから、売り切りではない継続的なビジネスにつながる点も大きいようだ

    スマートフォンで培ったAI技術やUXを活用して開発された「ポケとも」。会話するのに月額制のサービス契約が必要なことから、売り切りではない継続的なビジネスにつながる点も大きいようだ

そうした中でも、新たな事業の柱として期待が寄せられているのが衛星通信だ。シャープはスマートフォンで培ったアンテナ技術などを生かし、5Gに対応した小型・軽量の衛星通信端末を開発。2027年度の事業化を目指して開発を進めているというが、その後まずは船舶や建設など特定の産業に特化して展開し、将来的にはさらに自動車やドローンなどに向けたデバイスを開発し、普及を図っていきたい考えのようだ。

  • シャープは低軌道衛星向けの5G対応衛星通信端末の開発を進めており、今後の新規事業の1つとして力を入れていく方針を示している

    シャープは低軌道衛星向けの5G対応衛星通信端末の開発を進めており、今後の新規事業の1つとして力を入れていく方針を示している

それら一連の施策から、シャープはコンシューマー向けのスマートフォン事業だけで成長を見込むのは難しいと見ている様子がうかがえる。それだけに今後の成長に向けては、確実な売上が見込める法人向けビジネスの強化、そして利用に月額料金がかかるポケとものように、ハードとサービスを一体化して継続的な売上に結びつける、ストック型のビジネスに力を入れていきたいようだ。

市場環境が非常に厳しいだけに、企業が事業を継続する上で、シャープがそうした判断をすること自体は真っ当なものだと筆者も感じる。ただスマートフォンでも世界大手メーカーを中心に技術開発競争が継続しており、そこから脱落してしまえばベースとなる事業も失いかねない。シャープがスマートフォン事業でどこまで競合に食い下がることができるかが、今後を見据える上では重要になってくるだろう。