次の世代の通信規格「6G」に向けた取り組みが進む中、携帯電話会社が積極的な活用へと舵を切り始めたのが、これまで「使えない」とされてきたミリ波だ。世界的に見れば6Gでもミリ波に対する関心が全く高まっていないにもかかわらず、なぜ国内の通信各社はミリ波の活用に力を入れ始めているのだろうか。

6Gでは「AI」と「センチメートル波」に熱視線

現在主流のモバイル通信規格の1つ「5G」が、日本で商用サービスを開始したのが2020年。それから既に6年が経過していることから、さらに次世代のモバイル通信規格「6G」に向けた技術開発の取り組みが積極化しつつある。

実際、モバイル通信に関連する国内外のイベントでは、6Gに向けた技術開発の展示を多く目にするようになってきた。2026年5月27日から実施されていた無線通信関連技術のイベント「ワイヤレスジャパン×ワイヤレス・テクノロジー・パーク 2026」でも、NTTドコモやKDDIといった携帯大手を中心に、6Gに関連するさまざまな取り組みがアピールされていた。

その6Gで重要性が高まっている要素の1つがAIである。昨今大きな注目を集めるAIだが、今後はAIが社会の前提になることを見据え、6Gでは年々複雑化するネットワークの制御にAIを活用するだけでなく、ネットワークがAIの性能を引き出し新たな価値を創造するなど、AIを前提としたネットワーク設計となることが検討されているようだ。

  • 「ワイヤレスジャパン×ワイヤレス・テクノロジー・パーク 2026」のNTTドコモブースでは、6Gに向けて「IOWN」の技術を活用し、ネットワークが通信とAIの推論を一体で制御する技術の開発を進めている様子を示していた

    「ワイヤレスジャパン×ワイヤレス・テクノロジー・パーク 2026」のNTTドコモブースでは、6Gに向けて「IOWN」の技術を活用し、ネットワークが通信とAIの推論を一体で制御する技術の開発を進めている様子を示していた

そしてもう1つは「センチメートル波」である。これは5G向けに活用されている、主として6GHz以下の「サブ6」と、30GHz以上の「ミリ波」の中間に位置する周波数帯なのだが、中でも6Gで期待が高まっているのが、センチメートル波の中でも周波数がより低い、7GHz前後の周波数帯の活用である。

その理由は、周波数が低い分サブ6の周波数帯と特性が近く、比較的広いエリアをカバーするのに適しているため。5Gで割り当てが進んだミリ波が、カバーできるエリアが非常に狭く、携帯電話向けとしてはとても使いづらいという評価が下されたことを受け、携帯電話業界では高い周波数への関心が大きく失われている。

そこで6Gでは、当初期待されていた100GHz以上のサブテラヘルツ波など、高い周波数帯の活用に対する関心は大きく失われた。一方で少しでも周波数が低く、それでいて大容量通信に耐える広い帯域幅を確保できる、センチメートル波への関心が大きく高まった訳だ。

  • 同じくNTTドコモブースより。6Gで注目されているセンチメートル波の活用に向けた実証実験をノキアと進めており、今後国内での実証も進めていく方針だという

    同じくNTTドコモブースより。6Gで注目されているセンチメートル波の活用に向けた実証実験をノキアと進めており、今後国内での実証も進めていく方針だという

だがそれにもかかわらず、ここ最近の国内携帯各社の取り組みを見ていると、その関心が失われたミリ波を、逆に積極活用しようとしている様子がうかがえる。実際、ワイヤレスジャパン×ワイヤレス・テクノロジー・パーク 2026で携帯各社のブースを見ると、ミリ波の活用に向けた技術を積極的にアピールするケースが増えていた印象を受ける。

携帯各社の動きでミリ波は「鶏卵」の議論を抜けられるか

中でも注目されるのは、やはり障害物にさえぎられやすく、遠くに届きにくいミリ波のエリアを大きく広げ、安定した通信を実現する技術である。その代表例の1つとなるのが、電波を狙った方向に反射できる「メタサーフェス反射板」のだ。

  • 「ワイヤレスジャパン×ワイヤレス・テクノロジー・パーク 2026」のKDDIブースより。中央のミリ波に関する説明が記述されているパネルが、ミリ波の電波を反射する「メタサーフェス反射板」になる

