宮崎市のデル・テクノロジーズ宮崎カスタマーセンターが2005年にオープンし、その稼働をスタートしてから20年の歳月が過ぎた。現在在籍する社員は約400名で全員が正社員雇用だという。その半分以上がテクニカルサポートで、残りが内勤営業を担当している。このセンターの設立までは、サポート対応は中国・大連で行っていた。そのネガティブな印象を払拭するために新設されたのが、このセンターだ。

  • デル・テクノロジーズの宮崎カスタマーセンターが入居する旧寿屋デパートの入っていたビル

    デル・テクノロジーズの宮崎カスタマーセンターが入居する旧寿屋デパートの入っていたビル

当時は宮崎県や市がIT企業誘致を強力に進めていた。その流れは後の東国原知事誕生後の『どげんかせんといかん』の地域活性化ブームへと繋がる熱気の中、その方向性とも見事に合致した。繁華街(西橘通り/ニシタチ)や宮崎空港・宮崎駅からのアクセスに優れ、建物はかつて「寿屋」という九州内で知られた百貨店だったため、ワンフロアが非常に広く見通しが良い構造になっている。コールセンターは机を並べて全体を見渡しながら対応するため広いフロア面積が必要だが、現在でも宮崎市中心部でこれほどワンフロアが広い建物はない。宮崎駅前に新しくできた「アミュプラザみやざき」と比べても、こちらのほうが広いフロアを有している。宮崎特有のおっとりとした人柄や柔らかなイントネーションによる高いホスピタリティも大きな決め手となったという。

現在のデルの日本国内におけるサポートは東京・大手町とこの宮崎の2拠点で分担、クライアント製品全般およびエントリー向けサーバー・一部ストレージを宮崎が管轄している。拠点のエンジニアが受電からトラブルシューティング、修理手配まで一気通貫で行うワンストップ体制を採り、電話のたらい回しを防いでいる。

そのセンターを統括しているのがセンター長の林田匡史氏だ。同氏は、このセンターにもAIの足音が聞こえ始めているという。林田氏は、現場のオペレーションにAIを組み込みつつも、その限界を誰よりも冷静に見極めている。

  • 机を並べて全体を見渡せるワンフロアで構成されたセンターを案内するセンター長の林田匡史氏

    机を並べて全体を見渡せるワンフロアで構成されたセンターを案内するセンター長の林田匡史氏

顧客満足度(CS)アンケートは従来の11段階から5段階へ変更され、グローバル基準に則り「4・5」のみを高評価としてカウントするようにしたのは昨年度からだ。日本特有の「真ん中(3=普通)」評価を脱し「4以上」を獲得するため、相槌の工夫や使い方のアドバイス(お土産情報)を添えるなどの改善を日々重ねている。

テクニカルサポート部門の男女比は約5対5の半々であり、マネージャークラスも約半数が女性で、設立当初からこの比率は維持されている。現状、保証期間や構成の確認など定型的な照会はAIボットで完結するが、起動トラブル等の切り分けが必要な案件は有人サポートが中心だ。現時点で具体的な人員削減目標などは設定されていない。今後、単純な問い合わせをAIに委ね、オペレーターはより高度・複雑なトラブルシューティングや複数台案件へと業務をシフトさせていく方針だ。

現在のサポート業務には最新のAIやデジタルツールが積極的に組み込まれている。バーチャルアシスタント(お客様向けAIボット)にエクスプレスサービスコード等を入力することで、Web上でAIが初期切り分けを行い、そのままオンライン修理手配までを完了できる。解決しない場合は、有人テクニカルサポートへスムーズに引き継がれるという。

また、社内向けの顧客情報サマライズAIは、過去の問い合わせ履歴や修理歴の膨大なログをAIが2~3行に要約して提示する。受電時に過去の背景を瞬時に把握できるため、対応時間が大幅に短縮されるそうだ。さらにトラブルシューティング(切り分け)支援ツールは新人社員でもベテランと同じ精度で対応できるよう、顧客の症状を選択すると次のアクションや切り分け手順が自動提示され、サポート品質の均一化を図っている。

