厳密にいうと、早期警戒機は偵察機とは別のカテゴリーだ。しかし、敵を捜索して、その情報を友軍に伝達して活用してもらう、というところは同じである。使う手段が、目視やカメラからレーダーに変わるだけだ。

そのことと、これまで意外と深く取り上げていなかったこともあり、ここで取り上げてみることにした。

対象が違う

早期警戒機(AEW : Airborne Early Warning)とは、要するに「空飛ぶレーダーサイト」である。

普通、対空捜索・監視用のレーダーは地上に固定した形で設置されており、管制官が陣取る指揮所も併設している。そして管制官は、レーダー画面を見ながら友軍の戦闘機に針路を指示したり、敵情を伝達したりする。

その機能をまるごと飛行機に載せてしまったのが早期警戒機。ただし、単に「空飛ぶレーダー」として機能するものを早期警戒機、指揮管制機能を強化したものを早期警戒管制機(AEW&C : Airborne Early Warning and Control)、指揮管制機能をおおいに強化したものを空中警戒管制機(AWACS : Airborne Warning And Control System)と、それぞれ呼び分けることもある。

  • 航空自衛隊の早期警戒機、E-2Cホークアイ 撮影:井上孝司

    航空自衛隊の早期警戒機、E-2Cホークアイ

  • 米空軍のAWACS機・E-3セントリー

ところが、AEWとAEW&CとAWACSを明確に区別する定量的な閾値があるかといえば、そんなものはない。「当事者がAEW&CだといっているからAEW&C機である」「当事者がAWACSだといっているからAWACS機である」という程度のもの。

閑話休題。看板がどうあれ、早期警戒機の監視対象は主として航空機である。ただし洋上作戦では、艦船も監視対象に加わる。捜索の手段としてレーダーを使用するが、近年ではさらに敵が出す電波を逆探知する、ESM(Electronic Support Measures)を使用する機体も出てきている。

それに対して戦場監視機の監視対象は、地上を行き来する車両である。ところが、対空用のレーダーでは地上を行き来する車両の動静はわからない。そこで、静的なレーダー映像を得る時は、合成開口レーダー(SAR : Synthetic Aperture Radar)を、車両の移動について知りたい時はGMTI(Ground Moving Target Indicator)機能をそれぞれ使用する。

管制機能と通信能力がキモ

早期警戒機の能力を比較する時、素人目にもわかりやすい指標はレーダーの探知距離であろう。単純計算すると、カバーできる面積は探知距離の2乗に比例して大きくなる。

地上や海上にあるレーダーと違い、早期警戒機のレーダーは空中にあるから、飛行高度が高くなるほどに水平線/地平線が遠くなり、カバーできる範囲が広くなる。それこそが早期警戒機の存在理由である。「早期」という名前がつくのはそういう理由。

そういう意味では、飛行高度をあまり高く取ることができないヘリコプターは不利だ。いくらレーダーの送信出力を上げたり、アンテナの利得を上げたりしても、物理的に水平線や地平線が近くなってしまうのはどうにもならない。

話を元に戻して。実は、早期警戒機や戦場監視機において最も大事な能力は、データ処理の能力と管制・通信能力ではないだろうか。

レーダーの探知可能距離が長くなれば、カバーする範囲が距離の2乗に比例して広くなり、捕捉・追尾する探知目標の数も増える。コンピュータがそれに見合った処理能力を備えていなければ、処理しきれずにパンクしてしまう。

また、管制員が何人乗っているか、その管制員が友軍の指揮所、艦艇、航空機などと連絡を取るために使用する通信機の台数は十分にあるか。これも大事な要素である。見通し線圏内で使用するVHF/UHF通信機だけでなく、遠距離用のHF通信機や衛星通信機だって欲しい。

そして、無線機の台数が増えればアンテナの数も増える。無線機とレーダーとその他の電波兵器が互いに干渉しないようにアンテナを取り付ける、という厄介な課題も出てくる。

  • E-3の機内に置かれている、管制員用のコンソール。コンソールの数(=管制員の数)は、指揮管制能力を示す指標の1つ

大きな機体のほうが好都合

そういう意味でも、実のところ小型機は不利だ。管制員やコンソール、各種の機器を設置するスペースを十分にとれないし、アンテナ設置スペースも限られる。

米海軍が導入しているE-2Dアドバンスト・ホークアイのごときは、副操縦士が操縦を離れて、管制も引き受けられるような設計になっている。しかしこの機体の場合、空母に載せて運用するという前提だから、その時点でサイズと重量が限られてしまう。その制約の範囲内で最善を追求した結果、こんなことになってしまった。

その点、旅客機をベースにした大型の機体は有利。とりわけ、セミワイドボディのボーイング767をベースにした航空自衛隊のE-767は、機内スペースの面では最も有利である。搭載機器の改良については、米空軍のE-3セントリーの後を追っているのが実情だが、裏を返せばE-3の改良点を取り込めるということでもある。

また、スペースに加えて電力供給や冷却という問題もある。だから、単に旅客機に所要の機器を積み込めばOKというわけではなくて、発電機を増設したり、空調能力を強化したり、冷却空気の取入口を増設したり、といろいろ手を加えている。

そして、外側にレーダーをはじめとする各種アンテナが取り付けば、空力的な影響が生じるので、それに対処するためのフィンが取り付くこともある。インド空軍が、エンブラエルEMB-145に国産のレーダーを載せて早期警戒機をこしらえたが、外側にいろいろ取り付いた結果として、花魁のかんざしみたいな様相を呈していて面白い。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。