    「ワイヤレスジャパン×ワイヤレス・テクノロジー・パーク 2026」のKDDIブースより。中央のミリ波に関する説明が記述されているパネルが、ミリ波の電波を反射する「メタサーフェス反射板」になる

このメタサーフェス反射板はデザイン面での柔軟性が高く、窓ガラスやポスターなどと一体化しやすく、町の風景にも溶け込ませやすい。そこで街中に大きな反射板を設置する、あるいは小規模の反射板を多数設置するなどして、基地局からの電波を反射させ、遮蔽物にさえぎられることなく端末にミリ波を届けることが期待されているようだ。

  • 会場端の天井に設置されているミリ波のアンテナ。ここから電波を射出し、メタサーフェス反射板で反射させ端末に電波を届ける仕組みだ

    会場端の天井に設置されているミリ波のアンテナ。ここから電波を射出し、メタサーフェス反射板で反射させ端末に電波を届ける仕組みだ

  • ミリ波対応端末で実際に通信速度を測定したところ。ダウンロードで2Gbpsに近い通信速度を実現していることが分かる

    ミリ波対応端末で実際に通信速度を測定したところ。ダウンロードで2Gbpsに近い通信速度を実現していることが分かる

そしてもう1つ、大きな取り組みとなるのが2026年5月27日、NTTドコモとKDDIがミリ波の中継器を共用する実証実験を、2026年夏から開始すると打ち出したことである。この共用中継器は京セラが開発したもので、小型軽量で設置しやすいだけでなく、設置した中継器同士がメッシュ状につながり、自律的に最適な形で効率よくエリアを広げ、安定した通信を実現できる特徴を備えている。

  • KDDIブースには、NTTドコモと共用できるミリ波の中継器も展示。今夏に東京の上野恩賜公園にて実証実験を実施し、検証がなされる予定だという

    KDDIブースには、NTTドコモと共用できるミリ波の中継器も展示。今夏に東京の上野恩賜公園にて実証実験を実施し、検証がなされる予定だという

その中継器を2社の周波数帯に対応させることにより、両社のミリ波のエリアを拡大し、安定的な通信を実現できるかどうかを、実証実験では検証していくようだ。ミリ波は届くエリアが狭い分、中継器も数多く設置する必要があり、その分コストがかかる。それゆえ複数の携帯電話会社で中継器を共用することにより、コストを抑えながらミリ波のエリアを拡大していきたい狙いがあるといえそうだ。

しかしなぜ、世界的に関心の薄れたミリ波に、携帯各社がいま力を入れているのか。各社の説明を聞くに、その理由の1つは、ミリ波は既に携帯各社に割り当てられ、使える状態にある周波数帯だからだ。

ミリ波は周波数帯域幅が広く、国内携帯4社に割り当てられている28GHz帯は、1社当たり400MHzもある。サブ6に分類される3.7GHz帯や4.5GHz帯が100MHz幅であることを考えると、その4倍の帯域幅を持つミリ波は、有効活用できればポテンシャルが大きいことは確かである。

そしてもう1つ、大きな理由となっているのが今後のトラフィック増加である。スマートフォンでの動画利用が現在のトラフィック増をけん引しているが、今後はそれに加えて、AIが大きなトラフィックを生み出すと見られており、通信の逼迫は待ったなしの状況にある。

NTTドコモが2023年の通信品質低下で信用を大きく損ねたことを考えると、増加するトラフィックで通信品質を落とさないためには、大容量通信に強いミリ波の活用も今後避けられなくなってくるだろう。そこで先手を打ってミリ波の活用を進めることにより、今後のトラフィック増に十分対応できる体制を整えておきたい狙いがあるようだ。

もちろん、ミリ波の活用に向けてはインフラ面だけでなく、スマートフォン側の対応機種が非常に少ないという、デバイス面での課題もクリアしていく必要がある。ただ、全く活用が進まず「鶏が先か、卵が先か」という議論が長く続いていたミリ波に対して、携帯電話会社の側が前向きな動きを見せ始めたことで、その環境は大きく変わる可能性がありそうだ。