加えて、案件管理アラートツールは抱えている未完了案件の経過日数や問い合わせ回数をAIが監視し、早期対応が必要な案件をアラートで知らせる。ビジュアルリスニングは液晶割れなどの外損トラブルの際に、顧客から送られた写真をAIが画像解析し、画面割れの有無を自動判定して修理手配へ繋げたりもする。

今後の展望としては、各種ツールをSalesforceベースの顧客管理システムへ統合する開発を進めているほか、電話口の自動ガイダンスをAI音声化し、音声認識で用件を把握して適切な窓口へ振り分ける仕組みのテストを進めているという。

自動で電話応対のガイダンスが流れるのだが、そこがAIボイスになるわけだ。顧客は声で状況を伝えればいい。将来的にはAIに多くを頼りたいが、今はぜんぜんだめだと林田氏。英語ではよくても日本語ではぜんぜんだめだと嘆く。

AIモデルの学習データはグローバル共通で収集・蓄積されていて、その基本機能は英語圏向けに開発された後に日本語等へローカライズされたものだ。現在テスト中の音声自動応答(AI IVR)については、サービスタグ番号の聞き取り精度や日本語の言い回しに現場から見て課題が多く、現行の高い顧客満足度(約94%)を損なうリスクがあるため、実用化には慎重な姿勢をとっていると林田氏はいう。同氏から見れば、今のAIでは顧客満足度は60%程度にまで低下する可能性があるという。

われわれが、日常生活において分野を問わず、何らかの理由でユーザーサポートを頼る場面でも、いつの日からかAI対応を経験することが多くなってきている。だが、AIの対応が素晴らしいかというと決してそうではなく、なんとしてでも人間のオペレーターと交替されるように仕向けることばかりを考える。個人的にはサポートのAIが役に立ったという経験は皆無だ。

実は、林田氏も同じ考えで、まだまだAIをサポートの要に据えるのは難しいという。それらはあくまで人間のサポートを補助する用途に留まり、AIを顧客対応の中心に据えるには時期尚早だと考えている。

この日のセンター業務取材当日には、デルは、毎年恒例の親子向けパソコン組み立て教室を開催した。実際にノートパソコンの内部構造を見てもらいながら、パソコンがどのようなパーツで構成され、どのように組み立てられているかを肌で体感してもらうことがこの教室の趣旨だ。宮崎県内外から7組の親子が集まり、デル・テクノロジーズのテクニカルサポートメンバーがトレーナーとして各テーブルに付き、作業を全面的にサポートした。その結果、この日も誰も脱落することなく、一発で起動し正常稼働を確認できた。

  • 真剣に組み立ての作業をする参加者

    真剣に組み立ての作業をする参加者

  • 無事に組み立てを完了した参加者、全員に修了証が発行された

    無事に組み立てを完了した参加者、全員に修了証が発行された

冒頭に挨拶にたった林田氏はデルが「テクノロジーの力で人類の進歩を促進する」ことを掲げ、パソコンやサーバーなどのハードウェア製造に加え、サイバー攻撃を回避するセキュリティソリューションや、AIを駆動させるための高機能サーバー製品を数多く展開していることをアピールしていた。そのデルを支えているのは、今のところは人間であり、今のAIには荷が重いと林田氏は考える。

組み立ての工程では初めてドライバーを握る子供たちが真剣な表情で取り組んでいたが、小さなネジや細いコネクターの接続では、子供の器用さや指の細さが功を奏してスムーズに進む場面も見られたりしたのが印象的だった。20年前、デルはサポート品質向上のために対応拠点を海外から宮崎へ移した。そして今、その宮崎カスタマーセンターはAIを活用しながらも、人間によるサポート品質をどう維持するかという新たな課題に向き合っている。